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 葉璃と佐々木の会話の内容が気になりまくるが、玄関に居続けるわけにはいかないので、聖南は葉璃の手をギュッと握って一通り部屋の中を案内した。 「わぁー! ここに一人で住んでるんですかっ?」  窓から見える景色も十二階ともなると壮観で、広々とした室内や生活感が無く少ないけれど、置かれた家具家電の豪華さに葉璃は素直に興奮している。  そんな葉璃の反応に気を良くし、頷きながら、落ち着かない葉璃をふかふかのコーナーソファに座らせた。 「コーヒー飲むか? 甘いの作れるようになったから」 「いいんですかっ? じゃあ……お願いします」  いつ葉璃がこの家に来てもいいように、自分では絶対に飲まないカフェオレをさらに甘く作る方法を調べて、聖南は夜な夜なこっそりと練習していた。  コーヒーメーカーに水を注ぎながら、思い出す。  お見舞いに来てくれたあの日、葉璃が自販機で買って飲んだと言っていた紅茶も淹れられるようにならなければとふと思った。  しばらく仕事から離れる身なので、練習する時間はたっぷりある。 「聖南さん、体大丈夫ですか? ……疲れてますよね」  ゆっくりとした動作でコーヒーの支度をしていると、ソファからそう心配の声が飛んできた。  「聖南さん病み上がりだから俺も手伝います」、と気を使う葉璃を無理やり座らせたからなのか、キッチンでゆらりと動く聖南を可愛い視線が追い掛けてくる。 「疲れてるように見える? 葉璃が来てくれた次の日からずっと人と会ってたからなぁ」 「あぁ、仕事関係の?」 「そうそう。 で、葉璃はちゃんと学校行ってたか?」  あまり顔には出していないつもりだったが、葉璃の言う通り、慣れない入院生活や休み無くやってくる関係者の相手、昼夜問わず鳴り続ける電話の対応にと、疲労困憊なのは確かだ。  その合間に入る葉璃のメッセージにほっこりしても、次々と見舞い者が来て息つく暇もなかった。  あの日以後、学業優先だと伝え葉璃とは携帯でのやり取りのみで正解だったかもしれない。 「行ってましたよ。 退院の日まで病院来ちゃダメって聖南さん言うから……」 「俺も会いたかったけど仕方ねぇだろ。 早退して来てくれたんだから、学校ある日に来させらんねーよ」 「土曜日は学校ないから行けたもん」  言いながらぷぅと頬を膨らませている様は、何とも言い難いほど可愛い。 『また もん とか言ってるし……可愛すぎだろ!!』  内心悶えながら、葉璃のために作った甘いカフェオレの最後の仕上げにバニラエッセンスを三滴垂らす。  いかにもお見舞いに来たかったと言わんばかりの発言に、喜びを隠しきれなかった。 「ちょうど事務所の奴らとか来てたから葉璃来てもまともに話せなかったと思う。 ほら、膨れてねぇで飲んでみろ」  この時期だと暑いかもと思ったが、バニラエッセンスを香らせたいがためにホットにしてみた。 「美味しい……っ」  小さな両手でマグカップを持ち、唇を尖らせてフーフーする葉璃のそれに吸いついてやろうかと不埒な事を考えながら、聖南も隣に腰掛け、自身は濃い目のブラックコーヒーを飲む。 「これ聖南さんが作ったんですかっ!? 毎日飲みたいくらい、めちゃくちゃ美味しいです!」 「良かった。 これ毎日飲みたいなら早く卒業してここに来い」 「えっ……?」 「葉璃も住むんだよ、ここに」 「そ、そんな先の話……」 「先でもねーだろ? あと一年ちょっとだっけ?」 「そうですけど……」  いきなり未来の話をされて戸惑うかと思ったが、葉璃は意外にもほんのりと頬を染めて嬉しそうだ。  聖南は傷跡が引きつるせいで長い足を組めないため、オットマンがある方へ移動し葉璃と密着した。 「いつ佐々木とランチしたの?」  マグカップをガラステーブルに置いたのを見計らい、葉璃の肩を抱いて先程の疑問を紐解いていく。  問い詰める事の出来る恋人の特権を、フル活用だ。 「急にですかっ。 佐々木さんと……うーん……ちょっと前ですよ」 「曖昧だなー。 じゃあ、あの話って何?」  全部聞こえてたんですね、と苦笑する葉璃に構っている余裕など無く、聖南は遠慮なしにグッと肩を抱き寄せた。 「あーそれは……。 聖南さん前にしてすごく言いにくいんですけど、俺をデビューさせようっていう話があるらしくて……」 「あ? マジで? ソロ?」  佐々木との意味深な会話が聖南の不安を煽るようなものではなかった事に安堵しながらも、葉璃にそういう話がきているとは驚きだった。 「分かんないです。 俺の返事と話し合いで、ソロかユニットか決まるみたいで。 ユニットってなっても、少数だそうです」 「そうなんだ。 そこまで話詰められてんのか。 てか葉璃はそれ断ってんの?」 「はい」 「なんで?」 「なんでって……。 俺には分不相応ですから。 こないだのは春香のために仕方なくやりましたけど、人前に立つ仕事はしたくないです」

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