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その2: ハルとアキが幼い頃の話

--------------------------------------------------------- ◯リクエスト 子供の頃のハルとアキで、噴水で遊ぶ話と洗う人濯ぐ人の話 --------------------------------------------------------- 【side アキ】 コンコンッ 暖かな日差しが差し込む窓から外を眺めてると、小さな小さなノック音が聞こえた。 自分の部屋を訪ねてくる人なんて、1人しかいない。 ガチャッ 「アキっ!」 「ハルだー!今日は体のちょうし、いいの?」 「うんっ、今日はげんきだよ!」 「わぁ!じゃぁ遊びにいこー!」 「うん!」 両親はお昼から仕事に行ってて屋敷にはメイドさんたちしかいなくて、窓の外はいいお天気。 こんな日は……… いつもの抜け道を通って、ふふふと笑い合いながら庭の奥まで入っていく。 「わぁっ、着いたー!」「着いたー!」 2人だけの、秘密の場所。 みんながあんまり来ない、庭の奥の古い噴水がある場所。 「今日は、お水…出てないねー」 「ねー。あそんでたら出るかなぁ…」 「この人気まぐれさんだもんねぇ!」 「そうだねー気まぐれさんだ!」 古いからなのか、忘れた頃に水を出す気まぐれな噴水とわいわいお話しした。 「ぼくアキかいてあげる!」 「わぁ、じゃぁハルかくー!」 パッとその辺に落ちてる石を拾って、仲良く並んで地面に座る。 そのまま互いに顔を見ながら、ガリガリと線を描いていって…… 「……うんっ、できた!」 「ぼくも!」 「わぁ、じょーず!笑ってるかおだー!」 「アキのも笑ってるかおだー!」 「いっしょだね…あ、ねぇ!この絵にお花かざろうよ!」 「いいね!お庭にいっぱいあるし、みつけにいこー!」 「うん!」 描いた絵に似合う花を見つけに、2人で手を繋いでぐるぐると歩いていく。 「ハルのおようふくにはねー、うーん……あ、これ!この花がいい!」 「わぁピンク色だ、かわいい!」 「なんかね、やさしい感じがする」 「やさしいかぁ…うーんアキはねー、えぇっと…うーん……これかな?」 「まっかだ!」 「げんきだから!赤色!」 「げんき? げんきだよーだってハルと一緒だもん!」 「ふふふっ」 それから、絵の背景になるお日様の黄色や雲の白色・地面の草を摘んで元の場所へと戻った。 それらを、どんどん どんどん絵に飾り付けていって…… 「「できたー!」」 黄色いお花で作った太陽と白いお花で作った雲の下には、並んで笑ってる2人の絵。 それぞれの服には、さっき選んだお花が飾られている。 「たのしそう!」 「きれいだねぇ!!」 じぃ……っと、出来上がった絵を暫く眺めていた。 「わぁアキ!もうこんなじかんだよっ」 「ほんとだ、もどらなきゃ…!」 それからまた色々なことをして遊んでいると、あっという間にもう夕方。 「気まぐれさんまたねっ!」 「つぎはお水出してねっ!」 噴水に別れの挨拶をしてパタパタパタ…と早足で来た道を戻り、互いに泥を落とし合う。 「よしっ、おようふくきれいになったよ。これでばれない」 「アキのもきれいになったよっ」 「ありがと!じゃぁごはんたべにいこー!」 「うん!おなかすいたねぇ」 「おなかすいたー!」 ガチャっとご飯を食べる部屋に入って、コックさんやメイドさんに「こんばんわー!」と挨拶した。 「あらハル様アキ様、丁度呼びに行こうかと思ってましたよ」 「わぁそうなの? ないすたいみんぐだね!」 「ないすたいみんぐー!」 「クスクス。さぁ、お席へお付きくださいな」 「「はぁーい!」」 広いテーブルの席に向かいあってストンッと座る。 「ぁ、今日はシチューだ!」 「ほんとだ!やったぁ!」 「まぁ、匂いでわかるのですか?」 「うん!だって大好きだもん」 「おいしいもんねー!」 「あらあら、それはコックに伝えておきましょう。きっと喜びますわ!」 テーブルに料理を並べてくれるメイドさんとお話ししながら準備を待って、「「いただきます!」」と元気よく手を合わせた。 「「ごちそうさまでした」」 食べ終わった食器を重ねて、慎重に流し台の処まで持っていく。 「あら、そのままにしておいても良かったのですよ?」 「いいの!もって来たかったから」 「ねーぇ、ぼくたちがあらってもいい?」 「まぁ、もしかして〝いつもの〟ですか?」 「「うん!〝いつもの〟!!」」 「……ふふふ、しょうがありませんねぇ」 「「やったー!」」 やれやれと笑って2人分の踏み台を準備してくれるこのメイドさんは優しいから、この人が担当の日はいつもお願いしている。 「それでは、私は外におりますので。旦那様方が帰って来られたら呼びにまいりますね」 「「ありがとうー!」」 「内緒ですよ」と話をして、メイドさんが出ていった。 「よぅし!ハルじゃんけんしよー!」 「うんっ!」 さーいしょーはぐー じゃーんけーん…… 「「ぽんっ!」」 「わぁ、負けちゃった」 「ぼくのかちー!」 「ハルこの前も〝洗う人〟してなかった?」 「えへへついてるねぇ!」 「ちぇー」 踏み台の上に立って、ハルがスポンジを取る。 「よし!どんどんやってくよ!ほら〝濯ぐ人〟さんっ」 「はぁい」 洗う人はモコモコの泡でわしゃわしゃと食器を洗い、それを濯ぐ人にパスして。 濯ぐ人は泡を丁寧に洗い落として、食器洗浄機の中に並べていく。 〝洗う人〟と〝濯ぐ人〟は、メイドさんたちがしてたのをたまたま2人で見つけて、それから教わったもの。 役割を2つに分けた方が早く終わるのらしい。 「ふふふ、たのしいねぇアキ」 「うん!たのしいねぇハル」 カチャカチャ音を立てる食器と、ひんやりする気持ちいい水の温度。 手が見えなくなるほどモコモコの泡がたつのも面白い。 わいわい笑い合いながら、ゆっくりゆっくり食器を片付けていった。 「ぁ、お父さんたち帰って来たねっ」 ハルのお部屋にあるベッドに2人で潜ってゆっくりしてると、外から車の止まる音が聞こえた。 「お部屋もどるね!」 「うんっ。おやすみアキ」 「おやすみなさい、ハル」 パタンッと静かにドアを閉め、足早に自室へ戻る。 そのままガバッ!と自分のベッドに潜り込んだ。 (今日は、楽しかったな) お庭で遊んで、洗う人濯ぐ人ができて、ハルとたくさんお話できた。 明日も、ハルのたいちょうがいいといいな。 明日も、お父さんたちはお仕事かな? そしたら、またお庭に行きたい。 あの気まぐれな噴水も、明日は水を上げてくれるかもしれない。 今日描いた絵を見に行って、飾ったお花が風に飛ばされてたらまた新しい花を追加してあげるんだ。 明日こそはじゃんけんに勝って、洗う人をしよう。 「ふふふっ」 願わくば、ずぅっとずっとこんな日々が続きますように。 そんなことを祈りながら、自然とくる眠気に逆らうことなく目を閉じたーー fin.

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