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16一3

実直な人間だからこそ、誤解をするとそのまま猪突猛進なのだろう。 園田家の問題解決の際、橘はこう言っていた。 『結果なんかぶっちゃけどうでもいい。 課程さえしっかりしときゃわりかし全部思い通りになる』 『事件起こりましたー、情報と証拠集めますー、はい解決』 『俺、短期集中型』 自分が信じた道を疑う事なく、証拠が揃えばそれに勝るものはないと、他の言い分は聞かずに一つの道だけを探ってシナリオを書く。 彼らしいと言えば彼らしいが、たまに、見落としてしまった新たな証拠に気付かない場合もあるだろう。 両親の喧嘩が激しくて離婚寸前だった頃に、由宇は気付いたのだ。 仲違いした両親は、よりを戻す事こそが解決になると思っていたけれど、「離れた方がお互いのためのプラスになる、幸せになる」と気付いてから、橘のシナリオ通りにいかない現実もあると知った。 現在は橘の立ち回りで良好な兆しを見せている両親だが、目の前が真っ暗だったあの頃はたった一つの道しか思い浮かばなかった。 道は一つじゃない。 皆が幸せになる方法を探してあげる事は出来る。 橘がそれを遠回しにだが教えてくれた。 そんな橘と過ごした時間は由宇にとってはかけがえのないものだから、いつまでも「猪突猛進」に誤解されたままなのは嫌だった。 それなのに怒りに任せてガブガブ噛まれては追及され、痛がる由宇は叫びに近い声色で決死の告白をした。 ピタリと動きを止めていた橘が、由宇にじわじわ覆い被さる。 真上から三白眼でジッと見下されて恐ろしく、由宇はほとんど裸状態の自身の体を寒くもないのに抱き締めた。 (な、なになになになに……! 怖い、目怖いよ先生…!) 「先、生……?」 橘が視線を逸らさない。 告白した矢先に無言を貫かれて、由宇は大いに戸惑った。 言ってはいけない事を言ったのだろうかと、妙な不安心を抱く。 そのまま見詰め合うが、数分経ってもまだ橘は微動だにしなかった。 「ね、ねぇ先生……なんか言ってよ…!」 「黙れ」 「だ、黙れって…っっ」 「いいから黙ってろ」 「…………っ??」 この状況で眉間に皺を寄せるのはナシだろう。 表情も、口調も、告白された者のそれではない。 いつも不機嫌そうな顔をしているが、現在、何故かまた魔王様が姿を現している。 「───腹立つ」 「…っっ? 好きって言ったのに、なん、なんで怒るんだよ!」 「早く言えよ」 「え、……えぇぇ……っ」 「すげぇ無駄な時間過ごしたじゃん」 「む、無駄な時間って…! そもそも先生が先に俺に冷たくなったんだろ!」 「仕方なくな。 そのすぐ後だったじゃねーか。 好きな人出来たってニコニコで報告してきたの」 「そうだよ、先生の事好きって自覚したのが、あの時だったんだもん…」 橘に冷たくされた事で自分の気持ちに気付けたというのもあるし、片思いはツラいだけではなかったから、この一年、無駄な時間を過ごしたとはまったく思わない。 由宇の貴重な片思いの月日を否定された気がしてムッとすると、橘に左頬をぶにっとつねられた。 はぁ、と深い溜め息を吐く橘は不機嫌さを隠さず、手のひらがつまんでいた頬から由宇の栗色の髪へと移動し、毛先を触って遊んでいる。 「………マジで腹立つ」 「だからなんでそんな怒って……っ」 「早く言えっつーの。 俺がどんだけお前を……」 橘は、由宇をキッと睨んで言葉を切った。 その先、……その先の台詞を由宇は待ち望んでいるのだ。 「なに? なになに?」 そこまで言ったならひと思いに喜ばせてほしいのに、橘の口元からベッと舌が出されて激しく落胆した。 「いや、言わねー。 お前調子に乗るだろ」 「乗らない! 乗らないから言って! 先生から好きって言ってもらえてないもん!」 「イくの二時間耐えられたら言ってやるよ。 あの枯れた花びらも、返してほしかったら我慢すんだな」 「に、二時間っ!? そんなの無理に決まって…!」 「俺は嘘は吐かねー。 お前の望み、何でも聞いてやる。 ……二時間我慢出来ればの話だけど」 魔王様はそう言って不敵に笑い、由宇の頭上から何かをいくつか手に取った。 両腕で由宇を囲っていた橘はそれらを持って腰掛け、何やらゴソゴソと始めている。 またいやらしい事をされそうな雰囲気なのに、イくのを我慢するなんて出来っこない。 となると、橘からの「好き」はそう簡単には言ってもらえそうにない……。 むくれた由宇の頭には、この言葉しか浮かばなかった。 「い、意地悪………!!!!」 「フッ…。 お前はそんな俺が好きなんだろ」 「………〜〜〜ッ好き!」 悔しいけれど、今やその意地悪な笑みさえ素敵に見える。 (くそぉぉ……っっ! 先生のこと好きって言ってから、さらにかっこよく見えちゃうよ〜〜っ) 橘からは言ってもらえていないけれど、由宇が射精を我慢すれば何でも言う事を聞くと彼は確かに言った。 出来る気はほとんどしないが、我慢、…してみようではないか。 「あんあん、よろしく」 「…んぁっ…!? んん…っ…! やっ…先生っ、それやだ…ぁ…っ」 橘の低い声が由宇の脳を直撃した。 それと同時に、ドロッとした液体がお尻の穴に塗り込まれ、そのまま橘の指先が入ってきてしまう。 たった今、我慢してやろうじゃないかと意気込んだその企みは、早くも崩れた由宇の嬌声によって橘の笑みに変わった。

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