72 / 144

恋と嘘と現実とー31

「………失礼します……」 「遠慮しなくていいよ。今日、家、誰も居ないからさ」 玄関先で声をかけた僕に、靴を脱いて家の中に上がりながら千尋が言う。 結局、あの後、僕は千尋の黒い笑顔と脅迫に屈する形で千尋に腕を掴まれたまま、千尋の家に連れてこられたのだ。 誰だ。 千尋を爽やか君だなんて言って騒いでいるヤツは…。 畜生。 騙された。 爽やかなのは笑顔だけじゃないか。 だいたい、あの笑顔がいけない。 笑顔になった時、唇からキランと覗く真っ白い歯が千尋を爽やかに見せているんだ。 あれは詐欺だよな。 うん。 皆、騙されているぞ。

ともだちにシェアしよう!