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食べている最中なのに申し訳ないと思いつつも、話の流れがこうなってしまった以上は後には引けない。
「俺が前に誓いの言葉言った時、返事は三年待ってくれって言ってたじゃん? 一昨日分かったんだけど、俺もう葉璃ナシじゃ生きていけねぇから今日に繰り上げてよ」
「なっ………そ、それは……」
「簡単だろ、イエスかノーだ。 俺の名字になりたいかなりたくないか、それだけ」
「………っっ!」
キッチンでの調理の最中、聖南手作りのカスミソウのブーケを肌見離さず持っていた事でそれを返事としたかったが、きちんと葉璃の口からも聞きたかった。
何も知らなかった葉璃にはまだ早いかもしれない、重たいかもしれない、そう分かっていても聖南は葉璃を離してやれる気がまったくしないのだ。
自身の成長と、生きていく糧となってしまった葉璃の人生を縛る事は、聖南にとっても大きな決断だった。
何しろ出会ってまだ一年。
だが「もう一年」という思いもある。
葉璃と出会う前の23年間よりも濃い時間を過ごしたこの一年で、聖南は人間らしさを取り戻した。
このまま葉璃と過ごす事が出来るなら、聖南が行う事すべてを葉璃に捧げて生きていきたい。
葉璃も同じ気持ちだと信じて立ち上がると、どこに消えたのかと思っていたブーケが葉璃の太ももの間に挟んであった。
パスタは両手を使うのでそうしているらしいが、これはもう期待して良いのではないか。
ゆっくり葉璃の傍に寄って片膝を付くと、ソッと太ももの間からブーケを抜き取って一度深呼吸をした。
「ノーは聞きたくないけど今の葉璃の本心を教えてほしい。 無理なら無理って言っていいから。 プロポーズしたのだって、葉璃を困らせたくてやったわけじゃない。 ぐるぐるする葉璃は見ててかわいーけど、もう余計な不安は与えたくねぇから縛りたいって言ったんだ」
葉璃を見上げてブーケを差し出すと、おずおずとながら受け取ってくれた。
そして葉璃も、気持ちを落ち着かせるように瞳を瞑って深呼吸をしていて、その表情を一瞬たりとも見逃すまいと聖南は凝視する。
じわりと瞳を開いた葉璃がブーケを持って立ち上がり、片膝を付いた聖南をきゅっと抱き締めた。
「……………イエス、しか無いです………」
耳元で葉璃の甘い囁きが聞こえた瞬間、聖南の頭の中で結婚式に居る二人の情景が浮かんだ。
この言葉が欲しかった、ずっと。
気持ちを通わせた日から、いや、好きだと言ってしつこく追い回していた頃から、葉璃を手に入れるこの日を夢見ていた。
葉璃が聖南ではない他の誰かと付き合う想像をして震えが走った時から、どうやれば葉璃は自分のものになるのかと考え続けていて、それはもう結婚しかないという結論に至った。
ようやく、ようやく、本当の意味で葉璃が聖南のものになった瞬間だった。
「っっしゃあぁぁ!!!!!」
「………っっっ!?!」
葉璃を力強く抱いて雄叫びを上げた聖南は勢い良く立ち上がって、喜びをぶつけるかのように唇を奪った。
「んんっ…………っ……」
「葉璃…やっと俺のになった、やっとだ」
「……ふっ……」
何度も何度も角度を変えて、チュッ、チュッ、とキスを繰り返す。
葉璃の背骨が折れてしまいそうなほど抱き締めていて、キスの合間に「痛いっ」と文句を言われたがやめられなかった。
舌を交わらせて狼狽える葉璃が可愛くて、愛おしくて、狂いそうだ。
「ヤバイ…。 メシだな、メシ」
甘い唇と舌を夢中で追っていると、聖南の足がテーブルとぶつかって我に返った。
まだ腹が満たされていない葉璃を、このまま抱き上げて二階へ連れ去ろうとしてしまうところだった。
せっかくの葉璃の誕生日を、プロポーズとセックスだけの思い出にしたくはない。
「………っ! そ、そうですよ、あれは…ご飯の後ですよ」
「お、積極的だなぁ」
「そんなんじゃないですっ」
ピンクに染まった両頬を取っておかわりとばかりに優しいキスを落とすと、葉璃の頭を撫でて聖南は着席した。
対面する葉璃も困惑の面持ちで腰掛けると、また太ももの間にブーケを挟んでいて笑ってしまう。
テーブルの上で葉璃の手のひらを掴まえて握ると、聖南は穏やかに微笑んだ。
「…なぁ、葉璃……。 ………ありがとうな。 俺ノーって言われる想像もちゃんとしてたんだよ、マジで。 だけど…………ビビっちまった」
「ノーなんて言うわけないです。 そりゃ、驚きましたけど…。 でも今の俺じゃ聖南さんを支えてあげられないですよ? もっとこの世界の事を知って、少しでも成長してからじゃないと…と思って三年後って言ったのに…」
「今日言うのも三年後に言うのも返事は一緒だろ? じゃあ今日でいいじゃん。 待つって言ったのは俺だからデカい口は叩けねぇけど」
「…………ほんとですよ…」
「待てなかったんだからしょうがないだろ。 俺頑張るから。 葉璃に捨てられないように、カッコイイ男で居続ける」
もはや今すでに駄々っ子のようになっていたが、それは葉璃にしか理解してもらえないささいなものである。
聖南が本音を吐露しても、葉璃は照れたように笑ってくれるので安心した。
「聖南さんはカッコいいし、可愛いです。 今のままで居てください。 今でも追い付けないのに、聖南さんがもっと遠くに行っちゃったら俺またぐるぐるするよ」
「俺は遠くになんか行かない。 今も行ってるつもりない。 傍に居るだろ、葉璃の一番近くに」
「……………………はい」
俯きがちな葉璃がじわりと聖南を捉えてきた。
葉璃にシャンパングラスを渡し、自身もそれを手に取って掲げる。
「そんじゃ仕切り直し。 葉璃、誕生日おめでとう」
言いながら葉璃のグラスにカツン、とぶつけて笑むと、葉璃は可愛くはにかんだ。
今度は照れた様子で俯いて、小さく頷く。
「……ありがとうございます」
俯いていても分かるほど、葉璃は頬を赤く染めてグラスに口を付けた。
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