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 三人組アイドルグループ「CROWN」のリーダー、聖南(セナ)二十三歳は、今日の生放送の出番をご機嫌で待っていた。  元々ポジティブでマイペースで素も大差ないのだが、聖南以外の二人のメンバーはいつも以上にニコニコな彼を見て薄気味悪さを覚えている。 「セナ、どうしたんだよ? 今日は一段とすごいじゃん」 「気味悪いからちょっと真顔に戻ってろ」  同じくCROWNのメンバーであるアキラとケイタが、聖南の落ち着かないニヤニヤを他の出演者にすらチラ見されていたのに気付いて注意するも、今世紀最大に浮かれている聖南には響かない。 「嫌ー無理ー♪」  なんなんだ?と、二人は顔を見合わせた。  オープニングのテーマ曲が流れ、いよいよ本番が始まるというのに大丈夫かとも思った。  台本通り五組のアーティストがセット裏で待機し、一組ずつ司会者によって紹介されつつ出て行く、よくある感じの音楽番組である。  しかし生放送かつ長寿番組だという事、加えてゴールデンタイムという視聴率が伸び切る時間帯での放送なのだ。  CROWNは目玉アーティストのため出番が最後の方となり、セット裏での待機が必然的に他に比べて少しだけ長くなる。  本番がスタートされても、置かれた椅子に悠々と腰掛けているご機嫌な聖南の視線の先には、緊張でガチガチの葉璃が居た。 「やっばい。 やっぱ超かわいー。 さっき廊下ですれ違ってさ。 ガチでタイプだわ」 「ん? あぁ〜そういう事か。 どの子?」  ケイタが聖南の呟きに目敏く反応すると、聖南の視線の先を追う。 「珍しいな、セナが番組内でそんな事言うなんて」 「だってヤバくない? あの可愛いさ。 これはまさしく……一目惚れだ!!」 「ちょっ、声でけぇから」 「おっ、これは失礼」  興奮して右の拳をグッと突き上げて立ち上がると、同じく出番を待っている共演者達の視線が次々と突き刺さってきたので、すかさずアキラに注意された聖南は一連の動作のように自然に元の態勢に戻る。  結構な声量だったため、あの可愛こちゃんと目が合うかも♡と期待して見詰める先の葉璃は、ただひたすらに自身の手のひらを見詰めていて、聖南の事など少しも気に留めていなかった。 「あ、行っちゃう! 行っちゃうぞ!」 「そりゃ行くだろ。 てか俺らも出番だから」  葉璃の所属するmemoryという名のグループが、新人アーティスト紹介という枠で司会者から呼ばれてしまい聖南の視界から居なくなってしまった。  単に出番なだけだったのだが、はぁ、と分かりやすく肩を落とす聖南を無理矢理立ち上がらせたアキラは、しっかりしろよとマジのトーンで叱りにかかる。  いつも王様のようにふてぶてしくもある聖南だが、仕事だけはキッチリこなす男だ。  こうもマイペースで浮かれた聖南を見るのは初めてで、アキラとケイタは苦笑するしかなかった。 「ラストはCROWNの皆さんの登場でーす!」  リハーサル通り、司会者に呼び込まれた三人は舞台袖から持ち歌をバックに悠然とスタジオへと出て行く。  「CROWN」という名が出ただけで、左右に配置された観覧席から黄色い悲鳴が飛んだ。  聖南達CROWNが歌うのは四番手で、葉璃達のmemoryが今夜のラストだった。  この番組では、人気上昇中の売り出したい新人アーティストがトリであるパターンが多い。  葉璃達も例に漏れずそういう事になったらしいが、そんな事などどうでもいい聖南は、葉璃と端と端ほど席順が離れてしまったため、カメラの前にも関わらずムスッとしていた。  そんな聖南を横目に見て、本当にこんな事は初めてだと、アキラの溜め息が止まらない。  番組は中盤に差し掛かった。  そこで動きがあり、まもなくCROWNとmemoryの出番なのでCMの合間に司会者の横に並び直されたのだが、なんと聖南と葉璃は同列で隣同士になった。  いつものようにスタッフから、リードボーカルでトークも達者なリーダーである聖南が司会者の真横に座るよう指示があったが、聖南はこれを右手でゴメンのポーズを作って拒否し、memoryの横に陣取った賜だ。  あまり映らない事を想定していたのか、何も知らないスタッフのおかげで葉璃が聖南の隣になるというミラクルミスが発生し、このチャンスを逃す手はないと聖南は嬉々として着席した。  CM明けまであと二分。  聖南は柄にも無く緊張していた。 「衣装が当たって不快な思いさせたらごめんね」  何とか葉璃と話したい一心で、普段なら絶対に言わないどうでもいい事を葉璃の顔を覗き込んで言った。

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