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未成年である恭也と葉璃もいるし、CROWNもスタッフも明後日まで気を抜けないからとの理由で打ち上げを早々にお開きにさせたのは、完全に聖南の私情である。
スタッフ達は尤もな理由を付けた聖南に称賛の拍手を送っていたが、本意を知る者達は隠れて笑っていた。
別れ際に、さすが口から生まれた男だな、とアキラに軽口を叩かれたが聖南はそれどころではなくギラギラしていて、何もかもどうでも良かった。
「んっ……聖南さ…………んんっ」
滞在先のホテルの部屋に入るなり、扉に葉璃を押し付けて唇を奪った。
打ち上げ会場で周りが驚くほどの食欲を見せた後だから、タレの甘い味がまだほんのり残っている。
待ち焦がれた葉璃の唇と舌は美味しすぎて、思わず食べてしまいたくなった。
「会いたかったよ、葉璃……」
本当は控え室で奪ってやりたかったが、葉璃本人を含む全方向から止められたので我慢していたけれど…限界であった。
唇を離して葉璃の両頬を捉えると、「よく見せて」と麗しい瞳に聖南を見詰めさせる。
「聖南さんだ………」
目が合うと、葉璃がそう言って可愛く微笑んだ。
すぐに衣服を取り去っておかしくなるほど愛し合いたいのに、何故か胸がいっぱいでなかなか次の行動に移せない。
今までもずっと「好き」「愛してる」と心に宿して言葉にしてきたが、今は何となくでは口走れないくらいの熱を自覚していた。
愛しい。 愛しい。 ーーー愛しい。
「………………………」
『何だろ……怖え……』
キスをしてから硬直したままの聖南を、葉璃が変わらず見詰めてきている。
何か言わなければと思うのに、葉璃への愛しさが次々と湧いて怖くなってきていた。
離れないで、ずっと傍にいて。
葉璃との「必然」に気付いてから、この気持ちがより強くなった事で聖南は本当に葉璃を離してやれないかもしれないと思った。
もし葉璃が聖南以外の誰かを愛してしまったら、葉璃の幸せを第一に考えたいから別れてやる……そう思えていたのに、そんな事はまったく出来そうに無い。
『………身勝手な奴だな、俺は…。 葉璃が幸せになるなら別れも選べるなんて無理だ。 絶対無理だ』
出会ったのは必然なのだから、聖南と葉璃は死ぬまで一緒に居ないとダメだ。
長い沈黙に葉璃が不安そうに瞳を揺らし始めたのを見て、聖南は華奢な体をこれでもかと抱き締めた。
「……離れるな、葉璃…何があっても俺と生きてよ…」
「え、…えっ? 聖南さんっ? 何ですか、急に!」
葉璃がギョッとなるのも仕方がない。
控え室や打ち上げの最中のテンションとあまりにも違うので、ホテルへと戻る道中に一体どんな心境の変化が聖南にあったのだと目を白黒させた。
そんな葉璃の戸惑いなど、必死で小さな体に縋る聖南には届かない。
「俺無理だ……葉璃と離れるの、無理だ…」
死ぬまで一緒に居ないといけないのに、いつか離れてしまう日が来るかもしれない事を思って聖南の胸が焼け付いていた。
単に、葉璃への愛が並々ならぬものへと変化したせいでの聖南の心の揺らぎだったのだが、いくらなんでも唐突過ぎた。
「………俺、聖南さんと別れ話してましたっけ…?」
「はっ? そんな話いつしたんだよ!」
「してないですよ! 聖南さんが急に甘えてきて妙な事言うからでしょ。 どうしたんですか? 説明ないと理解できない」
「………………………」
ただでさえ聖南はライブ後に大暴走して葉璃を大いに戸惑わせたのだ。
それが急にこんな状態になっていれば、葉璃も不審がるに決まっている。
熱っぽく聖南を見詰めてくれていた葉璃の瞳は、いつの間にかドライな方へと変わっていた。
「聖南さん、とりあえずシャワー浴びよ? 煙の匂いすごいもん」
「……あ、あぁ……うん…」
「何があったのかは後で聞きますからね。 シャワー浴びてる間に話まとめててね」
「………うん? ……うん………」
聖南が甘えている時や心が不安定な時に度々現れるしっかり者の葉璃が、大きな聖南の手を引いてバスルームに連れて行く。
初めての部屋で、室内は豪奢で広々としているため葉璃はバスルームの場所が分からないのか少しだけ二人でウロウロした。
葉璃が迷い無く衣服を脱ぎ始めたので、聖南もそれにならって全裸になった。
お互い全裸になるとまた葉璃が聖南の手を引いてシャワーの下へと誘導してくれて、そこでようやく気持ちが安定し始める。
『何でだ、俺の方が六つも上なのに…』
歳だけではない。
聖南は、今日デビューしたばかりの葉璃達はもちろん足元にも及ばない、芸能関係者からも慕われ必要とされる揺るぎようのない位置に居るのだ。
それが葉璃一人の存在だけでこんなにも大きく心が揺れる。
葉璃を守ってやらなければならないし、手を引いて先導してやるのは聖南の方なのにこれである。
「あ、……聖南さん、目が戻ってきた」
「…何だそれ」
「さっきまでボーッとしてましたよ。 ………これ冷たいの先に出るよね、ちょっと避けとこ」
シャワーの真下に居た葉璃が聖南にピタリと寄り添ってきて、コックをひねる。
勢い良く飛び出してきた流水が跳ねて、葉璃にかかったらしい。
「わっ…ここのシャワー勢いスゴイ」
恐る恐る流水と戯れる葉璃が可愛くて、聖南は背後から真っ白な体を優しく抱いた。
「葉璃、……こんな俺でも好きでいてくれる?」
何よりも誰よりも葉璃を愛しているが故に「必然」が怖くなった。
葉璃への好きが溢れて胸がいっぱいになって焼け付くと、悪い考えしか浮かばなくなった幼い心が聖南を動揺させてしまう。
もしこの手から葉璃が居なくなったら、聖南の過去も未来もなくなって希望を見出だせなくなる。
とてつもない恐怖心は、今まで味わってきたものとは比べ物にならなかった。
聖南の言葉に、葉璃は一つ溜め息を吐く。
「……なんで急にそんな事になってるのか分かんないけど、聖南さんと離れる気はないですよ、俺。 ……大好きです、聖南さん」
当然でしょ、と言いたげに満面の笑みでくるりと振り返ってきた葉璃が、大きく伸びをして聖南の首に両腕を絡めてキスをくれた。
出しっぱなしのシャワーの温度はすでに適温となっていて、浴室内が湯気でもんもんとし始めている。
温かなムードあるスモークのように、それはしばらく抱き合う二人を優しく包み込んでいった。
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