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4一3
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匂いがするだなんて、自分は嫌な体臭でもするのかと自身を嗅いでいると、橘がふっと笑んだ。
笑顔ではなく、あの怖い方のやつだ。
「匂いってそういう事じゃねーよ。 空気っつーか、気配? みたいなもん」
「…………俺臭くない?」
「臭くねーから。 まだガキくせーけど」
「キィィっっ!」
「うるせーな。 奇声上げんなよ。 …で、何でここにいんのかな? 俺のストーカー君」
やはり橘は由宇を怒らせる事に長けている。
ここへ来ていた目的をも忘れるほど頭に血が上ってしまい、顔を真っ赤にして「ストーカーじゃないし」とギッと橘を睨むが何の意味も無かった。
加熱式タバコをしまいながら、橘は由宇を見詰めてくる。
由宇の行動の意味なんかお見通しだと言わんばかりの顔を見ると、教えてやりたくなくて口を噤んだ。
「……お、言わねー気? じゃあ俺もう行くからな」
分かっているのに知らん顔する橘がどこまでも憎らしいのに、由宇が知りたがっている事の当事者にして現に動いている張本人でもあるから、ここは我慢しなくては。
立ち上がろうとした橘を縋るように見て呼び止めた。
「…あ、……ま、待って! 週末、どっか行くのっ?」
「…………例の件でな」
「俺も行きたい」
「は? ダメに決まってんだろ」
急で唐突な申し出を、橘は鼻で笑って立ち上がる。
由宇は、行かせるもんかと橘のカッターシャツの袖を握ってもう一度言った。
「俺も行きたい」
袖を掴まれて動くのを阻まれた橘が無表情で由宇を見下ろしてくるせいで、怖くて思わず視線を外しそうになったが、ちゃんと耐えた。
(怜の家族を何とかしたい。 ほんのちょっとでいいから、その手伝いさせて…)
視線にそう思いを乗せて、橘が「仕方ないな」と言ってくれるのを期待した。
だが降ってきたのは期待していたそれとはまったく違った。
「ガキがオトナのやる事に首突っ込むんじゃねーよ」
「…………ガキって……」
「俺からしたら子ども過ぎて話になんねーよ。 俺の手伝いしてーならもっと成長してからにしろ。 今のまんまじゃ邪魔なだけ」
「………………………」
(そんな………そんな言わなくても……)
あんまりな言い草だった。
最近はあまりお目見えしていなかったミニナイフを、橘は遠慮なく由宇の心にグサグサ刺してきた。
と同時に、由宇の思いは一応伝わっていた事を知る。
「分かったら俺に任せてひょろ長の側に居てやれ……って、離せよ」
「ヤだ。 俺も行きたい。 連れてって」
立ち去ろうとする橘の袖を頑として離さない由宇の心は、見事にミニナイフを弾き返していた。
何となく、橘の真意が見えてきたからかもしれない。
この男は、言葉の裏に奥ゆかしいまでの優しさがある事を、由宇はもう分かっていた。
瞳がどれだけ凶悪でも、それが正義であると知る由宇にとっては、ビビリ上がっていた入学当初とは少し見方が変わってきている。
………まだ多分に恐怖を感じるけれど。
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