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出会い:1
「ねえねえおにいさーん、俺らちょっとだけ金に困ってんだよねぇ。おにいさん金持ってそうだしぃ? ちょっとだけ貸してくれない?」
未だにこんな典型的なカツアゲをする奴らがいるのか、と律紀 は思う。
道端で話しかけられたのなら気づかぬふりをして歩き続けられたのだが、あいにくここは路地裏だ。たまにここら辺で見かける誰かの飼い猫を覗きに来ただけなのに。
「すみませんが、僕今から友達と会う約束をしているので。今日のところは勘弁してください」
軽く穏便に済まそうと、律紀は下手に出ると二人の不良は余計に調子に乗る。
「ああ? 今から出かけるんだったら金持ってんだろ? さっさとそれを出せば逃がしてやるって言ってんだよ」
「それとも何? ボコボコにされて無理やり奪われる方がお好みかぁ?」
呆れて声も出ない。
友達に会うというのはもちろん嘘で、ただ散歩ついでにルームメイトから頼まれた漫画の最新刊を買いに来ただけなのに。なぜこんなめんどくさいやつらの相手をしなければならないのか。
「なぁなぁ無視かぁ? それとも怖くてちびっちゃったかぁ? どっちでもいいから早くよこせ……アガッ」
「僕、勘弁してくださいって言いましたよね?」
「はっ?ちょ、こっちくん……グエッ」
全く、一応生徒会長という立場にいるゆえなるべく全て穏便に済ませたいというのに。温和で人当たりが良さそうな生徒会長が路地裏で不良達を気絶させたなんて聞いたら、二、三年はともかく一年の子達は多少たりとも怯えてしまうだろう。
「あー! 待ってよおにいさん! せっかくオレが颯爽と現れて助けようと思ってたのに」
ついでに買い物って気分でもなくなったので、気絶した二人は放置して頼まれた漫画を片手に寮の方向へと歩き始めた律紀は、上から降ってきたよく通る声に足を止める。
「どなたですか?」
「オレ? オレはおにいさんを助けに現れた正義のヒーロー! なんちゃって」
そう言い、その人物は建物の2階くらいの高さから飛び降りてくる。
第一印象は、変人。
ひざ下まである、下手すれば地面に着きそうなくらいのストレートな黒い髪。仮面舞踏会につけていきそうな、目元を隠す派手なマスク。しかもそこそこな高さから飛び降りてくる人など、変人と呼ばずなんと呼ぼう。
「はぁ、別に助けられてませんけど」
「そうなんだよねぇ。おっ、これはかっこいいところを見せて美人さんを惚れさせないと! って思ったのに、おにいさんったら腹に一発ずつ入れて気絶させちゃうんだもん。オレの出番がさぁ」
「それは残念でしたね、まぁ次は頑張ってください」
ツッコミどころは色々あったが、たたでさえさっきの二人組の相手で無駄な体力を使ったため、とりあえずこれ以上変な奴の相手などしていたくなかった。
「待って待って待って、話してる途中で逃げないで? あ、ってか名前は? オレはリアム!」
「リアム?」
その名前には聞き覚えがあった。
いや聞き覚えというどころではない、リアムといえば数年前に現れた有名な怪盗だ。確か盗みを働く時以外は、全く姿を現さないことで有名だったはずだが。
怪盗のくせに盗むのは自分のためじゃなくて依頼が来た時だけだとか、盗むというよりは不正に入手された宝石や絵画を元の持ち主に返すのが仕事とか、よく分からない噂をよく聞く。
そもそも怪盗って趣味じゃなくて仕事だったんだ、とその噂を聞いた時は思ったものだ。
「かの有名な怪盗様がなんでこんなところをほっつき回ってるんですか? 早く帰ったらどうです?」
「オレのこと知ってるんだぁ、美人さんに知ってもらえてて光栄だよ。ところで名前は?」
「ちょっと急いでるんで」
「ちょちょちょ! ストップ!」
変人に加え怪盗などそんな奴の相手をする気になんて全くならない、さっさと寮帰って寝よ、と思い律紀はその場を立ち去ろうとしたが、またもや彼によって足止めされる。
「知らない人に名前を教えるなって小学校で習ったので、その足どけてください」
「うんうん、氷室 律紀かぁ。いい名前だねぇ。」
「は? あ、おい!」
一瞬目をそらした隙にカバンから学生証を盗まれたらしい。さすが怪盗というかなんというか。
「はぁぁ、もう名前分かったんだからいいでしょう? 返してください」
「待って、夜鷹高等学校!? ふーん、すぐそこじゃーんいつでも会いに行けるね」
「いいから返して」
軽くストーカーじみた発言に鳥肌を立てながら、もう一度深いため息をついた後、半ギレ気味に問う。
「あ、敬語じゃなくなった。その方がいいよー堅苦しくないし。うーんどうしようかなぁ、ただで返すのもなぁ……あ!じゃあ来週もここに来てくれたら返すよ!」
「は? なんで?」
「いいじゃんいいじゃん減るものでもないし、ついでに今から敬語禁止も加えて」
名案だ、オレ天才、とでもいいたげな顔をして律紀を見るリアムにとうとう怒りも通り越して呆れ返る。
「ああもう返してくれればなんでもいいよ」
「よし約束!じゃあそろそろ行くねー、バイバーイ」
また会う約束を取り付けたリアムはあっさりと、でも嬉しそうに手を振りながら建物の上に登って消えていった。
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