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ふと、聖南のスマホがLINEの通知を知らせた。
── ハルカだ。
『……お忙しいのは承知していますので、返事はいりません。お体に気を付けて下さい。』
「……ふぅ」
読むだけ読んでLINEの窓を閉じた聖南は、ブラックコーヒーにミルクを二つ入れて口を付けた。
普段はブラックしか飲まないはずの聖南が、まろやかな口当たりのものを欲している。
ハルカと接触する事に成功した聖南は、何やら物凄い違和感を覚えてしまっていて、無闇に返信する事を躊躇っていた。
これだけ物分りのいい彼女なら、これからいくらでも好意が積み重なっていくに違いない。
だがあの日、後から来たハルカが聖南の想う〝ハルカ〟ではない気がして、妙な感覚に襲われていた。
その妙な感覚というのが何なのか分からないが、もちろんハルカ本人にそれを聞けるはずもなく、近頃聖南は一人になるとその事ばかりを考えている。
「左手……ギプスしてたっけなぁ……?」
連絡先を渡す際にチラリと見えた左手に、引き留めようと掴んだ時には無かったギプスの存在に気付いてしまった事で、聖南の心の中で巨大な違和感が生まれたのだ。
一度生まれた違和感は、そうそう消えてくれない。それどころか、考えれば考えるほどもっと重大な事に気付いてしまった。
左手ギプスの有無だけではなく、纏う雰囲気や、何より大事な瞳が違った気がした。
聖南にとっては、ただの瞳ではない。
生まれて初めての一目惚れが、その瞳だった。
── 佐々木マネと一緒に居たのは誰なんだろ……。
出番が控えているからとハルカを置いて早々に楽屋を出た後、廊下で出会った少年の瞳にハッとさせられた。
すぐに顔を背けられたが、何となくあの少年の事も気になっていて、〝この瞳の方がハルカに近い〟と思った事だけはよく覚えている。
「何なんだ? 狐につままれた気分だ……」
ハルカには申し訳ないと分かってはいても、自分に嘘は吐けない。
この妙な違和感の正体が分かりさえすれば、きちんと経緯を説明して不安にさせてしまった事を謝る覚悟も出来ている。
何しろ半ば強制的に聖南の方から接触、告白し、交際まで迫ってしまった手前、後には引けない。
日に日に文章が固くなっていくハルカが気の毒で、だからこそ聖南も、中途半端にはしたくなかった。
春香と葉璃がモヤモヤしていた日々に、聖南も聖南なりに葛藤していた。
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