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痛恨のミス 前

 目当てのお店は僕のお気に入りの食事処『焔亭(ほむらてい)』。とっても有名な冒険者さんが現役を引退した後に開いたお店なんだ。  現役の冒険者さんから各地の美味しい食材を仕入れてるから、メニューも盛りだくさん。特にお肉食べたいときはここが一番。  ちょっと早めの夕食だから席が空いてる。  へへ、嬉しいな。  もう少し時間が経つと冒険者さんや兵士さんたちでいっぱいになるから、ちょっと僕には恐ろしい場所なんだけど、味が絶品だからね。 「おう! 薬屋の坊主じゃねーか」  筋肉ムキムキ、髭の生えた巨大生物が話しかけてきた。このお店のマスターだよ。隊長さんよりも一回り大きくて僕からしたら壁にしか見えない。  お店の名前にもある『螺旋の焔』っていうパーティで活躍していたすごく強い冒険者さんなんだ。  この人に掴まれたら複雑骨折すると思う。うん絶対。 「マスター、こんばんは。今日のおすすめは何ですか?」 「今日はなんと、ランドレッドドラゴンの尾が手に入ってなぁ! ってことでおすすめはテイルステーキだ!」  なんですとっ!    かの、魔物肉の中で五本の指に入るほどおいしいといわれてて、美食家の冒険者パーティが一生に一度は食べるべき食材として謳っているやつですね。  ――姿はみたことないよ、当然。  マスターは腰に手を当てて胸張ってがっはっはって笑ってる。マスターもこんなに上機嫌になるぐらい珍しくて美味しいってことだよね。 「それってお高いんですよね……」 「いや、坊主は少なくてもいいだろ? 端の部分の小さいやつなら200ルッツだな」 「頂きます!」  やったー。一生に一度が今から食べれるよー。  200ルッツって結構奮発しちゃうけど、珍しさには勝てないよね。明日から少し食費をケチらないと。  ほんのり厨房からお肉の焼けたいい匂いが漂ってくる。どんなのが出てくるんだろう。すっごく楽しみ。    マスターがズンズンと歩いてきて、僕のテーブルにお皿をドンって置いた。 「はい、おまちどうさん!」 「――ええ!? 大きいよ、マスター!」  僕の顔ぐらいの大きさがあるステーキがデンとお皿に乗ってる。厚みもあるし、これは食べきれるか、かなり不安。この太さの尻尾って本体はどんな大きさなんだろう。ぶるり。 「これでも端の端だぞー。このぐらい食わないと大きくなれないぞ」 「ちょっと、マスター!」 「ま、頑張って食べてくれ。はっはっはっ」  はっはっはっ、ってねぇ。マスター、それってね、僕にとって地雷だから。これ以上食べても成長期終わってるから大きくなるのは横だけだから。  でも、ちゃんと食べますとも。頑張って完食いたしますとも。ありがたい命だからね。   では、いただきまーす!  んんんー、んまっ。  柔らかくて肉汁が溢れてくるよ。蕩けちゃうし、いつも食べてるお肉が石みたいに感じちゃう。それは言いすぎかな。  これは食が進みます。でもね、でもね、おいしいんだけど、お腹がきつい。でも宣言通り完食したよ。増えてきた冒険者さんと兵士さんにも励まされながら頑張ったよ。  くるしい。動くのしんどい。  200ルッツ分しっかり頂きまして、気持ちもお腹も満腹。吐きそうなぐらい。  歩いて帰ればお腹の具合も治まって、家に着くころにはお風呂に入れる状態にはなってるよね。    今日は幸せ気分で寝れそう。

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