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Ⅳ ーー八月某日ーー

ETOILE初歌番組❥④ CROWNのパフォーマンスは大熱狂のうちに終了し、四組目のロックバンドが演奏を披露し始めると、最後の出番である葉璃と恭也は司会者の隣に座っていた。 聖南達CROWNはその後ろの席に居て、ETOILEのデビュー曲『silent』の作詞作曲を手掛けた聖南も交えてのトークのためにマイクを握ってスタンバイをする。 このロックバンドの後はランキングと今週の特集コーナーになるので、緊張しきりな葉璃のドキドキはもうしばらく続く事になりそうだ。 『今週の一位は、先ほどパフォーマンスを披露してくださったLilyの皆さんでした! おめでとうございます!』 『ありがとうございます~♡』 今週のシングルのセールスランキングで一位になったLilyというグループを、聖南は彼女らがデビューした三年前から知っていた。 複数女性のダンスアイドルグループであるLilyは、葉璃の姉である春花が所属するmemoryとは似て非なるものである。 memoryは若年層をターゲットにした衣装や振付だが、Lilyは色気を漂わせた「妖艶さ」をコンセプトにしていて、今日の衣装もかなり際どいミニスカートだ。 大人の女性を模した詞とリンクした振付はとても凝っていて、歌唱力はともかくダンスの総評は聖南の中で悪くなかった。 聖南は、司会者とLilyのトーク中にモニターで彼女らを眺めた後、葉璃の後頭部を見た。 何故だろう。 今日もふわふわと巻かれた焦げ茶の髪だけで、聖南を高揚させる。 モニターに映るどの女性達よりも、葉璃の後頭部の方が可愛い。 前室に居る時から感じていたLilyのメンバーからの視線が、今もビシビシきている。 アキラとケイタにもその視線は注がれていて、CROWNの三人は前室に居る時から身の置き場が無かった。 どうにか馴れ馴れしく話し掛けてきませんように、と三人揃って無言の圧力オーラを放っていたところに、葉璃と恭也が来てくれて非常に助かった。 『続いてのアーティストはETOILEのお二人です! よろしくお願いします!』 司会者の女性が紹介すると、カメラは葉璃と恭也を抜いた。 葉璃の肩がピクッと揺れたのを見逃さなかった聖南は、笑いを堪えるのに必死だ。 初々しくて、すごくいい。 「よろしくお願いします」 「よろしく、お願いします…」 こうした場面では、いつもの恭也の語り口が葉璃に移行する。 肝が座っている恭也は実にスラスラと喋る事が出来るので、いつもこの調子で葉璃の上がり症をカバーしてやっているのだろう。 『先月デビューしたばかりのお二人のデビューシングルは、CROWNのセナさんが作詞作曲との事ですが』 段取り通り、司会者から聖南にトークを振られた。 アキラとケイタもマイクを持っているので、出来る限り聖南達が時間を引き伸ばしてやる。 「そうなんすよ。 CROWNの弟分が出来た事が嬉しくて、俺出しゃばっちゃった」 「今回のETOILEのデビュー曲なんですが、元々はCROWN初のバラード用にって作ってたんですよ、セナ」 「そうそう。 でもCROWNにバラードはまだ早えからさ。 っつってももうデビューから八年だから、早え事もないか」 「って事で、冬にCROWN初のバラード発売予定でーす!」 『ETOILEの話題がCROWNの宣伝に利用されちゃいましたね、恭也さん』 「そうですね。 お兄さん方は宣伝上手です」 そう言ってはにかむ恭也の控え目な笑顔に、客席が湧いた。 やはり少々強面な恭也の優しげな笑みは、女性のハートを鷲掴みにするらしい。 声も意外なほどソフトで穏やかに話すため、司会者の女性もやや前のめりになって恭也に話を振る。 『ETOILEのお二人はCROWNのツアーにも同行なさってるとか? 連日芸能ニュースで話題になっていますね!』 「はい。 ありがたい事です。 デビューしたばかりの新人の僕らを、あんなに大きなステージに立たせてもらっているんですから。CROWN様々です」 「CROWN様々ー! 俺浮かれていい!?」 「セナはさっきからはしゃぎ過ぎなんだよ」 「番組冒頭でスタジオ走り回ってたの、セナだけだからな。 袴ではしゃぐなよ、ETOILEのプロデューサーなんだから」 和装で落ち着いた印象の聖南が満面の笑みを浮かべると、あらゆる方向から「キャーッ♡」と悲鳴が上がる。 装いとは真逆の聖南の無邪気なはしゃぎっぷりに、他の出演アーティストも笑いを堪えきれていない。 『セナさんがETOILEのプロデューサーに抜擢された経緯は?』 「あーっと、それは俺が立候補したんすよ。 silentはすげぇ思い入れ込めて作ったし、これから聴いてもらうと分かるんですけど、めちゃくちゃ細かくパート割りしてます。 それは二人の声の個性に俺が惚れたからで、絶対的にいいものにしたかった。 レコーディングにもミックスにも関わった俺なら、二曲目、三曲目も二人を最大限に活かせるものを生み出せる、そう思ったから立候補しました。 ……うわ、俺いま超プロデューサーぽくねっ?」 「プロデューサーだろ」 「ぽい、じゃダメだよセナ…」 「ETOILEのプロデューサー、セナです! ETOILEをよろしくお願いします!」 『こんなに真面目に答えて下さるセナさんは久しぶりかもしれません…! ありがとうございました! …さて、もうお時間がきてしまったようです。 ETOILEのお二人、スタンバイお願いしまーす!』

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