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聖南が見立てたスーツは、目利きのない俺でも一目で結構な値段がするだろって分かるくらいの代物だった。
袖を通し、ネクタイを締めて姿見鏡の前に立つ俺の姿は何だかちんちくりんに見えた。
「おっ、似合うじゃん! やっぱこの色で正解だったな」
俺のは、濃紺のスーツに、白で薄くストライプが入ったカッターシャツ、ネクタイは渋い赤だ。
スーツだけ見たらそりゃカッコイイけど、背の低い俺が着ると、入学式?もしくは卒業式?なんて、学校関連のセレモニーかと誤解されそうだ。
俺の背後に立つ聖南はブラックスーツで、グレーのカッターシャツにネクタイは一見青にも見える洒落た紫色だった。
手足が長くて様になるから、見惚れてしまうほど似合ってる。
「いいなぁ、聖南さん。 背が高いしカッコイイから何着ても似合いますよね」
「葉璃も成長痛落ち着いたらもう少し伸びるから安心しろって。 このサイズの葉璃も可愛いし、もし俺と同じ背丈になったとしても全力で愛してやるから心配するな」
「ほんとに伸びるかなぁ…。 聖南さん、こんな立派なスーツ、ありがとうございます。 怖いから値段は聞かないでおきます」
スーツの上等さに引いててお礼がまだだったと、ペコッと頭を下げる。
すると聖南は目を細めて笑い、スーツが皺にならないよう優しく抱き締めてきた。
「葉璃に喜んでもらえるなら、俺は何でもする」
「……ありがとう、聖南さん」
俺もゆっくり聖南の背中に腕を回す。
聖南がさっき付けてた香水…ダンヒルの大人の男って感じのセクシーな香りが鼻をくすぐって、思わず腰が疼いてしまう。
こうしてフォーマルな格好をしてると、聖南が何倍も輝いて見えて眩しいったらない。
しばらく沈黙が続き、夕暮れの落ち着く明かりが俺達の数分にわたる抱擁を静かに見守っていた。
そろそろ行くか、と聖南が俺の頭を撫でて車のキーを掴む。
「聖南さん車で行くんですか? お酒飲むんじゃ…?」
「いや、飲まねぇよ。 葉璃と帰って来なきゃだし」
なんの気無しにそう言った聖南の言葉で、俺は朝の佐々木さんとのやり取りを思い出した。
どうにかパーティーをそこそこで抜け出して、練習のためにダンススクールに行かなきゃいけないんだった。
今日もここへ俺と帰って来るつもりの聖南に、何と言って誤魔化そう。
いや、そもそも、影武者の話は聖南に言っといた方がいいのかな。
今や俺とmemoryは事務所が違うから、色々と話が複雑な気がして、どうしようとその場に立ち竦んでいると、聖南に顔をのぞき込まれた。
「はるー? どした? 眠い?」
「あっいえ! あの…今日はお家に帰っていいですか?」
「えー? なんで。 葉璃ママが帰って来いって?」
「そ、そうなんです! 連絡したらお迎えにも来るらしいから、聖南さんお酒飲んで大丈夫です! 良かったですね!」
聖南にこの話をするのは、佐々木さんからOKもらってからじゃないと…と思い、不自然に明るく振る舞った。
前回も超極秘任務だったし、俺の恋人だからって、独断で決めるのはよくないと思ったんだけど……。
「………何か隠してない?」
「か、隠してないですよっ?」
俺は精一杯誤魔化そうとしてるのに、聖南が穴が開くほどジーッと見詰めてくるから、もう何か勘繰られてるんじゃないかって視線を彷徨わせる。
「ふーーん。 相変わらず嘘つけねぇな」
「………………ッッ!?」
何で!? 何でバレてんの!?
すでに証拠を掴んだ名探偵状態の聖南が、ジリジリと怖い顔して近寄ってくるから、その迫力に圧されて俺は後退った。
「ほら、何隠してる。 言ってみ」
「………隠してないですって…」
「白状しねぇと一発やってクタクタにしてから行かせっぞ」
「やだ!!」
「じゃあ言え」
ひぇぇ……怖いよ〜。
とうとう壁に追い込まれた俺に魅惑の壁ドンを仕掛けてきた聖南に、こんな状況だからとてもじゃないけど、キュン♡なんてならない。
「…………だって言っていいのか分かんないし…」
「いい。 俺が許す」
「聖南さんが許しても、佐々木さんが……」
「あぁ!? また佐々木!? なんだよ今度は!」
聖南の物凄い剣幕に縮こまってしまう。
佐々木さんの名前を出したのがマズかったみたいで、火に油を注ぐ事になってしまった。
「こら葉璃! 昨日話したばっかじゃん。 俺を不安にさせるな」
「……………うぅ………」
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