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「あ、あの、っ聖南さん……っ」
「……あ? 話は部屋行ってからな」
駐車場に着くと、またも荒々しく葉璃の腕を引く。 痛がる素振りを見せたが余裕のない聖南は構う事が出来ない。
葉璃の気持ちがもう少し育つまでは、絶対にこの部屋には入らせないと決めていたベッドルームにやすやすと入ると、聖南は乱暴にジャケットとワイシャツを脱ぎ捨てた。
「何? 葉璃も俺のこと好きって言ってくれてたの、嘘だったわけ?」
「う、嘘じゃ……」
上半身裸でベッドに腰掛け、聖南の怒りが伝わってオロオロしている葉璃を足の間に立たせる。
葉璃の両腕をしっかり捉えて、痛がろうとも絶対に離さなかった。
「じゃあなんであいつとメシ行ったりすんの。 あいつお前の事好きじゃん。 ダメだろ、そんな奴と二人きりになるのは」
「……なんで佐々木さんが俺の事好きって知ってるんですか」
「あんなの態度で見え見えだろ。 ……て事は何? 告白でもされた?」
「……はい、さっき……」
「…………マジかよ。 で、葉璃は何て言った」
「………………」
得体の知れない静かな猛獣を思わせる佐々木は、聖南と葉璃が恋人関係になったことには勘付いているはずで、にも関わらず告白したなど葉璃に本気だと言っているようなものだ。
告白されてどう返したかを言おうとしない葉璃は黙ったまま俯き、ひたすらフローリングを見詰めている。
怯えた葉璃を前にすると怒りも若干削がれてしまうが、許せないものは許せない。
「俺を不安にさせるなって言っただろ、葉璃」
「…………はい」
「もうちょい待つ気でいたけどさ、もう無理だわ」
「……わっ……んんっ」
言いながら葉璃をベッドへと押し倒し、強く口付けた。
怒りをぶつけるかのように激しく口腔内をまさぐり、葉璃の舌に噛み付く。
『葉璃、葉璃っ、…………』
葉璃のすべてが自分のものだと、聖南の所有物であるという証が付けばいいのにと、本気で思った。
生半可な気持ちで葉璃を追い掛けていたわけではない。
性別をも超越した必然性をこの瞳に感じたから、無我夢中で欲したのだ。
根暗でもいい。 葉璃のネガティブ思考など聖南のポジティブさで補える。
「俺なんか」と言わせないようにするにはどうしたらいいか、聖南は常に考えていた。
『俺だけを見ろ。 俺だけのものだろ、葉璃……っ』
やっと捕まえた可愛い恋人が、よもや自分ではない男と二人きりになるなど、状況故に葉璃と会う事を我慢せざるを得なかった聖南には怒りしかない。
「んっ……!」
怒りをぶつけるように消極的な舌を吸い上げて絡めていると、ふと葉璃の唇から甘いカクテルの様な味とアルコールの風味を感じた。
「葉璃……もしかして酒飲んだ?」
眉を顰めて至近距離で問い質すが、
「の、飲んでな……」
と葉璃は頭を振って否定した。
酒でもないのになぜアルコールの様な味がするのか分からず、葉璃の唇をもう一度舐めるも答えは出ない。
「なんだ、この甘めぇの。 カクテルっぽい」
「……? ……ん、っ」
自分の知らない所で、気に入らない男と飲み食いした事実だけで嫌になるのに、謎の甘い味にもっと苛立ちが増した。
世の中では大半が、恋人以外の者と食事に行くまでは浮気ではないというらしいが、聖南には到底信じられなかった。
葉璃の傍に寄る者すべて、それがたとえ教師でも友達でも、葉璃の父親でさえも嫉妬してしまいそうになるのだ。
それが、葉璃に告白したと抜かすあの眼鏡マネージャーが一緒だったと思うと気が狂いそうだった。
「んっ……やっ……んんっ」
しつこく舌を遊ばせながら、固く目を瞑ったままの葉璃に馬乗りになり、衣服を脱がせにかかる。
すると今までにないほど葉璃が抵抗し始めた。
脱がせまいと手で衣類を防御していて、それでもキスには応えてくれるその矛盾さがより興奮した。
互いにもぞもぞと両手を動かし、キスすらもおざなりになるほどの抵抗に『ここは流されるとこだろ』と憤慨気味な聖南は、キスをやめて葉璃を見下ろす。
「何してんの」
いやらしく舌なめずりをしながら葉璃を見詰めたが、目を開いた葉璃はもはや聖南にとっては最終兵器であるその瞳を向けてきて、内心たじろいだ。
「い、嫌です、……脱がさないで下さいっ」
「なんで。 あいつに何かされた? だから見せらんないの?」
「違いますっ」
「じゃあ何だよ。 俺もう待たないからな。 葉璃が自覚してくれなくて俺不安しかねぇ」
今日、今ここで葉璃のすべてを手に入れたいと告げると、ふいと顔を逸らされた。
顎を取って覗き込むと、その可愛い瞳には涙がたくさん溜まっていて、たじろぐどころの騒ぎではなくなる。
「なっ、泣くほど嫌?」
まさか泣かれるとは思っておらず、再びそっぽを向いた葉璃は涙を堪らえようと必死で、聖南は動揺を隠しきれなかった。
葉璃がどんなに嫌がっても手に入れるつもりではいるものの、感動や喜びの涙とは到底思えない、この状況で拒絶する理由を知りたい。
不安なのは葉璃だけではない。
拒まれた聖南も同じだけ、否、葉璃の涙の理由以上に不安でしょうがなかった。
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