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 二人は、時間通りにやってきたケータリングサービスのスタッフからこの日は中華を振る舞われた。  いつの間に頼んでたんですか?と、聖南の大きな黒色のニットパーカーを寝間着代わりに着た葉璃が、小声で問う声にニヤリとする。  以前もそうであったが、葉璃は実に美味しそうに食事をするので、素直に喜ぶ姿にそれだけで聖南のお腹も心も満たされた。  と言いつつ、本日初めての食事に聖南も舌鼓を打ちながら、こんなに食べ物を美味しいと感じたのは久しぶりだと感慨深く思う。 『セックスした後に葉璃と一緒にメシ食うなんて……幸せだ……』  大好きな人と、同じタイミングで同じものを食べ、美味しいねと笑い合う。  単純な事なのに、聖南にとっては何にも代えがたい素敵な時間だ。  セックスとはまた違う不思議な高揚感に、心がいたく落ち着いた。  細い体のどこに入っていくんだというほど、葉璃は次々に出される料理をデザートの杏仁豆腐までを綺麗に食べ尽くし、完璧なまでの仕事をしてくれたスタッフを見送った。 「ご馳走様でした。 美味しかったー!」 「あぁ、美味かったな」  リビングに戻り、ご機嫌でコーナーソファにちょこんと座った葉璃に、聖南が空き時間でせっせと練習していた紅茶を出してやる。 「あ、紅茶だ! 聖南さんが淹れてくれたんですか?」 「そう。 美味いか分かんねぇけど、飲んでみて」 「すごいですね……! いただきます」  葉璃の反応を一瞬たりとも見逃すまいと、瞬きも忘れて横顔をジーッと凝視する。  ふぅ、ふぅ、と湯気を切る唇がほんのり色付いていて色っぽく、なんと言っても、世の彼氏なら誰もが憧れる彼シャツならぬ彼パーカー状態の葉璃が五割増しで可愛く見えた。 『あーヤバ……めっちゃ練習した紅茶の出来も気になるけど、葉璃を食べたいって方が勝っちまう……』  口を付けて「ん〜」と良い溜め息を吐いた葉璃は、怖いほど見詰めてくる聖南に気付いてビクッと肩を揺らし、危うく紅茶を零しかけた。 「わっ、ビックリした……。 聖南さん目が怖いですよっ」 「あ、あぁ……悪い……。 葉璃に見惚れてた」 「何ですか、それ。 この紅茶すっごく美味しいですよ! 甘くて、それにこれは……何だろ? いい匂い」 「アプリコットだから、あんずの匂いだ。 気に入った?」  何も足さなくても甘くて美味しい紅茶葉をと思い色々と吟味した結果、フレーバーティーが一番葉璃に合いそうだった。  アップルとアプリコット茶葉の上質なものを手に入れてひたすら練習した甲斐があった。  香りと味を楽しむ横顔は、聖南も一緒に幸せな気持ちになるほどほっこりと安らいでいる。 「はい! あの甘いコーヒーも美味しかったですけど、この紅茶も美味しいです」 「そっか。 良かった」  中華の重たい食後感をさっぱりさせるため、やはり今日はアプリコットで正解だった。  穏やかな気持ちで聖南も同じものを飲みながら、葉璃の食後のティータイムに寄り添った。 … … …  まったりとした時間が流れていたリビングで、温かい紅茶を飲んだからか小さな子どものように葉璃が目をこすり始めた。 『眠いんだ……かっわいーーっ♡』  紅茶のカップ一式を洗っていた聖南は、葉璃の様子をキッチンから見ていた。 「葉璃ー、眠い?」 「……うん。 ……あ、すみません、はい」 「いいよ、敬語使わなくて。 ずっと気になってたんだよな」 「そういうわけには……」 「だってエッチしてる時は敬語使ってねぇし」 「え!?」 「気付いてなかったんなら言わなきゃ良かった」  驚いてこちらを振り向いた葉璃に、ついつい笑みが溢れる。  葉璃は律儀に敬語を使おうとしてくれているが、行為の最中はその意識まで保てていないようだった。  あの自然体な葉璃にも異常に興奮するので、気付いてしまったら直されてしまうかもしれない。 「えぇー全然気付かなかったです……」 「マジで、敬語とか気にしなくていいんだからな? 二人きりの時は特に」  そんな話をしながらも、聞いているのかいないのか分からない眠そうな葉璃に、おいで、と声を掛けて立ち上がらせると、聖南は過保護にも手を引いて洗面台へ行き、歯磨き粉を付けた新しい歯ブラシを葉璃に手渡す。  ん、と一声上げて歯ブラシを受け取った葉璃は、何の違和感もなくしゃこしゃこと歯磨きを始めた。 『なんだこれ……可愛すぎる……!』  無防備でいかにも眠たげな葉璃は初めて見たが、本当に高校生かと疑いたくなるほど幼くて、より子どもっぽさを増長している。  それは、小さくて可愛い、という視覚的なものではなく、聖南の心をくすぐる感覚的愛しさであった。  聖南も一緒に歯磨きを終えて、ぼんやりした葉璃の手を引くとベッドルームへ向かう。 「おいで。 ……マジでかわいーな、葉璃。 ほらこっち」 「……はい……」  横になった瞬間に安らかな寝息が聞こえてきそうなほど、葉璃はうつらうつらとしている。  ふわふわな毛布を首まで掛けてやり、腕枕をするためグッとその小さな体を抱き寄せた聖南は、このまま時間が止まればいいのにと何度目とも知れない「幸せ」を噛み締めた。

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