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そこには、何とも輝いている2人がいた。 カズマは濃い深緑で纏められている着物に杖を持ってる。 何だか昔の小説家みたいなレトロな服装だ。 そして、佐古はーー 「軍服だ……!」 濃い紺色の軍服。 綺麗な腕章・胸のバッチまで完璧に付けられてて、帽子も佐古の赤髪とよく似合ってる。 「わぁ…っ、カズマも佐古くんもカッコいいよ!」 「うんうん凄い似合ってる!!ビックリしたぁ……!」 「そうか? 有難うハル、イロハ」 「………ふん」 心からそう言うとフイッと恥ずかしそうに佐古が顔を背けてしまって、何かもう頭を撫で回したい本当に。 (本当、役者さんみたい……) 2人とも背高いからなーこういうカッコいい衣装が映えるんだろうなぁ、くそー。 「ほら、次は2人の番だぞ。行ってこい」 「わ、そうなの?」 「わーいついに順番来た!ハル行こっ!」 「う、うんっ」 空き教室へ行くと、「はい、2人の衣装はこれね」と紙袋を渡された。 「開けていいの?」 「勿論だよ!気に入ってくれるといいけど……」 ガサガサとイロハと一緒に紙袋を開ける、と。 「「わぁ……っ!」」 「えへへ、どうかな?」 「まぁ実際着てみないと分からないし、取り敢えず着てこー!着付けるよ!!」とせっせと体を動かされた。 「ーーうん、こんな感じかな?」 先にイロハが出来上がった。 「はい、丸雛くん次はあっちのコーナーへ行って髪して貰ってね」 「わかった!うーわー有難うー!!」 パタパタパタ…とイロハが次のコーナーへ行き、ハルの番が回って来る。 「んんー…小鳥遊くん、細いねぇ……」 「そ、そうかな……っ」 「うん、何かこの前測らせてもらった時より細い気がするけどー……痩せた?」 「ぁ、うーん…そう、かも……」 「もーただでさえ細いんだからちゃんと食べなよ? 生徒会が忙しいの?」 「あはは、実はそうなんだよねぇ……」 A組のみんなは、基本俺やイロハたちに敬語を使わない。 クラスメイトなんだからやめて欲しいとお願いしたら、みんな普通に接してくれるようになった。 「ーーはい、こんな感じかな?」 「わぁ……有難う!」 「えへへ、喜んでもらえてよかった」 「ほら、小鳥遊くんも髪やって貰っといでー」と見送られ、髪型コーナーに行くと丁度出来上がったイロハとすれ違う。 「っ、わぁ!!ハルやっば……凄い綺麗!」 「イロハも凄く似合ってる!」 イロハの衣装は、山吹色をメインにした袴だ。 細い金縁の丸メガネを付けて、クルクルの髪を後ろの高い位置で1つ結びにしてて、何だか凄く可愛い。 (クスッ、イロハっぽいな) 「ほら、先教室戻ってカズマたちに見せといでよっ」 「うん!ハルも戻ってくるの待ってるねー!!」 「はーぃ!」 バイバーイと手を振り、髪をしてくれる子のところへ行った。 「化粧は落とすのだるいから本番だけな。取り敢えず今回は本番の髪型だけ決めてくから」 「うん、分かった」 「しっかしすげぇ似合ってんな。ビックリしたわ」 「有難うっ」 「んーそうだな、この衣装に合うやつだろ…どんなのにすっかなぁ……」と髪を弄られながらあーだこーだとブツブツ呟いていて。 そして、 「ーーよし、決めた」 流石その業界の子というべきか、素早い手つきで一気に出来上がっていった。 「ん、これでどう?」 「わぁ……!凄い…有難う!」 「おし、じゃぁ本番もこれな」 「うんっ」 鏡を見せられて、そこに映る自分にびっくりして 早くみんなに見せたくて早歩きで教室へ戻った。 カラカラ…とドアを開け、そこからひょこっと顔を覗かせる。 「あっ!ハルお帰り!入っておいでよー!!」 イロハの一声でクラスみんなの視線が一気に俺へ集まって。 何だか恥ずかしくて衣装の袖で口を隠しながら、恐る恐る中に入っていった。 「「「「「ーーっ!」」」」」 ハルに与えられた衣装は、着物だった。 桜やその花弁が優雅に散りばめられていて、淡い水色や黄緑色などが所々に入っている綺麗な春色の着物。 日に焼けてない肌や色素の薄い髪色に優しい色合いが見事にマッチして、普段の儚さが何倍にも増して何だか危うい雰囲気を醸し出されている。 髪型は、この着物が映えるようシンプルなものになった。 片方の髪だけをねじり、桜が付いてるピンで止めて片方だけ耳が出るような感じのもの。 『耳から首筋、鎖骨にかけてのラインを出すことで色気を最大限に引き出してみた』 「俺ってやっぱ完璧じゃね?」としてくれた子が自画自賛してたのを思い出して、ふふふと苦笑してしまう。 「みんな、どうですかっ?」 口元から袖を離して、パッと手を広げて衣装を見せてみたら 途端、ピシリと何故か空気が固まった。 「………? みんな?」 こてんっと首をかしげると、これまた「っ!」と息をのむ音が聞こえる。 ………? 何だろ。もしかして似合ってなかったかな…… (え、どうしよ、せっかくハル用に用意してくれたのに) 変えてもらう? でもなんか悪いしなぁ。 「ハ、ハル………っ」 「イロハ、これ似合わないかな……」 「いや、その逆っていうか……なんていうかそのっ」 ーーーーエロい……っ。 「ん? なんか言った?」 「うっ、ううん!」 ザワザワ…… 「おい、あれやばくないか……」 「耳やばいっ、首筋やばいっ、鎖骨やばぁ……」 「着物も凄い合ってるけど、でも髪型が……」 「ほ、本番もこうなのかな小鳥遊くん!?」 「いや、駄目だろあれは…雰囲気がエロすぎる……」 「ちょこちょこ心配な奴はいるが、これは小鳥遊が1番心配だわ」「どうする どうする…?」と、教室の隅の方でとうとう不思議なクラス会議が始まりだした。 「えっ、え?」 (ちょ、会議開かれるほど似合ってねぇの!?) 嘘じゃん辛い! もう俺この際…制服の方がいいんじゃ…… 「いや、逆だからハル」 「カズマ?」 「考えてることと180度真逆だから、それは安心してもいい」 「はぁぁぁ……」と溜め息を吐きながらいつもの3人が近づいて来てくれた。 「おいハル」 「? なに佐古くん?」 「お前、その髪型辞めろ」 「えぇっ、変だったかな……」 「いや、ちげぇけど…際どいんだよてめぇ………」 「ん………?」 (際どい…何が……??) 「まぁまぁ佐古くんっ、本番はおれたちが気をつけとこうよ!クラスのみんなも会議開いてくれてるしさっ!」 「お前に言われても説得力ねぇよ、このちんちくりん」 「なっ!? ちょっと佐古くんー!?」 「あーあーうっせぇなー竹の棒でも振り回してちゃんばらしとけよ」 「ちゃんばらっ!? 髪型がこうだからってそんな事しないからー! 佐古くんだってこんなに軍服似合ってるだから、制服だってちゃんと着ればいいのに!!」 「いいんだよ俺はあれで。口出しすんな」 「なっ!人が折角心配してあげてるのにー!!」 わーわー言い合ってる2人に、それを呆れながら見守るカズマに 「っ、ふふふふふっ」 知らず知らず、笑顔になることが出来た。 (友達って、凄いな) あんなにも沈んでいた心がこんなにも暖かくなる。 みんなと友だちになれて、本当によかった。 友だちになれたのは〝ハル〟であって〝俺〟ではないけど でも、それでもこんなに暖かくて……本当、凄い力だと思う。 (その暖かさで、ハルの事もたくさん包んであげてね) この学園に、ハルが通い始める。 その為にも俺は早くこの問題を解決しなければ。 (ハルが、安心して安全に過ごせるように) 変質者を、早く早く見つけなければ…… 楽しい雰囲気の教室の中。 俺は1人、そっと強く拳を握った。 その次の日の朝、下駄箱に入っていた手紙の中には 昨日の空き教室で着替えいる様子や、髪を結ってもらう様子などが事細かに撮られている写真が たくさんたくさん、入れられていたーー

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