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~エピローグ~
-雨が降っている。
「…本当に今日、出て行くのか?雨も降っているし、荷物も………」
心配そうな顔をして、眞司が言う。
(初めて見た…眞司のそんな顔……)
「大丈夫、そんなに荷物、ないから…これだけ」
僕は持っていた荷物をひとつ………掲げてみせた。
中身は眞司がくれた携帯、僕が他の人に抱かれている姿を撮したDVDやアルバム。
眞司が僕にくれた物は、これで全部。
………これも保に捨てられちゃうかもしれないけど。
(でも…それまでは僕の物)
僕の言葉に眞司はホッとした様子をみせた。
僕が出て行った後、眞司は雅樹にと一緒に住む事になるのだろう。
後悔はしていない。
(眞司が幸せなら、それでいい)
本当に、そう思っている。
「…行くあてはあるのか…?」
「…一旦、友人の家に行くよ…それからゆっくり考える」
眞司は今度こそ、目に見えてホッとした。
(………嘘だよ)
僕にそんな親しい友人なんていない。
「…じゃ、僕、もう行くから」
話す事がなくなった僕は、最後に眞司の顔を見上げると…そこには戸惑った顔の眞司がいた。
(…そういえば好きって直接、眞司に言った事、なかったな……)
不意にそんな事を思う。
(…1回くらい…言ったらよかったかな…)
でも、もう遅い。
今日が眞司と僕の別れの日なのだから。
「………じゃ」
出て行こうとした僕の手首を眞司が掴む。
「………あ………いや………」
僕の手首を掴んだ事に、眞司自身も戸惑っているみたいに口籠もる。
必死に僕に言う言葉を探しているのか、眞司の目が泳いでいる。
「…いや……その……今まで…色々……悪い…」
眞司の口から出てきた謝罪の言葉に、驚いて目を見張る。
(…眞司が……謝った………)
これも雅樹の影響だろうか…。
だとしたら、眞司は幸せになるだろう。
「……………さよなら」
眞司にニッコリ笑いかけると、ドアを開け出て行く。
後ろは振り返らなかった。
《二章へ》
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