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【12章】ー平和ー1

 部屋内には、パソコンのキーボードを叩く音だけが響いている。  それも一台だけではない。  この家の住人である望と雄介二人してパソコンを叩いているパソコンのキーボード音が響いているのだ。  雄介が大学に入学してから、もう三年にもなる。  雄介もこの時期になると、レポートや講義と忙しくらしく望の方も自分の父親に頼まれた診療所を開く為に今色々と毎日のようにパソコンに向かい勉強をしているからだ。  昔は二人でデートをしたり、話をしたり、時には喧嘩をしたりしていた事さえ今は懐かしいと思える位、今の二人には自由という時間が無い位だ。  今は同じ屋根の下に居ても今は会話さえほとんど無い状態のようだ。  時に雄介が頭を悩ませ頭を掻く音が響く位で二人共パソコンに向かい集中しているのだから。  こんなにも近くにいるのに今は抱き合うどころかキスもしていないであろう。  フッと雄介はキリがいい所でキーボードから手を離すと、今の時刻は夜中の二時を指していた。 「もう、こないな時間やったんかいな……」  そう溜め息混じりで言葉を漏らす。  そして机から立ち上がると、望に気を使ってなのかそっと着替えを取りお風呂場へと向かう。 雄介はとりあえず終わったのであろうが、まだ望の方はパソコンに目を通している姿を見かけたからだ。  雄介はお風呂から上がってきても望は未だにパソコンに向かっていた。  雄介は一つ溜め息を漏らすと、一人寂しくベッドへと潜り込む。  今はそんな毎日が続いていた。  例え同じ時間位に家を出て同じ時間位に家に帰って来ても、今は二人の間に会話はほとんど無い。  これでは雄介が消防士時代とまったく変わりないのかもしれない。  いや雄介が消防士時代というのは雄介が一日置きに休みだったのもあるが、雄介には仕事の時間以外には余裕があった為か少なくとも二人の間には少なからず会話はあった。 だが今の二人にはその時以上に会話は無い。  ある意味、新婚を過ぎた頃の夫婦状態だという事だろう。  同じ屋根の下で暮らしているのではあるが、新婚の時のようにラブラブではなく居て当たり前の存在で会話が無いという状態というのであろうか。  いや全然違うのかもしれない。 ただ、お互いのことに関して邪魔をしたくは無いと思い気を使っているからこそ会話がなくなっているっていう事だ。  再び、この二人の間に会話が生まれるのは果たして、いつになるのであろうか。 それはまだ検討もつかないところだ。

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