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54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備完了〜④

★  さすがと言うべき葉璃の魅力的なダンスは、ダンサー九人の心を大きく動かしていった。  合同練習から二週間も経つと、葉璃もようやくビクビクして俺の背後に隠れる事も少なくなってきている。  まだ完全にではないけど、みんなが気を遣って優しく俺と葉璃に接してくれてるから、意外と早く慣れてきそうだ。  俺はすでに何人かと番号交換もしたから、親しくなれ始めていると思う。  あの日はやっぱり、合同練習初日ともあってセナさん達は収録を巻いて急いで駆け付けてくれたらしかった。  葉璃がセナさんにそう聞いたみたいだから、確かだ。  忙しい仕事の合間を縫って、その後も別々ではあるけどCROWNの三人が交互に練習に付き合ってくれてるから、ツアーリハの形はおおよそ出来てきた。  広いステージ上では、俺と葉璃は練習と同じく右端と左端のポジショニングだ。  移動はせず、その場でのパフォーマンスになるとの事で安堵した。  いよいよツアー初日が来週に迫っている。  ただ俺達は期末テストと夏休みに入る関係で、七月のデビュー会見が終わった週からの参加だから初披露は来月だ。  夏休みが明けたら土日のみの参加で、追加公演には出演しない事も決定した。八月半ばにデビュー曲が発売されて、追加公演の頃にはETOILEとしてのイベントやテレビ出演が入るから、らしい。  並行して、学校の進路もどうするか決めなきゃならないから大忙しだ。  葉璃は進路、どうするのかな……。  進学しようにも、もし仕事がたくさん入ってきたら勉強する時間も取れなさそうで大学は無理……だよね……。  ETOILEとしての将来を不安視してるわけじゃないけど、アイドルユニットって何歳まで出来るんだろう。 学歴だけでもきちんとしておかないと後々困る事になりそうだから、実は俺は両親共々、進学希望だったりする。  葉璃とこの話はした事ないから、大切なサプライズのライブが無事終わったらじっくり話してみないといけないな。  サプライズ決行日は、ついに明後日に迫っている。  別事務所である佐々木さんの根回しで俺と葉璃は明日明後日が休みになったから、今週の合同練習は今日までだ。 「お疲れー。葉璃、恭也、時間だから着替えろ。お前らは十五分休憩な」 「うぃーす」 「ハル、恭也、お疲れ〜」 「恭也、ハルちゃん、お疲れさま〜」  今日はリハ開始と同時に来てくれてるセナさんが、俺達の帰宅時間の十九時を知らせてくれた。  ダンスに夢中だったから、毎日時間を忘れて練習に励んでしまう。  こんな事になるなんて去年の俺は思いもよらなかったけど、毎日すごく楽しいなって実感している。  時間が経つのがこんなに早く感じるんだもんな。 「……お疲れさまでした」 「お疲れ様、でした」  みんなはトイレ休憩に行くみたいで、出入り口に居た俺には「お疲れ」と肩を叩いてくれて、葉璃は全員に頭を撫でられて髪がクシャクシャになった。  慣れてきた葉璃も髪を直しながらトイレに向かったから、今行くと混んでるだろうと思った俺は、先に着替えを済ませた。  無人のレッスンスタジオで葉璃を待ってたけど、五分経っても戻ってこない。  ……変だな。  混んでるからってそんなに時間掛からないよね?  心配になってトイレに向かったけど、そこにはダンサーの面々しか居なかった。  混んでたし上の階のトイレに行ったのかと思い、俺は階段を上る。  トイレの押し扉に手を掛けて少しだけ力を掛けると、中から葉璃の声がした。 「…………っ?」  ……いや、葉璃だけじゃない。  セナさんも一緒だ……!! 「もっ、……聖南さんっ……ここ誰が来るか……!」 「いいじゃん。ちょっとだけ」 「ちょっともダメっ……んっ……! ……っふ……ちょっ、マジでやめ……!」  ── ど、どうしよう。  ……葉璃とセナさんが始めちゃってる。  ゆっくり音を立てないようにトイレから遠ざかった俺は、階段の一番上に腰掛けた。  中の声は聞こえなくなったけど、あまりに生々しい葉璃の声を聞いてしまった俺は、ドキドキが治まらない。  二人が仲良しなのはいいけど、誰が来るか分からない場所であんな事……。 「あれ、恭也? そんなとこで何……」  ちょうどその時、階段の下に私服姿のアキラさんとケイタさんが通り掛かって声を掛けてきたけど、慌てて口元に人差し指をやった。 「……シーッ」 「……え? どうしたんだよ」 「何かあったのか?」  仕事終わりの二人は、肩に少し大きめの鞄を掛けていて、俺の行動に首を傾げながら階段を上がってきた。  どうしよう。これ本当の事言っちゃっていいのかな。あとで葉璃に怒られたりしたら、俺立ち直れないよ。  でもこんなとこに座って黄昏れてた俺に訝しげな視線を向けてくる二人を引き止めておかないと、葉璃がもっと恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。 「……今、取り込み中、みたいです」 「……取り込み中? みたい?」 「……取り込み中って、……」  上の階は会議室しかなかったから、用が無い日は誰も通らない。  だけど、万が一があるから俺は見張りをしようとここに居たわけで、二人にもそれとなく「取り込み中」って言ったんだけど……。  アキラさんはすぐに気付いたみたいで、みるみるうちに眉間に皺が寄った。 「……マジかよ。セナ達?」 「……はい」 「あいつマジで獣じゃん」  するとすぐにケイタさんも気付いて、俺とアキラさんを交互に見て驚きを隠さなかった。 「はぁっ? それマジなの? セナとハル君が? ど、どこで?」  上って会議室しかないよね、とケイタさんが驚愕したままだから、「トイレです」と正直に言っておいた。  こんなの、……誤魔化しようがない。

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