4 / 5

第4話

「……ごめん……、ごめん、ずっと……」  途切れそうにささやかな声音。 「おまえのこと、好きだった」  そう言う語尾が震える。 「今日おまえ、違った。少し前から、ぼんやりして心ここに在らずな……女、出来たんだろ? もう来なくなる……なら最後に」  鼻を啜る音。まさか泣いているのか? 驚いた瀧澤は肩をつかんで顔を見ようとした。  しかし、しがみつくように胸元に顔を押し付けているのは、紛れもなく男の力。細身とはいえ、けして華奢ではない身体は簡単に動かない。  瀧澤は、ただ困惑していた。  さっきから胸を締め付ける疼きが収まらないのだ。こんなもの、初めての経験だ。どうしたものか。  そんな感情のまま、ようやく口をついた言葉は 「おまえ、イったのか」  最悪だった。 「……っ……ごめ……」  殆ど息だけの言葉と共に、ヒクッとしゃくるような息遣い。それに連動するように、瀧澤自身を包む部分が細動した。 「っ、そう……言われてもな」  謝罪なぞ要らん。それよりだ。  コイツはイったかも知れないが、コッチはまだなのだ。  隘路の中でいきり勃ったままのモノは、未だ継続して放出を求めている。  泣いている芝草の身体が僅かに動くごとに刺激を受け、もっと強い刺激を欲して脈打っているのだ。  手を伸ばし、ギュッと尻をつかむ。 「は? なにし……」  狼狽えた声。  筋肉の張りが指を跳ね返す、ただ柔らかいだけでは無い感触、そして滑らかな肌触り。  抗うような動き。熱。すべて情動に直結する。  ……もっと欲しい。  この気持ち良い場所を突き上げたい。  瀧澤は身を起こし、体を入れ替えようとした。しかしソファは狭く、芝草のケツが床に落ちて埋め込んでいたものが抜ける。 「痛っ、なに……」  弱々しい抗議の声。  見下ろすと、涙に濡れた頬と色づいた唇、潤んだ瞳が目に入る。 「済まん」  片膝をソファに載せ、芝草の両太ももを抱えて尻を持ち上げると、さっきまで収まっていた場所へ、滾ったものを一気に根元まで押し込む。……気持ち良い。 「ぇ? あ……? …たき……」  涙の乾いていない目を見開き、動揺露わな芝草に 「黙ってろ」  それだけ返し、瀧澤は腰を使った。 「ぇあっ、ちょっ、んく、おい、はっ、おま」  抗議の声と嬌声が交互に漏れる。  瀧澤は唸るような声を漏らして動いた。  やはり、目眩しそうな程気持ち良い。色づいた唇がまたなにか言おうと開いた。白い歯と、蠢く舌。  また、胸がきしむ。痛みではなく疼くような。これはなんだ。  唇を塞ぎ、吸い上げながら、夢中で腰を使った。  知識にはある。  おそらく、この胸の疼きにつける名前があるとしたら、それは…… 『愛しい』  脳裏に浮かんだ言葉を確認するように、瀧澤は夢中で動き、初めて覚えるような快感の中、芝草を抱きしめた。  妻にすら、ここまで胸が疼いたことなど無かった。  なのに、なんで、芝草に……  ひたすら混乱に包まれたまま、身体は放出を、満足を求める。  ただ、この行為を終えたら、そうしたら  少し冷静になって、きっと話せる。  母が再婚したこと。  幸せそうに「おまえも幸せに」と言われたこと。  自分を必要とする者はいないと思ったこと。  ……芝草がいる。そう思えた、こと。  そしておそらく、自分はこう言うのだろう。 「嫁に、来るか」 完

ともだちにシェアしよう!