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第4話
「……ごめん……、ごめん、ずっと……」
途切れそうにささやかな声音。
「おまえのこと、好きだった」
そう言う語尾が震える。
「今日おまえ、違った。少し前から、ぼんやりして心ここに在らずな……女、出来たんだろ? もう来なくなる……なら最後に」
鼻を啜る音。まさか泣いているのか? 驚いた瀧澤は肩をつかんで顔を見ようとした。
しかし、しがみつくように胸元に顔を押し付けているのは、紛れもなく男の力。細身とはいえ、けして華奢ではない身体は簡単に動かない。
瀧澤は、ただ困惑していた。
さっきから胸を締め付ける疼きが収まらないのだ。こんなもの、初めての経験だ。どうしたものか。
そんな感情のまま、ようやく口をついた言葉は
「おまえ、イったのか」
最悪だった。
「……っ……ごめ……」
殆ど息だけの言葉と共に、ヒクッとしゃくるような息遣い。それに連動するように、瀧澤自身を包む部分が細動した。
「っ、そう……言われてもな」
謝罪なぞ要らん。それよりだ。
コイツはイったかも知れないが、コッチはまだなのだ。
隘路の中でいきり勃ったままのモノは、未だ継続して放出を求めている。
泣いている芝草の身体が僅かに動くごとに刺激を受け、もっと強い刺激を欲して脈打っているのだ。
手を伸ばし、ギュッと尻をつかむ。
「は? なにし……」
狼狽えた声。
筋肉の張りが指を跳ね返す、ただ柔らかいだけでは無い感触、そして滑らかな肌触り。
抗うような動き。熱。すべて情動に直結する。
……もっと欲しい。
この気持ち良い場所を突き上げたい。
瀧澤は身を起こし、体を入れ替えようとした。しかしソファは狭く、芝草のケツが床に落ちて埋め込んでいたものが抜ける。
「痛っ、なに……」
弱々しい抗議の声。
見下ろすと、涙に濡れた頬と色づいた唇、潤んだ瞳が目に入る。
「済まん」
片膝をソファに載せ、芝草の両太ももを抱えて尻を持ち上げると、さっきまで収まっていた場所へ、滾ったものを一気に根元まで押し込む。……気持ち良い。
「ぇ? あ……? …たき……」
涙の乾いていない目を見開き、動揺露わな芝草に
「黙ってろ」
それだけ返し、瀧澤は腰を使った。
「ぇあっ、ちょっ、んく、おい、はっ、おま」
抗議の声と嬌声が交互に漏れる。
瀧澤は唸るような声を漏らして動いた。
やはり、目眩しそうな程気持ち良い。色づいた唇がまたなにか言おうと開いた。白い歯と、蠢く舌。
また、胸がきしむ。痛みではなく疼くような。これはなんだ。
唇を塞ぎ、吸い上げながら、夢中で腰を使った。
知識にはある。
おそらく、この胸の疼きにつける名前があるとしたら、それは……
『愛しい』
脳裏に浮かんだ言葉を確認するように、瀧澤は夢中で動き、初めて覚えるような快感の中、芝草を抱きしめた。
妻にすら、ここまで胸が疼いたことなど無かった。
なのに、なんで、芝草に……
ひたすら混乱に包まれたまま、身体は放出を、満足を求める。
ただ、この行為を終えたら、そうしたら
少し冷静になって、きっと話せる。
母が再婚したこと。
幸せそうに「おまえも幸せに」と言われたこと。
自分を必要とする者はいないと思ったこと。
……芝草がいる。そう思えた、こと。
そしておそらく、自分はこう言うのだろう。
「嫁に、来るか」
完
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