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第50話
我が国は確かに農業に携わったり少数ながら漁業で生活をしていたりする民も居る。しかし、キリヤ様の神殿は「戦さの神」を祀っているだけだ。農業神も海の神もおわします。
こじんまりとはしているものの、各々神殿が有る。
農業でも漁業でも天候は大切だし、戦さ神の神殿ほど大きくもない。だから普通に考えると、神殿同士の付き合いというか、最も大きな神殿が一括して調べていて、それを他の神殿も共有するという仕組みになっているのかもしれない。
けれどもファロスの頭の中にはもう一つの考えの方が説得力を持つような気がした。
つまり、戦さでも天候は大変重要だ。雨の日に火責めなど出来ないとか、矢は順風の方が有利だとかそういう情報を予め掴んでおくという。
ただ、中立のハズの神殿が果たしてそこまでするのだろうかとも思ったが。
黒い髪を振って眉間へと精神を集中させた。ファロスにはこの動作が最も頭の働きを良くすると経験則で知っていたので。
しかし、情報不足のためになかなか結論は出ない。
扉を控え目に叩く音で我に返った。
そろそろ、館を出て王城へと入らなければならない刻限だった。ロードが気を使ってくれたのだろう。思索の淵に沈んでしまいそうになりかけていたので助かったが。
頭を大きく振って、戦さのことだけを考えようと気持ちを切り替えた。
「ああ、ロードか。その恰好見違えたぞ。何だか本当に戦に行って奮戦したような感じだな。それなのに朝食を運んでくるとは……その落差が可笑しい」
エルタニア風の軍装を着ているので、リュカスを補助する役割なのだろう。
「ご主人様、私は更に武張った感じのフランツの戦支度の方が似合いますよ。しかし最も相応しいのは我が国の軍装です。
今回は仕方なく……です。エルタニアの宰相殿の陰謀の計画を王の耳に入るように仕向けなければなりませんので。そのためにはエルタニア軍の捕虜に紛れる人数が多い方が良いでしょう」
気心の知れたロードだけに、身分に関係なくこうした雑談が出来る。
「早速頂こうか。良かったらロードもどうだ?」
ファロスは参謀役ということもあって着替える必要はなかったが、ロードもそして他の腹心達もエルタニアやフランツの軍装を着用する時間が必要だっただろうし。
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