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sideアキ: 後夜祭、始まり
「ねぇイロハっ、僕おかしくない……?」
「うん全然!凄く似合ってるよ!!」
「本当に? ありがとっ。 先輩、レイヤには……」
「はい、問題ございません。しっかり渡してまいりました。きっと、今ごろ心待ちにしていますよ」
「うぅぅ、有難うございます……!」
「クスクスッ。大丈夫ですハル様。必ず上手く行きます」
「そうだよハルっ。絶対大丈夫だからね。落ち着いて、笑って……ね?」
「………っ、2人とも、ありがと」
「えへへっ、ほら、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ、ハル様」
「ーーーーぅんっ、いってきます」
後夜祭当日ーー
全校生徒が各々に仮装をし、体育館で賑やかに楽しむ声が響き渡る。
それを背に、俺は1人寮へと向かっている。
ドキドキと飛び出しそうな心臓を、仮装を隠してるマントの上からギュッと抑えた。
(大丈夫、大丈夫……)
時間なかったけど、イロハと先輩が手伝ってくれたし。
それに…ちゃんと自分の中で何度もシミュレーションしてきたし……
ポソッ
「おしっ、頑張れ俺」
寮へ着いて、エレベーターの7階ボタンを押す。
チンッと音がなって扉が開き、その1番奥のドアの前に立った。
「……っ」
(め、目を閉じて……一旦深呼吸、深呼吸しよ)
「すぅぅぅ…、はぁぁぁ……」
(落ち着け、落ち着け俺)
ーー落ち着いて、きっと大丈夫だから。
ゆっくりと目を開けて、改めてドアを見つめる。
カチッと備え付けのインターホンのボタンを押すと『入れ』と一言返ってきて
「お邪魔します……っ」
静かに、ゆっくりと部屋の中へ入っていった。
「よぉ、来たな」
「お久しぶりです、レイヤ」
真っ暗な電気の付いていない部屋の中。
月明かりが綺麗に入ってる窓辺に、レイヤが座っていた。
「後夜祭の準備、お疲れ様です」
「あぁ」
「手伝えなくて…すいませんでした……」
「いや、いい。
お前が体調不良で抜けることを伝えたら、何故か副会長たちが突然頑張りはじめてな。3人が率先して動いてくれた分、案外スムーズにいったぞ」
「ぇ、そうだったんですねっ」
「ククッ、今も体育館でバタバタ仕切ってんだろ」
「まぁ、そのおかげで俺はここに居れんだけどな」と、レイヤに手招きされる。
それに素直に応じ、向かい合うように座った。
「わぁ……レイヤはヴァンパイアの仮装なんですね」
「そう、去年もウケが良かったからな。今年もこれだ」
黒髪を全て後ろに流してオールバックにし、牙の差し歯をしていて、黒いタキシードのような服装にマントを羽織っている。
「どうだ? 似合ってるか?」
「と、とても……っ」
(髪型オールバックなの……反則)
かっこよすぎて、見てるこっちの体温が上がってくのが分かる。
「ククッ。さて、お前はどんな仮装なんだ……?
ーーっと、その前に」
ヒラリと手に持っていた紙を振られた。
「これは、どういうことだ?」
それは、月森先輩にレイヤへ渡してくれるよう頼んだ手紙。
〝貴方の後夜祭全ての時間を、奪いにまいります。
部屋を暗くして、どうか待っていて〟
「クスッ、どうもこうもありませんよ、レイヤ。そのままの意味です」
「宛名もねぇから誰からかと思ったが… まぁ、月森に渡された時点で大分予想は立っていたがな……
ーー俺の後夜祭の時間全部が、欲しいのか? ハル」
「えぇ、欲しいです」
挑むように見つめられる黒い瞳を
逸らすことなく、真っ直ぐに見つめ返した。
「ーーーーククッ。あぁ、上等だ。
お前の為ならいくらでもくれてやるよ」
その目が、満足そうに笑う。
「さて。お前のマント……脱がせてもいいか?」
「はぃ、どうぞ」
長い指が伸びて来て、首で結んでいたリボンをスゥ…っと解いていく。
そうして、仮装を隠していたマントがパサリと床に落ちた。
「…………っ、こ、れは……」
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