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ー記憶ー

「それはだな…お前とここの病院でコンビを組んで働いていたからなんだよ…。俺が看護師でお前が医者って事な…」 「そうだったのか〜ん…ちょ、悪い…今日は疲れてるから、話はまた今度にしてくれないか?」 「ああ、じゃあ分かった…。また、何かあったら俺の事呼んでくれよ!直ぐに飛んで来てやるからなっ!」 そう言うと和也は望に向かい笑顔を向け病室を後にする。 どんなに悲しい状況でも男は誰にも涙を見せてはならない。 かっこよく言えばそうなのかもしれないけど、友達がああいう状況になって泣かない奴なんているのであろうか? 今は夢ではない…現実だ。 これが、もし、夢なら泣かないで済むのかもしれないけど、現実なのだから…。 今、和也は望の前では笑顔でいられた。だけど、雄介に望が記憶喪失になったって事を聞いて、最初は嘘だと思っていたのだけど、話をしてみて、やっぱり、雄介の言う通り望は完全な記憶喪失だと言う事が分かった。 ドラマ等で記憶喪失の話を見たことがあるけど、実際に自分の身近な人がなってしまうとやはり死んでしまったかのような気分だ。 そこにいるのは望であって望ではない人物。 記憶を失くすという事は今までの思い出も自分の事さえも完全に望にはない訳で、本当にそこが辛い。 普段泣かない自分でも、やはり、現実を突きつけられると、涙は勝手に溢れてくるもんだ。 だが、和也はその涙をなんとか歯を食いしばってまで耐え、深呼吸する。 確かに記憶を亡くしている望。だけど!お医者さんが言っていたんじゃないか!普段の生活の中で自然と戻って来るという事があると…じゃあ、それに賭けようか? だったら、今まで通り望に接して来た方がいいんじゃないのか? そうだ!この涙は望が記憶を戻した時の為にとっておこう! そう和也は決意すると、今はいない望との部屋へと戻る。 一方、病院を後にした雄介は歩いて自分の家へと向かっていた。
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