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sideアキ: クリスマス

(クリスマス、かぁ………) テレビに映ってる賑やかな街の様子やインタビューされている人たちの映像を、ぼうっと眺めた。 今日はマサトさんと月森さんも家で仕事をするらしく、書類を持ちながらリビングでつくろいでいて。 トウコさんは床で洗濯物を畳んでいる。 家事手伝いたいって言ったら、絶対ダメって言われちゃったんだよね…… 「お世話になってるんだからせめて何かやらせてください」と言うと、「貴方は子どもなんだし学生なんだから、今のうちにゆっくりしてなさいな!確かにお手伝いは大切だけれど、貴方にはさせないわっ」と笑いながら断られてしまった。 (でも、俺やる事ないし……) あれから梅谷先生が宿題を持って来てくれたけど、嬉しくて一気に終わらせてしまった所為で暇で暇で…計画的に少しずつやれば良かった…… 今も、何もせずにただテレビを観てるだけ。 リラックスは…出来てると思うけど。 前とは比べ物にならないくらいゆったりと時間が流れてて、自分でもびっくりしてる。 でも、凄く心地いい。 『あらあら彼女さんですか!? クリスマスプレゼントはどうするんですか~?』 『えぇー秘密です!』 楽しそうにマイクへ話す女の人。 (クリスマスプレゼント……) そっか、クリスマスってプレゼントあげたりするんだったっけ。 ハルは、毎年俺と均等に分けれるようなプレゼントばかりを両親にお願いしていて。 貰ってからそれを俺に分けてくれた。 お菓子とか一緒に遊べるおもちゃとか…他にもいろいろあったな。 いつも申し訳ないと思いながら、その気遣いがとても嬉しくて。 他にももっと欲しいもの沢山あっただろうに、俺のことを1番に考えてくれて。 本当…世界一の兄だ。今年は是非、自分だけのクリスマスにしてほしい。 もう俺とは離れちゃってるんだし、イロハ達きっとハルにプレゼント考えてくれてるだろうし。 今まで迷惑かけちゃってた分、もう俺のことは考えずに心からクリスマスを楽しんでほしいなぁ…… 「ねぇアキくん」 「? なんでしょうか?」 「クリスマスプレゼントは、何が良いだろうか?」 「へ?」 マサトさんが、書類から顔を上げて笑いかけてくる。 「アキくんは何が欲しいかな?」 「え、俺……?」 「ふふふ、君だよ。君も私たちの大切な息子だからね」 息子って…まぁ確かに書類上ではそうだろうけど、でも、 「俺、いりません」 俺はいいかな。 そもそも貰ったことないし、俺の事は考えて貰わなくていい。 それよりもレイヤやハルにあげて欲しい。 「あの、遠慮とかそういうんじゃなくて、本当に」 此処に居させてもらってるだけで十分、だから。 「うーん、アキくん。それは違うなぁ」 「ぇ?」 「私たちはね、私たちの我儘で君にあげたいんだよ」 「わが、まま……?」 クスリと微笑まれる。 「そう。私たちの勝手な押し付けだから、君は何も思う事なくただ受け取ればいいんだ。要らなかったら捨てればいいしね。 まぁでも、どうせだったら喜ぶ顔が見たいじゃないかい? だから欲しいものを聞いたんだけど…」 「でも俺、本当にいらなくて……その分をハルに」 「それは駄目ね」 トウコさんが、洗濯物を畳む手を止めた。 「貴方たちは双子だわ。双子でなくとも、私たちは貴方たちを平等に扱うわよ。片方だけにあげるのは私たちの中ではNGなの。 だから、アキくんにもハルくんにもあげるわね」 「そ、そんな…」 普通はそれが当たり前だろうけど、でも本当に気を使ってもらわなくていいからーー 「アキ様」 「っ、はい、」 「ここは、お受け取りください」 「ぇ?」 無表情でやり取りを聞いてた月森さんが、目を細め笑っていた。 「我々大人が、渡したいと駄々をこねているだけなのです。気を遣っている等、余計な詮索はせずとも良い」 「ーーっ、」 「貴方は素直に、ただそれを受け入れればいい。私たちがしてあげたいだけなのですよ。 どうか、了承してはいただけないでしょうか?」 (りょう…しょう……) 俺も、プレゼントなんてもの貰っても…良いのだろうか。 「アキくん」 いつの間にか隣にトウコさんが座っていて、ぎゅっと手を握られる。 「あげても、いいかしら?」 「………っ、はぃ、ありがとうございます」 そんな目で見られたら、断るなんて無理すぎる。 やっぱり、龍ヶ崎は強引で優しいな… 流石レイヤの家だ。 「やったわ!」とトウコさんに抱きつかれ、慌てて受け止める。 「あぁ母さんずるいぞ!私も抱きつきたいアキくん!」 「社長はおやめ下さい」「あなたは駄目よ」 「えぇー少しくらいいいじゃないか!!」 「っ、あははっ」 「さぁアキくん。アキくんは何が欲しいのかしら?特に無いのなら私たちのお任せコースにするわよ?」 (俺の、欲しい…もの……) 本当に、何でもいいの………? みんなの顔を確認しながら、おずおず口を開く。 「あ、あの、欲しいものは本当に無いんですが…でも、その…… 出来れば、ハルとお揃いのものがいいなぁ…なん、て」 双子だけど、お揃いのものは今のところクマのぬいぐるみのみで。 十分嬉しいんだけど、でももし…また何か貰えるのならば、今度もまたハルとお揃いの物がいいと思う。 「まぁっ!任せてちょうだい!!」 「お揃いのものかぁー!うんうんいいね。そうしよう」 「お手伝いいたします」 そうと決まれば即行動!と言うように3人が一斉に動き出す。 (……そう言えば) 俺、レイヤと恋人同士なんだし…もしかしたらレイヤからも貰えたりするのだろうか? 前に貰ったこのネックレスのお礼もまだなのに、これ以上貰っちゃったら俺駄目になりそう。 何か返さなきゃ。 後は、イロハたちや先輩・先生方にもお礼がしたいな。 俺のこと助けてくれたのに、まだ何もお礼をしていない。 ……俺も、みんなにクリスマスプレゼント…あげたい。 「っ、でも」 「? どうしたんだいアキくん?」 「何かあったかしら?」 「ぁ、その…俺もみんなにプレゼントあげたいなと思って、でもお金が……」 プレゼントを買うお金なんか、持ってるわけが無い。 「んん、一応アキくんとハルくんをうちで預かるにあたって、小鳥遊からある程度の金額は渡されたが…」 「それは使っちゃ駄目です」 それは、俺のお金じゃない。 「そうだよね。うーんそうだなぁ……」 マサトさんと月森さんも一緒になって考えてくれる。 「あら、これだからお金持ちは駄目なのよ」 「? 母さん?」「奥様?」 「ふふふ、アキくん」 「…? はい、トウコさん」 「物が買えないなら、作ればいいのよっ」 「作る……?」 (作るって、一体なにを) 〝?〟を頭に浮かべる俺にニコリと笑って。 「大丈夫っ、私に任せなさい!!」 楽しそうにぎゅっと抱きしめられたーー [おかえり編]-end-

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