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ⅩⅢ ── 十二月某日 ──
13♡〜聖南は王子様?〜
拗ねちゃうって、なんでですか…っ。
壁なんてないです、とケイタさんを見上げて戸惑いを口にしようとしたその背後に、悠然と歩む金髪の王子様がチラと見えた。
あ…………聖南、だ……っ!
「おー、来たのか」
ゆらりと現れた聖南は、俺達の元までやって来ると安心したように柔らかく微笑んだ。
…っわ、わわわわ…っ。
聖南、ポニーテールしてる!
エクステ外さなかったんだ…!
…………カッコいい!!
「ありがとな。 初日だったから俺の大根に磨きがかかってたろ」
「セナお疲れー! その大根をイジりに来たのに、自慢の喉と歌声を存分に魅せ付けられた感じー」
「お疲れ、セナ。 内容ほとんど教えてくんなかったから、こんな社会派劇とは思わなかったぞ」
「いや、何て説明すりゃいいか分かんねぇじゃん。 俺の説明と内容が違ったら、またそこで理解力どこいったっつってイジられるだろ」
「マリー・アントワネットっていうキーワードは重要だと思うよ? それくらいは教えといてほしかったな」
「俺、その愛人な」
「ハマり役だった、マジで。 セナの歌と踊りは他の誰にも超えらんねぇ。 セナ以上にあの役出来る奴はいねぇよ」
「すげぇ褒めてくれんじゃん。 …………で、そこに居るのは葉璃だよな? アキラにしがみついてんの」
気配を消して三人の会話を聞いてた俺は、またもやアキラさんのくしゃくしゃになったシャツの裾を掴んでいた。
聖南から顔を覗き込まれたけど、……ドキドキしちゃって目を見きれない。
だって聖南、今はもう普段着なのにほんとに王子様に見えるんだもん…!
「あぁ、なぜか今日はアキラに懐く日みたい。 俺もギュッて裾持たれたいよ! でも俺とハル君には見えない壁があるからなぁ…」
「か、壁なんて無い、のに……」
いつまでもそれを引っ張るケイタさんは、何となく悲しそうだ。
さすがにもうケイタさんに対して壁なんて無いよ。
無いけど、聖南の次に出会ったのがこのアキラさんで、二人きりで話をする機会も多かったから…慣れてるのは確かかもしれない。
「あ、お疲れーっす」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様でーす」
スタッフさんが行き交う廊下にCROWNが揃っちゃってるから、すれ違い間際に「お疲れ様です!」と三人は何度も声を掛けられている。
俺は透明人間になったつもりで居たから、さっきの控え室と同じく声を発さないまま都度頭を下げた。
そろそろ打ち上げ会場へと場所を移すらしく、控え室から続々と出演者の皆さんが私服姿で現れ始めて、その人数の多さに「ヒッ」と鳴いてアキラさんのシャツをぎゅっと握り締める。
「葉璃、いい加減に離れねぇと聖南さん怒っちゃうぞ」
「………………ヒィッ」
廊下が人でごった返したどさくさ紛れに聖南から腕を掴まれて抱き寄せられると、耳元でそう怒られた。
……聖南のあまりのカッコ良さにも「ヒッ」ってなった。
「あんま密着するな、セナ。 バレるぞ」
「あ。 セナ、あの人監督じゃない? 呼んでるよ」
いくら廊下が人でいっぱいでも、腰を抱いてくるのはマズイと思う…!
アキラさんとケイタさんの声に、俺は急いで聖南の腕から逃れる。
聖南の背後から監督さんと思しき男性が「セナさーん!」と呼び掛けてたから、聖南は振り返って左手を上げて応答した。
「葉璃ちゃんあとでお仕置きな」
「…っ! なんで………っ」
立ち去る寸前、耳元で囁いてきた言葉にギョッとする俺に、ニコッと怖いくらいの満面の笑みを浮かべてから聖南は踵を返した。
「セナ一応準主役だし、俺らとの打ち上げ合流は後ほどって感じだな」
「だねー。 初日だからさすがに顔だけでも出さないとだよ」
監督さんと向こうへ歩んでいく、俺の王子様を三人で見送る。
そう、だよね…。
聖南は準主役だから、きっとすぐには解放されないんだ。
監督さんを始め、スタッフさんにも演者さんにも無意識に気配りしちゃう聖南が、そう簡単に和やかな場を抜け出すとは思えない。
「ハル、俺らも移動しよ」
「………はい」
「ハル君、そんなしょんぼりしなくても、セナはすぐ来るから安心しなって」
「あ、い、いえ…っ。 しょんぼりなんてしてない……です…」
いつもと違う王子様みたいな外見に緊張してしまうけど、やっぱり聖南が居ないと寂しいなって思ってたの……なんでバレたんだろ。
狼狽える俺に、アキラさんが「料亭まではケイタの車に乗ってやって」と耳打ちしてきた。
「え……?」
「アイツめちゃくちゃ拗ねてるから。 行きは俺の車だっただろ、ハル。 それも根に持ってそう」
「ていうか…なんで拗ねてるんですかね……」
「ハルと親しくなりたいんじゃない? ケイタもシャツをくしゃくしゃにしてほしいんだろ」
「……………さっぱり意味が分かりません…」
もう充分親しいつもりなのに、ケイタさんの拗ねてる原因がいまいちよく分からない。
先を行っていたケイタさんが振り返ってきて、ニコニコで手を振ってくる。
「アキラ、ハル君、行くよー!」
親しみやすい笑顔と、メロドラマに引っ張りだこな柔和で綺麗なお顔立ち、優しい語り口と温厚な性格……ほら、俺ちゃんとケイタさんの事分かってるよ?
「な、ケイタの機嫌直してやって」
「…………よく分かんないですが、…分かりました」
アキラさんの含み笑いに、俺は頷いた。
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