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瞳の中、君にー17
「本当は黙っていようと思ったんだけどね…この事を知ったら、隼人が悲しむだろうから…でも、寧音がそうやって隼人を追い詰めるつもりなら、俺も容赦はしないよ」
「………酷い」
寧音の瞳から、涙が零れ落ちる。
だが、その涙を見ても治夫は何も感じないのか平然としている。
「…酷い?どっちが?…俺が記憶をなくした時に俺と付き合っていると俺や周りに嘘を吐く事?それとも俺に近付く為に、隼人を好きな振りをして付き合う事?それとも…隼人を階段から突き落とそうとした事?」
その言葉を聞いた瞬間。
寧音の顔から表情がなくなり、唇が震え始める。
「……………記憶が…?」
寧音の震える唇から、囁くような声が零れ出た。
「お陰さまでね…全て思い出したよ…まったく、やってくれるよな。人が記憶をなくしている間に…だいたい俺の記憶が戻ると思わなかったわけ?こんな、すぐバレるような事…寧音らしくない」
「………だって……仕方がないじゃない…」
「……は…?」
……仕方ない………?
「…仕方がないじゃない!!…どうやったって、治夫は振り向いてくれないし…いつも隼人、隼人って。隼人のどこがいいのよ!!同じ男じゃない!!それなのに…こんなの、おかしいわ!!間違っている!!」
涙を流し、地団駄を踏みながらヒステリックに喚く寧音を、治夫は冷たく見返す。
「…悪いけど、誰にどう思われようとかまわない。男とか、女とか関係ない。理屈じゃないんだ。それに俺は一途でね。初めて会った時からずっと隼人だけを見てきた。隼人が俺の事を好きにならなくても、この気持ちは変わらない…ずっとね」
「…何よ…隼人、隼人って…治夫は昔から隼人ばかり…横にいる私の事に気付きもしない…私だって初めて会った時からずっと治夫が好きだったわよ!!」
「…………………………」
「…隼人が私の事を好きになった時にやっと治夫は私の存在に気付いた…だったら…治夫に私を意識させる為には隼人と付き合うしかないじゃない!!…そうしないといつまで経っても治夫は私を見てくれないんだもの!!」
そこで一気に喋ったところで寧音は両手で顔を覆うと、わっと泣き出してしまった。
病室前の廊下で壁にもたれたまま寧音の叫びを聞いていた隼人は、そっとその場を立ち去った。
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