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珍しくCROWNの激励にやってきていた大塚事務所のスタッフ達は、聖南達の衣装を持って早々に帰って行った。
「なぜ葉璃くんが居るの?」
と帰る間際に不思議そうに問われたが、聖南は、
「事務所の後輩だし、俺らの来年のツアーに同行させよーと思ってるから見学にな」
などと誰にも相談していない事をサラッと言ってのけて、アキラとケイタ、そして葉璃をひどく驚かせた。
「聖南さん、俺何も聞いてないんですけど」
「俺も」
「俺も」
「だから今言ったじゃん」
ペットボトルのお茶を飲みながら、葉璃が座っている椅子の隣に腰掛けて華奢な肩に腕を回す。
二人の前にも関わらず、聖南は葉璃を自分の方へ寄せると大胆にも髪の匂いや首筋を嗅いだ。
「おいセナ、俺らの事見えてる?」
「いくら二人の事知ってるからって堂々とそんな…!」
二人と葉璃の動揺などお構いなしと言わんばかりに愛する恋人を嗅ぎ続けて、時折音を立てて耳に口付けている。
「ツアーの同行は葉璃と恭也にとってもいい事だと思うんだよね。 夏にマスコミにデビュー発表すんなら、俺らのツアー最終日にデビュー曲やらせてあげたらいい」
「聖南さん、分かったから離れてください! 話が全然入ってこない!」
「んー。 分かってんよ。 あっ、逃げんなよ」
逃れようと体を避けてはいるが、それ以上に強い力で引き戻されてまたフンフンと葉璃を嗅ぎ始めるので、葉璃もお手上げ状態だった。
「ハル、ちょっと我慢しといて。 とりあえず話聞きたい」
左耳をガプッとしてみたりやたらと葉璃にすり寄る聖南は、パフォーマンス終わりで少しテンションがおかしいようだったが、話は出来そうなのでアキラはひとまず着席した。
聖南の葉璃への行動に驚いてまたも鞄を落としていたケイタも、それを拾うとアキラの隣に腰掛け問うた。
「ツアーに同行って、ハル君と恭也君にバックダンサーやってもらうとか? それとも裏方?」
「そだなー、バックダンサーだな。 今まで付いてた子達って何人だっけ? 9人?」
「そう、9人。 プラス、ハルと恭也入れるって事か?」
「その予定ー。 俺らの全面バックアップもお願いしたいって社長言ってただろ? 後々CROWNと葉璃達をコラボさせよーとしてんだと思うんだよなー」
「あぁ、そういう事か。 切り離して別物として考えるんじゃなく、完全に弟分的な扱いでって事だよな?」
「そうそう。 うち男グループで売り出してんの俺らしかいねぇから、もう一つユニットあればコラボも余裕じゃん。 それめちゃめちゃ強みになるからなー。 …お前出番終わりまたシャワー浴びたろ?」
俺の匂いが全然しねぇ、と呟いてやっと葉璃から離れた聖南は、長い足を組みながらマイペースにもお茶を飲んでいる。
周囲の三人はきっと同じ思いで、しばらくその王様憮然とした聖南を眺めていた。
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