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41★ 10・宮下恭也、感無量です。

 思わずニヤけてしまいそうな口元を覆い、誰からも表情を伺えないよう深く俯いた。  どうしたって、嬉しい。  嬉しくて嬉しくて、葉璃には悪いけど、すごく喜んだ。  せっかく抜け出してきた殼にまた閉じこもり、あからさまに動揺した葉璃の気持ちを、他でもない俺がクラクラと揺さぶったなんて嬉しくないはずない。  俺だけが大好きなわけじゃないって知って、浮かれないはずない。 「……恭也が喜んでる」 「な。分かりやすー」  アキラさん、ケイタさん、今だけは浮かれさせてください。  セナさんが言ってるだけで、葉璃の本心は別にあるのかもしれないけど、それでも、俺の心は曇り空から晴れ間に変わったように爽快な気分だった。  そうこうしていると葉璃が戻ってきて、個室内の変な空気に一瞬入ってくるのを躊躇していた。  いつもは会計にも三十分近く待たされるのに、今日はCROWNの威力なのかすぐに受付の女性が領収書を持ってやってきて、診察からあっという間に病院を後にすることができた。  お会計と言われた途端、その場に居た全員が財布を取り出して自分が払うと言い始めて、葉璃をひどく困惑させていたのは見ていて面白かった。  結局、珍しく本気で怒った顔の葉璃が皆を制して葉璃自身が払っていたけど、セナさんは納得いってないみたいだった。 「俺の成長痛なんかで、皆さんを振り回してすみません……」  申し訳無さそうな葉璃と俺は今、成田さんの車まで来てCROWNの三人をお見送りしようとしている。 「ほんとに二人送らなくていいの?」 「はい、皆さんお仕事中ですから一刻も早く戻ってください! 俺と恭也はごはん食べて帰ります」  成田さんにもセナさんにも「送る」と言われても、葉璃は遠慮しきりで頑なにそれには応じない。  葉璃の意思が固い事を知ると、セナさんもそれ以上は無理強いしなかった。 「とりあえず良かったよ、ハルの成長痛が落ち着いてるんなら」 「ほんとだよ。俺達が勝手について来ただけなんだから、ハル君がそんなに謝らなくていいんだよ?」 「いえ……もうほんと、心配かけてごめんなさい。お仕事の邪魔してしまって……」 「葉璃、んなのはいいから、時間ある時は連絡しろ。どんな小さい事でも、俺は葉璃の事知ってたい。寂しいっつって電話一本してくれ。じゃないと俺は不安になっから」  俺達の前でもお構いなしに、さっきの個室の時みたいにセナさんは葉璃の両頬を取って上向かせた。  ジッと見詰め合う二人の間には、もう誰も入る事の出来ない熱々な壁が出来上がってる。 「……はい、分かりました」  ふ、と葉璃が淡く微笑んだ事で、セナさんはようやく安心したように小さな葉璃の頭を撫でて車に乗り込んだ。 「じゃな、気を付けて帰れよ。恭也、葉璃よろしくな」 「おまかせください」  車内から手を振る三人の姿に、俺は力強く頷いた。  葉璃はみんなが乗った車が見えなくなるまで見送り続けて、早く行ってと急かしていたわりには、実はセナさんと離れがたかったんだとその背中が物語っている。 「葉璃、行こうか」 「……うん」  俺達は近くのレストランでパスタを食べて、やはりモヤモヤしていたらしい葉璃からの俺への質問が止まらなかった。  セナさんが言ってた事が本当だったと信じさせてくれるには充分なほど、葉璃の表情には余裕なんて無くて。  自宅まで送るって言ったのにそれも拒否した葉璃とのホームでの別れ際など、思わず抱きしめてしまいそうな事を言われてしまった。 「……恭也、俺がこんな事言うのは変だって分かってるけど、言わずにいられないから言うね。俺は恭也の二番目でいいから、ちゃんと俺の事も構って。あと、俺にだけは何でも話してほしい。 ……内緒は嫌だ」 「……分かったよ、ごめんね。二番目じゃないよ、葉璃は。一番だからね」  そう言ってあげると葉璃は「それは彼女に悪いから二番目で」と律儀に返してきて、そんな真面目なところも大好きだなぁって、思った。  同じような空気感の、こんなにも居心地の良い友達と出会えるなんて、夢にも思わなかった。  おまけに、俺が大好きだって言っても変に思わず、葉璃も真っ直ぐに返してくれる関係になれているのだから、俺にとっては贅沢過ぎる毎日を過ごさせてもらっている。  頭が良くて、運動神経も良くて、顔もとびっきり可愛いのに、どこをどう間違ったらそんなにネガティブになれるのってほどだった葉璃はもう、昔の葉璃じゃない。  俺は、葉璃の過去も今も知ってる唯一の親友。  セナさんには悪いけど、そこは、俺の方が上回っていると思ってていいよね?  ……葉璃。

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