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第1話、蝋燭、鞭
空気を裂く音。
よく鞣された縄が身体を這う。
床に這いつくばった男が昂揚した顔で見上げた先には長い髪を結わいた男が妖艶に微笑んでいた。
「蝋燭、好きでしたよね。」
「ぁ…ぁ…、すき、です…ください…」
炎が燈された真っ赤な蝋燭。
それ専用だと解っていても緊張に背中を汗が伝う。
「はい、どうぞ。」
「あっ、うぅぅ…あっ、」
「気持ち良いですか?」
「はいっ…あつっ、きもちぃ…です…」
突然あちこちに垂らされていた蝋燭が止まる。
伺う様にそちらを見上げれば何かを考えている様な男がしゃがみ込み目線を合わせた。
「少年、って本は読んだ事はありますか。」
「ぇ…、いえ…すみません…」
こんな場面での唐突な質問に疑問符が浮かぶ。
すっと細められる目。
まるで偽物みたいで何も映していない。
「そうですか。」
それだけ小さく呟くと皮膚のやわらかい部分に感じる熱。
白い肌に咲く鮮やかな蝋に殺しきれない声が漏れる。
五月蝿いと更にかしがられ痛みと羞恥に身体中が赤く染まっていく。
「ぁっ…す、すみませっ…あつっ…つぅ…すみませんっ、つばきさまぁぁ」
「何か悪い事でもしましたか?」
「ほんっしらなっぁっ…あつ…」
「……」
冷めた表情で見下ろす。
「舌出してください。」
言われた通りに出すと舌に垂らされる蝋燭。
「あ、ひっ、ひっ、…」
床に這いつくばる男は溶けた蝋を飲み込まない様にだらしなく舌を伸ばす。
唾液を垂らしながらこれ以上目の前の男の機嫌を損ねないように熱いのに堪える。
最後に蝋でコーティングされた舌に先を押し付け火を消され、あまりの恐怖に失禁してしまった。
「可愛かったですよ。」
涙と涎で汚れた頬を撫で、長髪の男はステージ脇へと消えていった。
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