37♡ 2P お店の駐車場で俺はテイクアウトしに店内に入って行った聖南を待っていると、見覚えのある人物が店内から出て来た。 視力がいい俺はその人物が誰だかすぐに分かったけど、車内だし気付かれないかと思って知らん顔してたのに、その人は俺を見つけるとこちらへ向かって来ている。 隣には知らない女性が居た。 「お、やっぱハルじゃん！ おーい」 窓の外で手を振るのは、荻蔵さんだ。 ども、と車内で頭を下げると、窓を開けろというジェスチャーをしている。 「ハル、ハル～開けて」 「………こんばんは」 寒いから開けたくなかったのに、屈託のない顔を向けられては仕方が無かった。 隣には知らない人もいるしで、もしかして荻蔵さんの彼女かと思うと無下にも出来ない。 「どうしたんだ、こんな時間に？ この車って誰の？」 「誰？ 可愛い～。 こんばんは～」 荻蔵さんの問いと女性の挨拶が被って、俺はどちらに対応していいか分からなくてペコッととりあえず頭を下げる。 「いい車乗ってんなぁ、セナさんのだろ？ 今中いんの？」 「……はい。 ……あけましておめでとうございます」 「今？ ウケる。 あけましておめでとう。 今年もよろしく。 なぁなぁ、それって中身パジャマ？ やべぇ、やっぱ17には見えねー！」 駄目だ、完全に荻蔵さんペースになってて、俺はタジタジだ。 パジャマ姿をからかわれてムッとしたけど、荻蔵さんの彼女？も興味津々で俺を見てくるから怒った態度も出来ない。 「一言多いの健在ですね…」 「だって見てみろよ、めちゃくちゃ可愛いくない？ こいつこれで17なんだよ」 「え～ほんと？ 事務所の子なの？ 可愛いね～♡」 そろそろ窓閉めていいかな…。 入ってくる冷気と、二人のテンションに付いていけない。 荻蔵さんが俺の事をその女性に簡単に説明しているところをぼんやり見ていると、聖南が戻って来るのが見えて、心底助かったと思った。 荻蔵さんはもう慣れてきてたけど、隣の知らない女性からの視線はストレス以外の何ものでもなかった。 眼鏡姿のかっこいい聖南が戻ってくるなり、俺に絡んでる荻蔵さんを見付けて眉間に皺を寄せている。 後部座席にテイクアウトした料理が入った紙袋を置いた聖南が、荻蔵さんの元へ歩んだ。 「何」 聖南のブレない一言目に、俺は思わず吹き出してしまった。 二人もいるから、見えないように顔を背けてだけど。 「お疲れっす、セナさん」 「え！？ CROWNのセナ！？ どういう事っ？」 相変わらず荻蔵さんは聖南には動じてないけど、女性は分かりやすくたじろぎ、荻蔵さんが隣に居るにも関わらず瞳を♡にして聖南を見ている。 やっぱそうなるよな、聖南、かっこいいもん。 「馴染みの店が一緒だなんて最悪」 「セナさんもここ好きなんすね！ 店入ればいいのに」 「家でゆっくり食うからいんだよ。 葉璃、窓上げていいよ、寒いだろ」 「はーい。 荻蔵さん、それじゃ」 聖南のお許しが出た事で、俺は即座に窓を上げて荻蔵さんと女性との間に透明な壁を隔てた。 良かった、そろそろ指先が凍えそうだった。 窓を閉めても外の声は漏れ聞こえてくるから、俺は聞いてないフリでしっかり聞き耳を立てておく。 「セナさん、生も素敵ですね〜♡ その子とどういうご関係なんですかぁ？」 「あ？ …誰」 「俺の女、ですかね」 荻蔵さんは隣の女性をやはり彼女だと言ったけど、あんなに分かりやすく聖南にクラクラッときてて彼氏として嫌じゃないのかな。 「その女が俺に色目使ってきてるから、帰ったらちゃんと躾けとけ。 俺と葉璃との関係は荻蔵に聞いて」 じゃな、と言うと聖南は車に乗り込んできて、二人を残し構わずアクセルを踏んだ。 どうやら聖南も彼女からの視線の熱さに気付いてたらしい。 「荻蔵さん、彼女居たんですね」 「どうだか。 あいつも相当遊んでっからな」 眼鏡を中指で上げた聖南は、自宅駐車場へと入ってバックで駐車した。 ルームミラーとサイドミラー、バックモニターまで見ながらこの大きな車を器用に入れてしまうと、俺の頭を撫でて「降りよっか」と言ってきた。 車を降りて聖南に手を引かれてる間も、何となく見覚えがあるようなないような、あの女性の名前が思い出せなくてモヤモヤっとする。 「……さっきの女の人、どっかで見た事ある気が…」 「女優の木村奈美だろ。 荻蔵は女優とばっか遊んでるって有名だ」 「あぁ！ そうだ！ …へぇ〜荻蔵さん、遊んでそうなのはほんとだったんだ。 雰囲気が前の聖南さんと一緒ですもんね」 「なんだ？ それはぜってぇ褒めてないだろっ」 「あ、まぁ。 早い話が、チャラいって事です」 「葉璃……あとで覚えとけよ…」 「えぇぇ、何でですか！ ほんとの事言っただけなのに！」 「俺はチャラくねぇ！」 「チャラかったです！ 今は落ち着きましたけどっ」 料理を並べながら、ひとしきり聖南とこんな言い合いをして笑った。 聖南は何故かチャラいって言うとすごく嫌がってムキになるから、面白くて。 いつもからかってくるお返しだ。