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─ 葉璃 ─  サプライズは無事、成功した……みたい。  この一ヶ月、ところどころ記憶も飛んじゃうくらいハードだったけど、すべては聖南のため。  聖南に想いを伝えて、誕生日プレゼントとして相応しい、誰が見ても恥ずかしくない完璧なパフォーマンスをしようって奮起して、今日までがんばった。  本番直前まで、恭也が教えてくれた「聖南」の文字を手のひらに書いて緊張しまくってたけど、あれだけ広い会場だと伸び伸びと踊る事が出来て正直楽しかった。  舞台の上から聖南を発見すると、周りの目なんか一切気にしないで全力で俺に向かって手を振ってくれてて。  それを見付けた時は嬉しくて嬉しくて、振り付けそっちのけで手を振り返してしまいそうになったっけ。  二曲目のラスト、真正面に居た聖南を見詰めて口ずさんだ愛ある詞は、ちゃんと……届けられたかな? 「わわっ……」  あの時の興奮が蘇ってきて、ホットパンツを履いてたらよろけた。  苦手かもって思ったけど、どうしても普通に誕生日を祝ってあげたいって思ったから、事前にコンシェルジュさんに預けておいたケーキもとっても喜んでくれてほんとに良かった。  その後、ずっと我慢してたのに俺がわんわん泣いちゃって主役の聖南を困らせて。  おまけにしゃっくりも出始めて聖南は大爆笑だし、ムードもへったくれもないまんま聖南の誕生日が終わってしまった。  ……と、思ったらまだ続いてるらしい。  ライブで着てた衣装をニヤニヤしながら手渡してきた聖南が、「俺のために着てよ」って、断れない言い方するから……着替えてる。  どうやってこれを手に入れたのかなぁ……。  バスルームにこもって着替えた後、鏡で位置を確認しながら小さい帽子が付いたピンを髪に留める。 「これ何なんだろ……」  普通のベレー帽じゃダメなのって思いながらも、みんなは「可愛いー!」ってはしゃいでたから俺は何も言わなかった。  女の子が可愛いもの好きなのはよく分かったけど、俺には理解できない。  衣装全体が薄いピンク色だからか、こうして見るとほんとに俺は女顔だなってつくづく嫌になる。  薄いピンクが似合うって嫌だよ。 「あ、ブーツまで入ってる。これは……室内だし履かなくていいよね」  この衣装を着て喜んでくれるならまぁ、いっか。サプライズライブの延長、アンコールみたいなもんだ。  俺はブーツを持って、ちょっとだけ足取り重くベッドルームへ戻る。  扉を開けると、立ち上がろうとしてたのか中腰のまま俺を凝視した聖南がジロジロ見てきてちょっと怖い。 「それも履いて」 「え、ブーツですか? 部屋の中ですけど……」 「いいから」  近付いてくる聖南の前で、俺はブーツを履いた。  五センチ踵のあるブーツのファスナーを上げて体を起こすと、すぐ目の前にギラギラした聖南が迫って来ていて一歩後退る。 「聖南さん……っ? 目が、目が……!」 「何? ……っつーかマジで……こんなかわいーのが俺のもんなんだって思うと……」 「いや可愛くないから! ……わっっ」  俺が後退る度にブーツの底が音を立てた。  その分聖南も追い掛けてきて、ついには抱えられてしまう。  身長差のせいでいつものように軽々と持ち上げられて、俺は慌てて聖南の首に掴まった。 「かわいーって。これはたまんねぇ……」 「聖南さん、もしかしてこの流れ……」 「お、分かった? 俺のワガママ」 「待って待って、こ、このままっ!? 嫌ですよ! 恥ずかしい……っ!」 「恥ずかしがってていいよ。その方が燃える」  絶句する俺を、聖南は不敵な笑みでベッドへ下ろした。  え、俺、いつ聖南のスイッチ押したんだろ……!?  ほんのついさっきまでこんなエッチな雰囲気は漂わせてなかった。  衣装を着て戻ってきた時、すでに雄の目になってたからヤバイかもって思ったらその通りになってる。  のしかかってくる聖南の瞳の中に、戸惑う俺が映っててもっと恥ずかしくなった。  でも、聖南の誕生日なんだから、ちょっと恥ずかしくても喜んでもらえるようにしなきゃだよね。 「……聖南さん、……舌……」  聖南の綺麗な赤茶の髪を触りながら、誘うように舌を出して見せた。  指先にピアスが当たってさり気なくそれを触っていると、くすぐったいと笑われた。 「葉璃はいつからそんなエッチな子になったんだ?」 「……聖南さんと出会ってから」 「ふっ。じゃあ俺のせいか」  両耳に光る輪っか状のピアスを弄んでいたら、俺の事、エッチな子って言ってきた。  そんなの、聖南がいやらしくてかっこいい表情するからいけないんだ。  俺はいつでも聖南の事大好きだけど、俺にしか見せない甘くて蕩けるような笑顔も大好き。  聖南にしか見せない俺のすべても、聖南は分かっててそんな事を言う。 「そう、聖南さんがぜんぶ教えたんでしょ……んっ……ん、……」 「……だな。……俺だけが知ってんだよな」 「……ふ、んんっ……っ……っ……ん……」  口を開かされて、舌を思いっきり吸われた。  絡ませてくる勢いに追い付けなくて、聖南の背中に腕を伸ばして俺も必死でその動きに付いていく。  聖南みたいに、キスをしながら喋る余裕なんか無い。  高い鼻先が頬に当たると、あぁ聖南とキスしてるんだなっていつもドキドキする。  抱き締められて、胸が苦しくなるほどの熱烈さに瞳を瞑って酔いしれた。 「……飲んで」  少しだけ唇が離されて薄く瞳を開くと、そう言った聖南に唾液を送り込まれた。  口の中に入ってくる聖南の唾液を迷わず飲み干すと、満足そうに幸福いっぱい微笑んで、今度は俺の口内からほんの少しの唾液を奪っていく。 「んむっっ……んっ……んーっ……」  ……苦しいよ。  聖南……俺の唾液だけじゃなく、いつも呼吸まで奪ってくんだもん。

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