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泣くのを堪えているせいで、口が変な形に曲がる。
気持ちに応えられなくてごめんなさい、傷付けてごめんなさい、……。
はじめは全然会話が出来なかった俺に、スクールで顔を合わせた時は必ず「お疲れ様」と声を掛けてくれた佐々木さん。
少しずつ話が出来るようになると、今思えばいつもちょっとスキンシップ過多だった。
あれは、佐々木さんなりに好意を溢れさせてたのかもしれない。
恋愛のれの字も分からないお子様だったから、俺は──。
「そんなに謝らないでくれ。前も言ったと思うけど、好きになったのは俺の勝手。でも今日の葉璃見てたら、勝手は勝手でも、押し付けてしまうのはダメだよな。反省した。冷静沈着装って大人ぶってるけど、俺の精神年齢は高校生で止まってるな」
「い、いいんです、俺も悪いんです。好きにさせちゃった俺も……っ」
「……それさ、あんまり他所で言わない方がいいぞ。好きにさせてしまった自分も悪い、なんて言われたら……つけ込まれて押し倒されるよ、その場で」
「えぇ!? 分かんないです、もう。俺には……恋愛は難しいです……」
「それでいいんじゃない? そこはセナさんにおまかせして、葉璃はのびのびやれば。今のところはセナさんがしっかり手綱引いてくれてるようだし」
ね、と微笑むそれは、いつもの佐々木さんのぎこちない笑顔だった。
あまり他では見せない、ちょっと特別な佐々木さんの笑顔を見ると、何となく心が落ち着いてきた気がした。
勇気を出して、良かった。
下手くそな言葉でも、「ありがとう」と「ごめんなさい」を伝えたいと一生懸命紡げば、ちゃんと思いは届いた。
「そうだ。俺の昔の写真、見る?」
「えっ? み、見ていいんですか」
もしかしてヤンチャ時代を見せてくれるのってちょっとだけ興味津々に近寄ると、
「葉璃だけ、特別な」
内緒だ、と口元に指をやって、スマホを見せてくれた。
この部屋に入った時と随分空気感が変わった事にホッと胸を撫で下ろし、ニコニコで画面を覗いてみると……。
「…………っ!? こ、こ、こ、これ、佐々木さんでふか!?」
「あはは、葉璃、噛んでる。でふかになってる」
驚き過ぎて噛んでしまった唇の端を抑えて、俺は画面を凝視した。
「完全なヤンキー……じゃなくて、これ、暴走族ってやつじゃないですか!?」
楽屋には俺と佐々木さんしか居ないのについ小声になっちゃうのは、この写真のインパクトが凄すぎるせいだ。
問題の昔のヤンチャ写真とは、何十名といる派手な特攻服を着た怖そうなお兄さん達の真ん中で裏ピースを決めた佐々木さんのそれだった。
毎日ピシッとスーツを着こなして、髪型もごくごく普通の佐々木さんが、昔はこんなにロン毛で金髪で、おまけに眉毛もないなんて……!
「ま、真ん中ですよね、違いますか?」
「そうだよ。総長やってたから」
「そ、そそ総長……っ!?」
これは現実かと思って目をゴシゴシ擦って再度画面を見るも、当然ながら何も変わらない。
裏ピースで悪ーい笑顔をキメた佐々木さんがジッと俺を見てくる。
写真でですら物凄い目力だ。
「期待通りの反応で嬉しいよ」
「これは驚きますよ!! 俺、今の佐々木さんしか知らないんですから!」
「仲直りのしるし、な。いっぱい困らせたお詫びに、俺の黒歴史晒します」
ふふっと笑いながらスマホをしまった佐々木さんが、俺の頭をヨシヨシと撫でた。
「…………知りたくなかったかも……」
「あ、もしかしてまた押し付けた?」
「……仲直りのしるしなんでしょ。もう……まだ心臓バクバクしてますよ……」
衝撃の過去を知って、悪いけど、佐々木さんが俺を好きだの何だのっていう話が一気に飛んで行ってしまった。
昨日はあれだけツラくて涙まで零したのに。
黒歴史とやらの衝撃が上回った今、あの切ない時間を返してほしい。
「この事、セナさん以外には内緒ね」
「…………? 聖南さんにはバレていいんですか?」
「いいよ。ていうか、この扉の前に居るから全部聞いてると思うし」
「え!?」
「それに、何故かセナさんには俺の眼力効かないんだよ」
佐々木さんが喋りながら扉を開けると、そこにはほんとに、衣装のままの聖南が腕を組んで背中を向けて立っていた。
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