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葉璃を安心させてやるにはどうしたらいいか、震えて強がる体を抱き締めながら聖南は頭をフル回転させた。
大切な葉璃は、この手からするりといとも簡単に逃げて行ってしまう術を知っているので、この状況は非常によくない。
何度も逃げられた殊更苦い経験を味わっているからか、聖南は背筋が凍りそうだった。
聖南の事は大好きでいてくれているはず。
だが葉璃は自分に自信がない。
少々根暗さが直っているとは言っても、今までゼロどころかマイナスだった自信をプラスにもっていくためには相当な時間が必要だ。
ならば、聖南と一緒に居なければならないように、そのたった一つの自信だけは付けておいてほしい。
腕の中でジッとしている葉璃をさらにぎゅっと抱き締めて、耳元で囁いた。
「ここでラジオ聴いてろ。いいな、逃げんなよ」
「……逃げないですよ」
「どうだか。俺がここ出たら帰る気だったろ。ま、俺は葉璃がどこ行っても見付けて連れ戻すけどな。公共の電波使ってでも」
「怖いですよ、聖南さん」
「そんな俺の事一番よく知ってんのは葉璃だろ」
何も心配するな、と付け加えて言い、葉璃から離れた聖南は眼鏡を掛けて会議室を出た。
二人が待つブース内へと入り所定の位置に座ると、本番三分前であった。
「ハル、大丈夫か?」
聖南の前に座るアキラが、進行台本を寄越してくれながら苦笑している。
パンケーキを嬉しそうに食べる葉璃が一転、愕然と雑誌を床に落とした姿を見ていた二人も気になって仕方ないようだ。
「いや、大丈夫じゃねぇと思う。とりあえず黙って帰んねぇように釘刺しといたけど、分かんねぇな」
「そっか……。ハル君ショックだったんだねー。現物見るとそりゃそうかぁ……」
『本番五秒前〜!』
防音ガラスの向こうから数人のスタッフが見守る中、CROWNのラジオはスタートした。
曲を流し、スイッチャーも兼ねた聖南が主に番組を回す。
リスナーからのメッセージを読み上げていると、番組中盤ほどで、パソコンでメッセージのチェックを担当するケイタが例の話題を取り沙汰した。
「セナー、触れずにはいられないくらいめちゃくちゃメッセージ貰ってる話題あんだけど、これ読んでいい?」
「何、どれ?」
生本番中で、その会話ももれなく電波に乗っているが二人は気にしない。
ケイタのパソコンの画面を見た聖南は、ふっと笑って頷いた。
「構わねぇよ」
今まさにラジオを聴いているかもしれない葉璃にとっては、リアルタイムで嫌な話題だった。
ケイタは、この話題を出す事によって葉璃が傷付いてしまわないか心配で、本番中にも関わらず聖南に確認を取ったのだが……。
その張本人は、心配無用と言いたげに眼鏡を上げながら余裕ぶって笑っている。
ほんとに?と聖南を見たケイタは、許しを得た事で渋々とメッセージを読み上げた。
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