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花乞・6
連翹様のお部屋を出た後は、菘の元へと向かう。もうお約束の流れだ。
今日の菘は畑の方で小鳥に餌をやっていた。
「菘」
「清白さん!」
声を掛ければ、菘は笑顔で飛んでくる。
どこか犬っぽいところのある少年にくすりと笑み零れてしまう。
けれど菘は、ぼくの前に立つなりふっと表情を陰らせた。
「ん?菘?」
「いえ!こないだぶりですね」
なんでもない、と首を横に振る菘にきょとんと目を瞬かせる。
「あのね、菘に差し入れ持ってきたんだけど、食べる?」
「食べます!!」
連翹様に半分食べられてしまった団子を差し出すと、菘は目を輝かせて受け取った。
「美味しい!」
にこにこしながら頬にいっぱい詰め込んで食べる様子に、こちらも嬉しくなる。
「ぼく、清白さんがつくってくれるものが一番好きです!」
「ありがとう。でも、そんなに慌てて食べると…」
「んんぐっ!」
喉に詰まらせて目を白黒させる菘に、ほら見たことかと、慌てて水を汲んできて手渡す。
「ぷはっ、ありがとうございます…死ぬかと思った…!」
「大袈裟だなぁ、菘は」
そんなところも少年らしいひょうきんさがあってかわいらしいと思う。
かわいい弟分としばらく話を弾ませていると、「あの…」と菘が窺うように見上げてきた。その視線は先程と同じように少し曇りがちだ。
「なに?」
「あ、あの…清白さん、槐隊長に酷いことされてるって、本当ですか…?」
「え…?」
菘がなにを言ってるのかまったく分からなかった。
槐様がぼくにひどいことを?一体なんのことだ?
「他の人から聞いたんです…。清白さんは槐隊長の慰み者にされてるって。だから辛夷様が気遣って、そういう薬を手渡してるって」
菘は顔を赤くしたり青くしたりしながら、言い辛そうにそう話した。
そこでようやく合点がいく。
そうか、以前の辛夷様とのやりとりをどこかで誰かに見られていたんだ。
あのとき周囲に人の気配はしなかったけど、ぼくはそう敏くないし、屋敷には遠望に長けた者もいる。気付かなかった。
正直、菘には槐様との関係を知られたくなかった。それでも。
「慰み者って…」
ぽつりと呟いて、目線が下に下にと落ちていく。
そう、なのかもしれないと思ったことはある。
槐様がぼくを抱く理由なんて考えてもわからなくて、だからぼくは側仕えの仕事に夜伽が含まれていると理解した。
だって単に性処理の道具に使われているとしたら、あまりに惨めだ。
それでも、外からそう指摘されてしまっては、もう認めざるを得ないじゃないか。
「ご、ごめんなさい…!失礼なことを言ってしまいました!でもぼく、もし清白さんが辛いなら、どうにかしてあげたくて…」
あまりにも悲壮な顔をしていたのか、菘は必死に言い募る。
辛いなら、か。
むしろぼくは槐様に抱かれたいと思っている。そのことを知ったら、この子はどうするんだろう。
「大丈夫。槐様はお優しいよ」
笑顔でそう告げるしかなかった。
空高くで大型の鳥が朗らかに鳴いていた。
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