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 CROWNの控え室に通された俺達は、ライブ会場から漏れ聞こえてくる歌声と歓声を遠くに聞きながら終了の時を待っていた。  ほんとは観に行ってみたかったけど、俺達は会見直後ともあって成田さんにやんわり断られてしまったから、控え室で大人しくしている。  メイク室のような大きな鏡の前には椅子が四脚あって、所々に三人の私物が置いてある。  中央には長机が二台くっついた状態で置かれていて、その上には飲み物や食べ物が所狭しと並んでいた。  そしてここにも三人の私物と思しき物が置いてあって、確かにその存在がある事を匂わせている。  壁際の衣装ラックにズラリと並んだキラキラした衣装達も圧巻で、ここがライブの舞台裏なんだと思うとCROWNのファン目線になってつい興奮してしまう。  大きな歓声とCROWNの歌声が絶え間なく聴こえてくるから、観に行きたくてウズウズした。 「葉璃、もう少しで、戻ってくるよ。そんなに、ソワソワして……」 「わっ、ビックリした! ハルと恭也じゃん!」 「おー! マジだ! お疲れ!」  恭也がまたクスクス笑っていたら、ライブ終わりのアキラさんが控え室に入ってきて俺達を見付けた。  居ると思わなかったみたいで、アキラさんは珍しく一歩引いて驚いている。  続けてケイタさんも現れて、ニコッと王子様みたいな笑顔をくれた。  二人の汗だくな姿を見て、お疲れさまです、と俺も立ち上がって笑顔を返そうとしたんだけど……。 「葉璃ーーーーッッ!!!!!」 「……っうわわわわっっ……!」  アキラさんとケイタさんの間をすり抜けて、長身の男が俺目掛けて勢いよく走り寄ってきた。  ライブ終わりで大興奮中の聖南に抱き締められたけど、体当たりされたんじゃないかってくらいの衝撃があった。  もう少し体格差考えてほしい。  ちょっと痛かった。 「……っ聖南さん、お疲れさまです」 「お疲れーー!! 会いたかった!! 会いたくてたまんなかった!! 会見見た! 可愛かった! 恭也もお疲れ! アキラとケイタもお疲れ!」 「……セナ、うるさいよ」 「言いたい事まとめてから話せって」  聖南はほっぺたを強めにスリスリさせてきていて、アキラさんとケイタさんの声なんか少しも届いてなさそうだった。 「ん〜〜♡」  ……ライブ後の興奮状態の聖南って、いつも以上に色んな意味でスゴイ。  俺でもついていけないくらいベッタベタしてくるから、控え室に入って来た成田さんをギョッとさせるには充分だった。 「お、おい! セナ! すぐそこにダンサー達来てたから離れろ! 何やってるんだよ、早く着替えないと! 明日もあるから打ち上げは焼肉店でって事になってるだろ!?」 「あ、あーそうだったな! 葉璃、メシは? 食った?」 「はい、恭也と新幹線の中でお弁当食べましたよ」 「何個?」 「何個って……一個ですけど」 「じゃあまだ食えるな! 恭也も少しは入るだろ?」 「はい、まぁ……」  聖南は恭也に向かってグーサインをすると、離れろって成田さんに言われたばかりなのにまた俺をギュ〜〜ッと抱き締めてくる。  そうかと思えば謎の歌を歌い始めた。 「シャワー浴びないといけない〜けど葉璃と離れたくない〜俺はどうしたらいいんだ〜」 「……あの……ライブ後の聖南さん、いつもこんな感じなんですか?」  黙って見ていたアキラさんにそう問うと、いや……と首を振った。 「まぁテンション上がってんのはいつもだけど、今日は異常。ハル居たから嬉しくてたまんないんだろ」 「セナ、でもマジでもう離れないとダンサー達に目撃されるよ」  そうなんだ……俺が居て嬉しかったから、ライブ後の興奮も相まってこんな状態になってるんだ。  そんな事を聞かされると、俺もつい頬が緩んでしまう。  出会い頭に突進されたからまだ聖南の顔をまともに見れてないし、俺も嬉しいよーって思いながら体を離そうとしたら、みんなが居る前で唇を合わせようとしてきた。 「見せつけときゃいいじゃん! あー今すぐ抱きてぇ! 葉璃、せめてチューしよ、チュー!」 「やめろ!!」 「やめとけ!!」 「バカ言うな!!」 「何言ってるんですか!?!!」  呆気にとられて傍観している恭也以外の三人と俺の怒号が、控え室に轟いた。  興奮状態だからってこのテンションにはほんとについていけないんですけど!  必死で聖南の腕から逃れると、恭也の背後にサッと隠れた。  今聖南に近付いたら俺の身が危ないもん! 「あっ!! 葉璃! おいで! なんで逃げっかな!」 「おいでじゃねぇよ! シャワールーム行くぞ! ケイタ手伝え!」 「はいはい……。ったく……セナの暴走止めんの毎回大変だよ」 「あ、ちょっ……ッ葉璃ーー!! アキラとケイタが俺と葉璃を引き離そうとしてるぞ! 恭也助けて!」 「…………無理です」  何でだよー!と絶叫している聖南の両脇を抱えて、アキラさんとケイタさんが控え室から獣状態の聖南を連れ出して行った。  廊下からもまだ聖南の雄叫びが聞こえる。  恭也が冷静に聖南の味方に付かなかった事が妙に可笑しくて、シン……となった室内で俺は爆笑してしまった。 「あはははは……! 何あれ、ほんとに俺の知ってる聖南さん!?」 「……面白かったね。ツアー同行する日は、毎回あれが、見られるのかな」  黙って見守っていた恭也もついに笑いをこらえきれなくなったみたいで、口元を隠して肩を揺らしている。  当然だよ。  あの聖南さんが、まるで子どもみたいだった。  時折現れる甘えん坊な聖南とはまた一味違う、ヤンチャな子ども。  残された成田さんは長机に両手をついて脱力し、溜め息を二度溢した。 「はぁ……。はる君、よくあのセナと付き合ってられるな。大変だろ」 「さっきみたいな聖南さんは初めてでしたけど、面白かったです! 大変だなんて思わないですよ。ライブの後の興奮と愛情表現が合わさったんだって思ったら……可愛いです」 「あ、あのセナを可愛いって思えるのか……! さすがだね……」 「……大好きなんだよね、セナさんの事」 「うん! どんな聖南さんでも、ドンと来いです!」 「そ、そう……独り身にはツライくらい惚気てくれるじゃないか……」  ガクッと肩を落とす成田さんを励まそうと近寄ろうとしたんだけど、恭也に引き止められてしまう。  その視線には「ソッとしといてあげて」と言葉が乗っていて、俺の惚気に笑顔を向けてくれるのは、ここには恭也しか居なかった。

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