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第1話

「クロはさ、秋って言ったら何だと思う?」 「秋って言えば、そりゃイモとか栗とかだろ」 「何それ。食べ物ばっかじゃん」 「それじゃ駄目なのか?」 「俺が言いたいのはもっと違うの。行事」 「行事?」 「うん」 「ああ。芋掘りとか栗拾いとかか?」 「じゃなくてっ! ああ、もぅ……情緒ないなっ」 「ごめん」 「ハロウィン!」 「ああ、ハロウィンね。ハロウィン」 「そう。今年はどうする?」 「どうするって?」 「部は商店街のパレードに出るって、この間言ってたから……」 「ああ、そうだったな」 「だから衣装とか。どうする?」 「お前は、どうするんだよ」 「どうでもいいんだけど。クロと合わせる」 「そうか。それで相談なんだな?」 「相談だって言うか、どうするのかなって思って」 「そうだな……。俺、黒猫。お前、キキってのどうよ」 「……そう言うと思った」  それは何年か前に好評だったコスだった。今回は衣装の完成度を上げてパレードに出たいと言う黒尾に押されて仕方なく買い出しに出掛けることになる。 〇  そして翌日。ちょっとだけ街な駅までふたりして来る。 「俺のは、ただの黒い服だから探すのたいして時間かからないけど、お前のはちゃんと探さないとなっ」 「ぇ……どっちも同じだと思うけど…………」  むしろクロのほうが、ある意味探すのも大変なんじゃないかと思った研磨だが、その気になっているクロに言っても相手にされないと思って言うのをやめた。  駅から放射線上になっている道のどれを選ぶか。立ち止まって考える。 「どっち行きたい?」 「洋服屋のあるほう」 「だな」 「うん」 「お前は、女の子の服でも大丈夫だから、こっち行くか」  勝手に決められた。 「……バラエティーショップでいいんだけど」 「ちゃんとした服着ようぜ」 「何、ちゃんとした服って……」  本当はバラエティーショップで「キキの服」として売られているアレで良かったのだが、それではクロとしては許せないらしい。ほとんど引きずるような勢いで女子服ショップに連れて行かれると「キキが着るような黒い服を」と要望して即座に出された。 「ぇ…………」 「この時期、ご要望が多いので」  だから即座に出せますっ! と鼻息荒く言われて、それを満足げな顔のクロが受け取る。 「ほら、試着してみろ」 「……」 「大きかったら困るだろ?」 「ぇっと……」  そこで「大きかったら」と言うより「着れなかったら」と言って欲しかった研磨だが、相手の要望の眼差しを見てしまうと言うに言えなかった。  ザッと試着室のカーテンを閉められてひとりになると、渡された黒いワンピースを見つめる。確かに数年前はこんな服を着てもそんなに抵抗はなかった。だけどその時よりは身長も伸びたし、大人にもなった。なのにまたこれを着なくちゃならないのは何故なんだろう……とため息しか出ない。  でもいつまでもワンピースを見つめていても始まらない。研磨はワンピースを壁のフックに掛けると洋服を脱ぎ出した。 「もう着たか?」 「ぇ、まだだよっ!」 「そっか」 「まだ開けちゃ駄目だからねっ!」 「分かった分かった」  こんな調子では、いつカーテンを開けられるか分かったもんじゃない。研磨は素早く服を脱ぐと黒いワンピースを頭から被った。 「……」  身なりを整えながら鏡を見る。鏡の中には、ちょうどいいサイズの服を着た自分がいたのだった。 「あー……」 「着たか?」 「ぁ、うんまぁ……」  言い終えるよりも早くカーテンが開いたような気がする。ちょっとギョッとしながらも恥ずかしそうに鏡を見つめていると、クロの顔がグイッと入り込んできてマジマジと鏡の中の研磨を見つめる。 「服は、いいみたいだな」 「まぁ……」 「すみません、赤いリボンはっ?!」  店員にリボンを寄越せと催促すると、大きな赤いリボンを頭に付けられる。そして別売りのホウキを手に持たされると、自前の黒いスニーカーを履いて「キキ」の出来上がりだった。 「似合う」 「……」 「実に似合う」 「クロに褒められてもね……」  言ってはみるが、実はちょっと嬉しかったりする。それは女装が出来たからではなく、クロの嬉しそうな顔が見られたからだ。 「クロ。これ好き?」 「うんっ」 「……ならいい」 「これ、買うか?」 「うん」 「これでいいか?」 「うん」 「そっか! だったら、これ。すみませんっ! これ、お勘定!」 「ありがとうございまーすっ」 〇  かくして滞りなく買い物を済ませたふたりは、それぞれの荷物を手にホクホク顔で帰路に着いた。とは言っても、降りる駅は一緒でももちろん家は違うから研磨はクロの家に引っ張り込まれる。 「どうらお前ん家、共働きで母ちゃんまだ帰ってきてないんだろ?」 「……分かんない」 「だったら俺ん家で飯食って行けばいいだけの話だし。たっだいまっ~! 母ちゃん、研磨もいるからなっ! 晩飯研磨の分もなっ!」 「お邪魔します……」 「あら、いらっしゃい。ご飯食べていって大丈夫?」 「ぁ、はい。たぶん……」 「だったら作っちゃうね? ふたりとも先にお風呂入っちゃいなさい」 「ああ。入るか」 「ぁ、はい。ありがとうございます…」  またまた引っ張られて研磨は風呂までの廊下を歩く。 「クロ。俺着替え持ってない……」 「キキ着ろよ」 「着ないっ!」 「だったら毎度の俺の服だろうが」 「……うん」  けして広い風呂とは言わないが、研磨とクロが入るくらいのサイズはある浴室で体を洗い出す。体を綺麗にしているとクロが背中を洗ってきてくれたので、お返しに研磨も彼の背中を洗う。そしてふたりして髪の毛を洗うとゆったりと湯船に入る。まずクロが入って、それから股の間に研磨が入り込むような恰好で暖まる。両手で顔を洗っていると後ろから項を指でなぞられてゾクッとしてしまう。 「やめてクロ」 「分かった分かった。じゃあギュッてしていいよな?」 「うんまぁ…」  ここで「いい」と言っても言わなくても結果は同じで、クロは答えなんか聞かずに後ろからギュッと優しく抱き着いてくる。 「……」  このお決まりのパターンは嫌ではない。間近に見える彼の手に手を重ねると唇を寄せる。ちゃぷん…と水音がして体が密着する。 「クロは熱くないの?」 「熱くない」 「俺はもう熱い……」 「分かってるよ。カラスの行水だからだろ?」 「うん。もう体洗って髪の毛洗ったらジャブンジャブンで出たい」 「分かってる。でももうちょっと……抱き締めてから」 「……百数えたら出るっ」 「うん」 「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……」  こんな具合でどうにか百まで数を数えると本当にもうのぼせてしまって気持ち悪い。抱き締めるクロを振りほどいて立ち上がると湯船から出て洗い場で両膝をつく。 「もぅ……。クロ、じじいかっ……!」 「体真っ赤だぞ」 「その前に心配っ!」 「研磨大丈夫か?」 「誠意がないっ!」 「言われた通りにしただけだぞっ」 「…………くそっ」 「ごめん。じゃ、体拭こうか」 「このまま出たいっ」 「駄目駄目。ちゃんと拭かないと風邪引くし。大切な俺らの研磨をないがしろには出来ないだろう」 「……」  だったらもっと早く湯船から出して欲しい。 百までと言ったので本当に百まで数えるまで出してもらえなかった。 早く出たいと思っても数を数えるのを遅らせるように数える数の声をわざと被せてきたり。 色々色々と邪魔をしながら体を触りまくるのはホントにやめて欲しい。正確に言えば「体を触るのを」と言うよりは「数を数える邪魔をするのを」やめて欲しかった。 「のぼせるっ……。死んじゃうぅっ……」 「分かった分かった」  言いながら楽しげに体を拭いてくる。研磨は不本意ではあるが、逆にさせることによって優越感を得ようとしていた。 ゴシゴシと絞ったタオルで体を拭いてくるクロに洗い場で四つん這いになっている研磨だったが、執拗に股間を拭かれているのに顔をしかめた。 「クロっ!」 「はいはい」  玉の後ろまでしっかりとなっ……。なんて言いながら拭き拭きしているクロを怒鳴る。 クロは怒鳴られても意に介せずな雰囲気でニコニコと穏やかな顔のまま背中にキスをしてきた。 「もう出るっ!」 「はいはい」  腋に手を入れられてガバッと勢いよく立たされると肩を抱かれて浴室を出る。 バスタオルを渡されて拭いていると、彼自体が自分を浴室で拭いてないのに気づく。研磨は自分のタオルで彼の背中を拭くと「駄目じゃん」と口を尖らせた。 「俺はいいんだよ」 「いいわけないっ。ほら、ちゃんと拭いて」  ゴシゴシと相手を拭いてると互いに拭き合うかたちになってしまった。 洗面所で戯れている間に体の赤いのが収まってクロの下着とクロのスエット上下を借りて着る。 ガバッと頭を出したまでは良かったが、やっぱりいつまでたっても手と脚が出ない。 腕をたくしあげて脚を折り返すとやっと着ている風に落ち着くのだが、我ながら無様だと思う。でも相手はそうは思ってないらしい。こちらを見つめる目がぬいぐるみでも見るような柔らかな瞳だからだ。 「研磨。いつまでたっても可愛いなっ」 「クロ。それ言われても嬉しくない」 「うん、分かってる。でも可愛い」 「……」  もふもふしたいっ……って顔をしているクロを反転させると、その背中をグイッと押して浴室を出てキッチンへと向かう。 「飯っ~」 「出来てるわよ。さっ、食べて食べて」  その時になると研磨はクロに手を取られていた。 テーブルでは向かいではなく隣に座らされる。座ったとたん早速ご飯を食べ始める彼に続いて、研磨も手を合わせて「いただきます」と手を合わせると茶碗を取った。 「ケンママには連絡入れといたから、ゆっくりしていってね」 「ありがとうございます」 「お前はまず水飲め」 「ぁ、うん」  そういえば喉がカラカラだった。 用意されているお茶に手を付けるとコクコクッと半分ほど飲みコップを置く。 そうしてからまた食事を取り始めるのだが、かなりの頻度で彼の家での食事をごちそうになっている研磨はその旨さに顔がほころんでいた。  今日の夕食はハンバーグ。盛り上がってほとんど丸なんじゃないかと思うくらいふわふわで肉汁が半端ない。 これひとつでご飯三杯いけるんじゃないかと思うくらいの逸品だった。他にサラダ・ジャガイモの煮物・みそ汁に細々したもの。 クロの家の食卓はいつも賑やかにいくつものものが並んでいて、そのすべてがおいしかった。だからここに来るとついつい食べ過ぎる。そして食事の後には必ず果物かデザートが用意されているから、それを頭に入れておかないと後悔する。研磨はほどほどにと思いながら食事をしなければならなかった。  食事をしてデザートを食べ終えるとクロの部屋に移動する。 お腹が満帆になると眠くなるのは仕方ないと思う。ちょっとベッドで横になろうとしたらクロもくっついてきて結局ふたりして抱き着いて寝てしまった。 〇 「ん……ん…………」  ウトウトと眠りから覚めようとしている。  今何時……?  サワサワと体中を弄られて、まどろみの中で目を開ける。視界に写るのは天井…ではなくクロの顔だった。 「クロ……なに?」 「栄養補給……してる」 「……くすぐったいっ……」 「いいの。もうちょっとこのまま」 「ぅ…うん……」  抱き締められてスエットの中に手を差し込まれて背中を直に触られる。 左手がそれで右手は下のスエットの中だった。下着の中に手を入れられて尻の丸みをサワサワと撫でられている。 そうしながら首元に顔を埋められて髪の匂いを嗅がれながら舌でぺちょぺちょ舐められる。これは相手がクロだから許せる行為で、他の奴だったら嫌悪感しかない。  研磨は股間にモノを押し付けられながらの行為に自然に脚を開いてしまっていたのだが、あいにく関係はおしゃぶり止まりだった。 『入れたいっ』と以前言われたことはある。だけど練習や試合に拘わるから嫌だと言ったらすんなり引いた。だからふたりの関係は未だにその直前までで止まっていたのだった。 「ちょっ…なに……?」 「今度は前っ」 「ぇ?」  ガバッとスエットを上げられて乳首を晒されるとそこにむしゃぶりつかれる。 「んっ! んんっ……! んっ!」 「研磨の乳首はおいしいよなっ……。ここを刺激すると、違うところから乳出すしっ」 「ばっ! ばかっ! やらしいこと言うなっ!」 「でも事実だし。ここを……こうやると……」 「ぅっ……んっ! んんっ……ぁ…」  片方の乳首を舌で舐めながら甘噛みされ、もう片方の乳首を指の腹でギュッと握られるとモノを押し付けられる。 「もうちょっと楽しんでから下もしゃぶるから、そのつもりで」 「もうっ!」  なんでそんなことわざわざ口にするんだよっ! と言う気持ちで叫ぶ。 とにかくクロは執拗で、研磨がヘロヘロになるまで、否ヘロヘロになっても自分が満足するまでは止めやしないのだ。  それを分かっている研磨は抵抗はしないが、早く終わらせようとはした。 体の力を抜いてされるがままになるのだ。だけど感じてしまえば声は出るし、体はくねる。そしてさっき彼が言っていたように彼の前で射精だってするのだ。  研磨は上はたくしあげられたまま、下はまるっと脱がされていた。 ずっと乳首を舌で攻められながら体中を指が這う。研磨も彼に脚を絡ませて抱き着いていた。 「ぁ…ぁ…ぁぁっ……んっ……!」 「ああ……研磨のお乳はカリコリしていいなっ……。下も堅くなってきたし……そろそろ移動しようかな……」 「だっ…から……そんなこといちいち言っ……うなってばっ! ぁ…ぁぁ……んっ!」 「反応見ながらっての、俺は好きだよ?」  サワサワとウエストから腰の部分を撫でられて腹から勃起したモノを握られてしごかれる。 「ぅぅっ……ぁ……」 「前から今、自分でした?」 「っ……」 「した?」 「してないっ!」 「それはっ……嬉しいな」 「っ……」  そもそも『前から』と言われても一週間も経ってない気がする。 しかもそれさえも自分の意志ではない。今と同じパターンでクロによって導かれる。 焦らされて煽られて彼の手によって射精させられる。あまりに慣れてしまって、これじゃないと出せないんじゃないかと思うくらいだ。 「いただきます」  パクッと口に含まれると味わうように舌で転がされる。 「ぅ…ぅぅっ……ぅ……」  それが到底自分じゃ出来ないような舌技で、もしかしたら常にこうなってしまうのは、こうして欲しいからなんじゃないかと思うほどだ。 「やめっ……て……クロっ………っ…ぅぅ……んっ…………!」  それでも止めてくれはしない。 言えば言うほど執着されて袋を揉まれながら巧みな舌技で翻弄される。研磨は股の間に彼を挟みながら悶えに悶えた。 「あっ…ぁ…ぁぁ……んっ! も…もぅ……出ちゃうからっ…………!」  言い終えるよりも早く我慢出来ずに彼の口に射精してしまう。 それをしっかりと受け止められてゴクリッと大きく音を鳴らされると、こっちのほうが恥ずかしくなってしまうくらいだ。 「ゃ…」 「ふふっ……」 「んっ……!」  出してしまってからもすぐには口を離してもらえずに舌で転がされる。 研磨はもうブルブルと体を震わせて彼に身を委ねるしかなかった。 「も…やだっ…………。もぅ……もう出ないったら……ぁ…ぁぁっ……んっ………」  それでもしばらくは離してもらえなくておしゃぶりは続く。 クロはいつも研磨のモノをしゃぶりながら自分のモノをしごいて満足させていた。だから研磨はクロのモノを口にしたことはなかったのだが、その変わりふたりとも満足したら今度は研磨が彼に抱き着いて跨がってお礼のキスをすることになっている。  ちょっとすると低く小さな声を立ててクロが体を揺らす。それでようやく研磨のモノはおしゃぶりから解放されて脱力するのだが、股の間から顔をあげたクロの顔はとてもエロティックでいつもキュンときてしまうのだった。 「旨かったよ。それに濃度もいい」 「ばかっ!」  口を拭いながらそんなことを言われて軽くグゥパンチを食らわせる。 布団の中で抱き合って抱き着いて跨がると髪に指を差し込みながら首筋に顔を埋めて唇を寄せる。 「クロっ……クロ…………」 「耳元でささやいて」 「ぅん。……クロっ……」 「いい。……響くよ。キスして」 「うんっ……」  頬を両手で優しく挟むと正面からキスをする。 最初はチュッと唇を重ねるだけのキス。そして舌で唇を舐めてからの角度を変えての深いキス。舌を絡ませて鼻息の近さを感じて相手の睫の長さを改めて確認する。 「んっ……ん…………」  何度か角度を変えてキスをしていると、その間にも彼の手は研磨の体を這い回る。 下半身丸だしのままの尻を触られて丸みを確かめられ、腰のくびれから背中や胸へのルートを辿る。だけど「されたことへのお礼はきちんとしないと」と必死になって舌を絡ませるのだが、どうしてもクロのように旨くは出来ていないような気がしていた。  数分そんなことを繰り返していると不意打ちで体の位置を変えられて、やっぱりクロが上になって抱き締められる。 「もういいよ」 「……」 「抱かせてくれ」 「ギュッと?」 「ああ」 「それは駄目」 「ぇ…」 「俺、苦しいもん。そっとして」 「ん?」 「ギュッとじゃなくて、そっと抱いて。俺、いなくならないから」 「…………だな」 「うん」  言ってからの返事をする彼の顔が好きだ。  ちょっとはにかむような、納得するような……。まどろみの中で見せる彼のその顔が好きだと思った。 〇  戯れてからの帰る間際。服を着ようとベッドから出ると言われた。 「キキの服着てみて」 「え?」 「どうせ今から上のスエット脱ぐんだろ?」 「……それは、そうだけど…………」 「だったらいいじゃん」 「いいけど…………」  結局要望に負けて、その場でキキの服を披露することになった。ただし下着はつけないで、だけど。 「…………これで、いい?」 「うんっ」 「……クロ、悪趣味」 「そんなことないよ。でも…………」 「なに?」 「もったいないな」 「なにが?」 「人に見せるの」 「ぇ、だってこれ人に見せるために買ったんだろ?」 「そうだけど」 「……」 「そうだけど、やっぱり止めるっ」 「は?」 「これは俺以外見ちゃ駄目な研磨だから」 「ぇ……っと…………」  だったらどうするんだよ……と困り顔で相手を見つめると力説するようにもう一度同じ言葉を言われた。 「駄目だから」 「…………駄目だよ」 「ぇ?」 「これはハロウィン用に買った服なんだから。それにパレードに出るって決まってるだろ?」 「そりゃそうだけど」 「……こういうさ、パンツ履かないのはクロの前だけにするし」 「当たり前だっ」 「だからハロウィンはちゃんとやろうよ」 「いいけど……。ちょっと手、入れてもいい?」 「どこに?」 「スカートの中」 「…………いいけど。クロだけだからねっ」 「分かってる分かってる」  言いながら黒いワンピースの裾から手を入れてくる。素肌の尻を触られて太ももも触られてるなぁ……と思ったらガバッと頭を突っ込まれてスカートの中で股間にほお擦りをされた。 「ギャッ! クロっ! そんなのいいって言ってないっ! やめてっ! やんっ! んんっ!」 「いい眺め。てかロクに見えてないけどねっ!」  はははっ! と笑われて、バシバシ相手を叩きながらどうにかスカートの中から追い出す。 「ばかっ!!」 「時間ないから今日はここまでだけど、ハロウィン終わったらノーパンキキのスカート捲って抱き締めたいからそのつもりでっ」 「もうっ!!」  買う時から薄々分かっていたけれど、やっぱりこういうことがしたかったんだなと改めて思う。 女の子の洋服が違和感なく着れてしまうのは、いいのか悪いのか。クロが喜んでくれるのは嬉しいけど、これ、続けて正解なのかな? と最近思う。  研磨は急いでさっき履いていたクロのパンツを履くと自分の服を抱えてドアに手をかけた。 「クロ嫌いっ」 「ごめん。もう一回戻ってきて」 「やっ」 「ハロウィン楽しも」 「それは…そうだけどっ!」 「もうそんなこと言わないから」 「……」 「言わないのは誓う」 「……でも行動はするんだ」 「うんっ」 「だったら駄目じゃんっ」 「だーって! 俺、研磨のこと好きだもんっ」 「俺だってクロのこと好きだけどっ……!」 「ハロウィンの後、楽しも」 「けど…………」 「悲しませないよ? 泣かせないよ? 研磨の気持ちいいことしかしないよ?」  その目があまりに真っすぐだったので、それに騙されてしまいそうになる。だけど、それはいつもいいようにされて……。  けどけして彼は痛いことはしてこなかった。それは事実で……。  研磨の中には色んな思いがグルグル回って口が『もにゅもにゅ』する。 「クロ、ずるいっ」 「……そう?」 「うん、ずるいっ。俺が嫌って言えないの知っててそんなこと言うっ!」 「ばれたかっ」 「ずっこいっ!」 「でも俺が研磨を好きなのに変わりはないから」 「それは俺だって負けないっ!」 「だったらお合いこな?」 「うんっ!」  両手を広げられて反射的に飛び込んで抱き着いてしまう。 〇  結局、ハロウィン当日。研磨は赤いリボンをしてキキの服を着てホウキ片手に商店街のパレードに出ていた。 ただし黒いワンピースの下から見える脚は素足ではなく厚手の黒いタイツ姿だった。 直前までスエットを捲っていたのをバレー部のみんなに咎められ、それを聞いていた洋品店のおばさんが「だったら」と厚意でくれた寒さ対策の黒いタイツを履いてみんな納得。 「研磨似合う」 「……暗くなるのに全身黒いと逆に不安だよ」 「でもそれで寒くないんだから、いいじゃないか。それにリボンは赤い」 「それは、そうだけどっ……」  みんなから称賛されて音楽の流れる中、付近の学校の生徒がズラリと並んで歩きだす。 最初は幼稚園・保育園。それから小中学校。それに加えて最後に高校が参加する。 列は希望者だけの集まりとは言え、結構な人数になっていた。その中にキキの姿をしていたのは何人もいたのだが、クロは「お前が一番っ!」と譲らなかった。 「大人気ないよ。俺は小学生のあの子が可愛いと思う」 「あれはあれで可愛い。けどやっぱり俺は研磨が一番なのっ!」 「…………もういい」  パレードが終わってから商店街配布のお菓子を保育園生に混じってもらう。年齢問わず配られたのはプリッツだった。 「チョコついてない」 「お子様にチョコは駄目だろ。だからじゃないか?」 「ふーん……」  別にこれが欲しくて参加したわれじゃないからいいのだが、それにしても何故プリッツなんだろうと思う。 「ポッキーの日、近いのに」 「はっ!!」  それを聞いたクロが大きく体を踊らせて驚いた。 「もしかしてもしかしたら、それでチョコついてないとか言ったとか?!」 「別にそうでもないんだけど……」 「そっか。ポッキーの日か。近いな。近いもんなっ! そういえばポッキーの日が近いなっ!」 「クロ……」  また何か目論みだしたクロに研磨はひたすら冷たい視線を送った。 「よしっ! ポッキー買いに行こう! ほっそいヤツ! ポキッって折れちゃいそうなヤツ!」 「だからそれ、今じゃなくてもいいんじゃない? 今日ハロウィンだし……」 「うっ! うーんっ……うーん……うーん……………。まあ……研磨がそう言うんなら……そう言うんなら……そう言うんなら……」  ちょっとウズウズが収まらない。 手を開いたり綴じたりしながら研磨の回りをうろついて、後ろからガバッと抱き着いて首元に顔を埋める。 「クロっ?」  我慢してるの? と体を反転させて向かい合うと大きく頷かれる。 「仕方ないなぁ……。じゃ、今からコンビニ行こうか」 「っしゃ!」  とたんに元気になるのも分かっていた。けどそれで気が済むなら……と思うけど、たぶんこれからがまた大変だ。  帰ったらきっと予行演習とかって流れになるんだろうな…………。  即座にそんなことが頭の片隅を過る。けれどそれも結局想定内。クロに手を取られながら夜道をコンビニに向かう研磨だった。 終わり 20181121 タイトル「研磨のクロ、クロの研磨 ーハロウィン編ー」

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