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『ねぇアキっ、本当に大丈夫……?』
『勿論!立派に〝ハル〟を演じて見せるからっ』
(あぁ、ごめんね……ハル)
〝ハルになりきる〟って約束したのにね。
この時間だけ…この瞬間だけ……
俺は〝俺〟になりたいーー
結論から言うと、俺はハルのままで想いを伝えることはできなかった。
そんなことしてしまうと…多分俺自身が耐えられなくなって、壊れてしまいそうで。
きっとボロが出るだろうから……
だから、後夜祭のルールを使ってハルに嘘をつき、俺はありのままの俺になってレイヤに想いを伝えたい。
そう…もう黒い魔女のように王子と姫を邪魔するような嘘は、吐きたくない。
今だけ白い魔女のように、嘘をつかない素の俺に戻って。
そして、王子に……想いを伝えたい。
それが、結果的には王子と姫…レイヤとハルの為にもなるからーー
だから、
(ごめんね、ハル)
俺、ダメな弟だね。
今までハルに嘘なんか吐いた事なかったのに……
(恋って…想いって…… こんなにも人を変えるんだな)
嗚呼、ハル。
どうか、どうか今 この時間だけ
俺に、レイヤをくださいーーーー
ゆっくりと、窓から離れて一歩ずつレイヤの元へ歩み寄る。
そして、その顔を優しく微笑みながら見上げた。
「レイヤ」
「……何だ」
(俺は)
俺、小鳥遊 アキ は
「ーー貴方のことが、 好きです」
ポロリと、涙がこぼれ落ちた。
ハルに嘘を吐いてしまったという、罪悪感と
やっと言えたという、安堵と
自分の気持ちを素直に言った、緊張と
全てがごっちゃになってしまって、泣く気はないのに涙がどんどん溢れてくる。
それでも、レイヤと交わっている視線を外してまで涙をぬぐいたくはなくて、頬に伝っていくのをそのままにして
ただ、レイヤを見つめた。
「…………それは、本当…か……?」
「本当…ですっ」
「後夜祭の嘘とかでは、ないのか……?」
「っ、ちがいます!」
嘘なら、もう違う人に吐いた。
「これは、本当のっ、気持ちです……っ」
レイヤからは、ずっと…もうずっと前から受け取っていたのに……
「グスッ、遅くなって……ご、めんなさーー」
グイッ!
「ぇ、」
目の前の体に、痛いくらいに思いっきり抱きしめられた。
「ちょ、レイヤっ、い、痛いでsーー」
ポタッ
「ーーーーへ?」
上を向いて抗議しようとした俺の顔に、何かが落ちてくる。
「っ、くそ……見るな」
(ぇ、う、そ………)
レイヤが
あの、龍ヶ崎 レイヤが ーー泣いていた。
グッと帽子を抑えられて、ボフっと胸板に顔を押し付けられる。
そのまま、ぎゅうぅっときつく抱きしめられた。
「てめぇの所為っ…だからな」
「っ、」
「言うのが遅せぇんだよ……このやろうがっ」
(~~~~っ、あぁ……)
胸の中がじんわりと熱くなってきて、愛おしくて愛おしくてたまらなくて…もっと涙が出てくる。
そのまま、俺もレイヤの背中に自分の両手をまわして
お互い、泣きながらただただ抱きしめ合った。
しばらくして、レイヤの腕の力が少し抜ける。
押し付けられていた顔を上げると、鼻と目元を少し赤くしたレイヤがいた。
「ったく、泣いたのいつぶりだよ…くそ……」
「ふふふっ、泣かせちゃいましたね」
「あぁ全くだ。ちゃんと責任取れよ」
「クスクスッ……はいっ、レイヤ」
泣き顔の2人で、クスクスと肩を寄せ合い笑いあったーー
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