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sideミナト: 月森一族のお盆 1

「お帰り、ミナト」 「ただいま母さん」 実家に帰って、母の顔を見てホッとする。 月森一族にとって〝お盆〟は、1年の中で最も大切な行事だ。 江戸時代から代々続く、側近の名家。 だから、お盆はその先祖たちの為に一族全ての月森が集まる。 どんなに会社が忙しくても、この時期だけは月森は皆んな家に戻らなければならない。 「ふふっ。ほら、明日はお盆だから皆んなが集まるわ。荷物置いたら手伝ってちょうだい」 「はい」 私の家は、月森の本家。 毎年、お盆はこの家に全員が集まる。 (嗚呼、今年もまたこの時期が来たのだな……) 月森一族のお盆は、厳粛に行われる。 現当主である大婆様が取りまとめて、静かに、ゆっくりと儀式のように祭壇へ一人一人線香をあげていって。 部外者は、当然入ることは出来ない。 (幼い頃はよくわからなかったが、今となっては凄い顔ぶれだよな…これは……) 各会社の月森が一同に集まるのだ。 あっちを見てもこっちを見ても、有名企業の懐刀ばかり。 皆んな、それぞれに会社を背負って生きている。 何だか誇らしいなと思いながら式に集中した。 儀式のような式が終わると、直ぐに宴会が始まる。 「ミナト、これあっちの席に持って行ってちょうだい!」 「はい」 月森は、身内であっても当然自分の会社の事を話すことはない。 だからこの様なわいわいとした宴会の場でも、それぞれの会話や世間話は建前のようなものばかり。 お互いがお互い会社の事を背負っているので、当然ではあるが…… 幼い頃は、それがとても怖かった。 まるで皆んながお面をかぶっているようで…… でも、今は違う。 守る為には被らないといけないのだ、お面を。 (これで皆んなが一斉に口を割って会社の事を話し始めたら、さぞ面白いのだろうな) きっと日本は終わるんじゃないだろうか。 それくらいに、月森の影響力は大きい。 「丸雛の月森や」 「っ、はい」 「ちょっとおいで」 宴会の席で、大婆様が丸雛の月森を別室に呼んで行った。 丸雛の月森は、ここ2、3年前からポーカーフェイスが崩れ、少々顔がやつれて来たように思う。 一般人にはわからないかもしれないが、月森一族だったら一目でわかる。 〝月森が病むという事は、その会社が危機に反しているという事〟 学園での丸雛君からは、特別何も感じなかったけどな。 私がハル様ばかり見ているから、気づいてないだけだろうか…… (まぁ、会社に関わる事だろうから私から聞く事は無いけど) 丸雛の月森は女性だ。 そして丸雛君の母である現社長とは、なんと幼稚園からの付き合い。 そんな彼女に、一体何があったのだろうか…… (矢野元の月森は、心配しているようだな) 呼ばれていく彼女の背中を心配そうに眺めている。 会社同士の仲がいいところは、必然的にその会社の月森同士の仲も良くなる。 丸雛と矢野元は家が隣同士という事もあって会社同士の仲がとても良い為、月森同士も仲がいい。 (何があったかは知らないが、解決してくれるといいな……) そう言えば ハル様も龍ヶ崎と婚約されるなら、小鳥遊と龍ヶ崎の月森の距離も必然的に近くなる筈だ。 (叔父さんと龍ヶ崎の月森は、確かライバル同士だったよな……) 小鳥遊の月森である叔父さんと龍ヶ崎の月森は、年が同じくらいだから比べられる事が多かったらしい。 まぁ、ピリピリといった不仲なものではなく、寧ろ互いに高め合っている様な関係だったようだが…… (これから、どうなるんだろうな……)

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