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「はーる、おいで」
自身ですら感じた事のない怒りを必死で抑え、佐々木の車から降りてきた葉璃を努めて優しく呼んだ。
葉璃が怖がらないように、いきなり現れた聖南に戸惑わないように、作り笑いまで浮かべて。
「聖南さん…っ」
この状況で笑っている事が余計に恐怖を駆り立てる事など、怒りで全身が震えている聖南は気付きもしなかった。
驚いた葉璃がバタンっと助手席のドアを閉めると、窓が全開だったので、聖南は車に近付いて屈んだ。
「佐々木さん? 葉璃にメシ食わせてくれたみたいで、あざっす」
「構わないよ。 じゃあ葉璃、いつでも連絡して。 セナさんに乱暴されないよう、今日はお家に帰りなさい」
「あぁ?」
憤った聖南にフッと一瞬だけ笑んだ佐々木は、葉璃にだけ目線を向けてそれから去って行った。
見届ける間もなく、聖南はすぐさま葉璃の腕を取り、自身の車へ乗り込ませる。
「聖南さんっ、痛いって!」
掴んだ手が殊更強く葉璃の腕を引いていたらしく、珍しく大きな声を上げて聖南を見た。
「悪りぃ…痛かったか?」
運転席に落ち着いた聖南が葉璃の腕を優しくさするが、まさに心ここにあらずだった。
すべてが無意識で、聖南にはまるで余裕がない。
「…………大丈夫です。 ……てかなんで俺ん家に?」
「なんで? 俺はお前の何だっけ?」
「……………恋人…………?」
「だよな。 恋人が他の男と一緒にいるとか、男の車に乗ってるとか、メシ食いに行くとか、許せるはずねぇじゃん」
とりあえず俺ん家行くから、と聖南は葉璃の怯えた表情にも怯まず車を発進させた。
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