46 / 144

恋と嘘と現実とー5

慌てて首を左右に振った僕を見て、治夫はクスリと笑う。 「俺はどっちでもいいんだけどな」 うわ~っ!うわ~っ!聞こえない!何にも聞こえないっ!! 僕は耳を手で押さえ、治夫の声が聞こえないようにする。 「な~に耳を塞いで聞こえないようにしてんだよ」 わ~っ!わ~っ!聞こえないっ!!ヤるとかヤられるとか聞こえないっ!!上とか下とか聞こえなかいっ!! 何にも聞こえないっ!! 必死で耳を塞いでいる僕の手を治夫は外そうとして、僕は外されまいとして二人ともに縺れ合い、倒れてしまう。 それを見たらしいクラスの女子達が「キャー♡」なんて黄色い悲鳴を上げている声が聞こえる。 何が「キャー♡」だ!! そんな面白がってないで、見ているんなら誰か助けろよ!! クラスの男子達も呆れたように僕達を見ているだけだ。 だからっ!! 見てないで、誰か助けろって!! その時、昼休み終了のチャイムが鳴った。 …助かった~。 チャイムに救われた~。 チャイムが鳴った事で治夫は僕から離れ、僕達を見ていたクラスの皆もそれぞれ自分の席に着き始めた。 僕も耳を押さえていた手を放して立ち上がる。 気が弛んでしまっていた。 そこを治夫に狙われた。 チュッ♡ ……………………………………………………えっ………? ………なんという事だ……治夫のヤツ、どさくさに紛れて僕の頬にキスをしやがった…。 慌てて周りを見回す。 幸い、クラスの皆には見られていないみたいだ。 治夫は僕にウインクをすると素早くクラスを出ていった。 治夫を叩く隙も、睨む間もなかった。 なんという素早さ。 オマケに、ウインクが綺麗に決まっていた事がムカつく。 …僕はウインクをすると両目を瞑ってしまうのだ…。 …なんか一気に脱力してしまい、ノロノロと椅子に座る。 僕が椅子に座ったちょうどその時、教師が扉を開けて教室に入ってきた。

ともだちにシェアしよう!