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ゆっくりスタンドマイクの前に立った恭也が、一礼した。
「ただいまご紹介に預かりました、宮下恭也と申します。 5年前より、大塚芸能事務所のレッスンスタジオで、日々汗を流してまいりました。 今回このような大役を仰せつかりまして、非常に光栄な事だと感謝すると同時に、誠心誠意、驕らずに、芸に磨きをかけていきたいと考えております。 まだまだ未熟な僕等です。 ご迷惑をお掛けする事を承知で、多方面の先輩方のアドバイスが必要だと考えております。 どうかその際は熱いご指導の方、よろしくお願い致します。 ありがとうございました」
恭也の何とも立派な挨拶に、一礼して後方に戻っていく背中にたくさんの拍手が送られた。
いつものゆっくりな喋り方ではあったが、たどたどしく言葉が切れるような事がなく、意外と堂々としていて驚いた。
「宮下恭也さん、ありがとうございました。 続いて、倉田葉璃さん、よろしくお願い致します」
間髪入れずに葉璃が呼ばれ、歩き出す様を食い入るように見詰めた。
ポケットの中の手が震えそうだ。
「ただいまご紹介に預かりました、倉田葉璃と申します。 ……このような素晴らしいお話を頂いた時、僕は、こんなにキラキラした場に居させてもらえるような器ではないと思っていました。 まだ正直、その気持ちはあります。 心がついてこなくて、こうして皆様の前に立っている今も足が震えています。 ですが、現時点で関わって下さっている関係者の皆さんに力強く、そして温かく背中を押してもらって、僕は、決心しました。 期待に応えられるように、精一杯がんばります。 僕は世間知らずで、何も知らない子どもと変わりません。 色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、これから、どうぞよろしくお願い致します」
ペコッと頭を下げた葉璃は、胸に手をあててフーッと息を吐きながら一度だけ聖南を見てから、恭也の隣に戻っていく。
葉璃にも惜しみない拍手が送られ、会場からは「可愛いー♡」「頑張れー♡」という応援の声があちこちから飛んでいたが、恭也に腕を支えられて放心状態の葉璃にそれは届いていない。
司会者にも、今にも緊張で倒れそうな葉璃が若干イジられていて、会場の笑いを誘った。
健気で正直な挨拶と、両手にぎゅっと拳を作って必死に話す様は、この会場の芸能界に居る者達や社会人として長くトップに立つ者達にとっては、さぞ初々しく可愛らしく映ったに違いない。
『……かわいーな、もう…』
皆の前に立って緊張で足が震えているなどと言われれば、つい応援したくなるだろう。
震えながらもよく頑張った葉璃を、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られた。
そんな中、最後にもう一度社長から二人へ労いの言葉が掛けられていた。
ユニット名は来年夏頃に社内報で発表し、その後マスコミにも随時流していくとの報告もあって、二人のデビューお披露目会は終了した。
恭也に連れられて戻ってきた葉璃は、壇上の時と変わらずまだ緊張が解けていないようだった。
聖南が傍へ歩み寄り、労いの言葉を掛けようとすると、「聖南さん……」と思い詰めたように真剣に見詰められた。
「ん?」
「………全然、じゃがいもに見えませんでした……」
『…………………………』
緊張しました〜とへの字眉で訴えてくるかと思ったら、聖南の思考が一瞬止まるほどのまさかの言葉に、労いの言葉を掛けるのも忘れて腹を抱えて爆笑してしまった。
『大丈夫だ、この子は! 俺より強えかも!』
そう改めて感心しながら、その後もしばらく笑いが止まらなかった。
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