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ろくでなし

普段女にしていたことを自分がされる。 まさかそんな日が来るとは思わなかった。 「ほら、もっと足開いてよ」 言われるがままに自分で持ち上げていた足をさらに開いて、後ろの孔を目の前の男に晒した。 「きれいなお尻のアナ、よく見えるよ」 「んなこと、わざわざ言うな……クソが」 「言うよ、ちゃんと理解してもらわないといけないから。君の、自分の立場をね」 立場。そう、俺はこいつの言いなりになるしかない。 こいつは俺の全人権を握っているのだから。 高卒でデキ婚、その後浮気をしてバレて即離婚してギャンブルに溺れた。すぐに元嫁への慰謝料も養育費も払えないようになった。 ギャンブルでは負けが続いて、カードローンの審査も通らなくなり、闇金に手を出したのがいけなかった。 ろくでなし。俺はそう呼ばれた。 それからは借金の取立てに追われ、自己破産しようとしたが、その前に俺は捕まり、失踪したことになった。 事実上、社会的に殺された。 「臓器を売り捌かれるのと、人権を売るの、どっちがいい?」 闇金会社の社長に、俺はそう言われた。 臓器を売り捌かれるというのは、各パーツを売り捌く、すなわち殺されるということだ。では、人権を売るとは? 話を聞けば、生きたまま人間のペットになることらしい。 つまりは、人身売買ということだ。殺されて売り捌かれるよりはマシだ。 「人権、売ります」 そうして、返せなくなった借金を返済するために、俺はペットショップならぬ人間ショップに売り渡された。 人間ショップでは、一定期間飼い主が見つからない人間は殺処分され臓器が売り飛ばされると言われた。 俺は必死に除きに来る客に媚を売るような視線を向けた。相手が男だろうが女だろうがもう構わない。 そうして、俺はこの男に買われた。 俺はこの男のペットになったのだ。 男は俺の下半身をローションまみれにして尻穴にバイブやディルドを突き入れる。 なにか薬が塗られているのか、痛みは不思議なほど感じない。 おとなしく言うことを聞いていれば、キスをされた。 「う、ぇ……」 乾燥した唇の感触。今までキスした女とは違う感触に吐き気がする。 「嫌がらないでよ」 男は泣いていた。そして今度は舐めるようなキスをされた。 「泣きてえのはこっちだよ……クソ」 「泣いてごめんね、大丈夫。すぐに君も泣きながら俺のおちんちんを欲しがるように躾てあげるからね。大好きな悟くん」 サトル、久しぶりに耳にした自分の名前だ。 「なんで、俺の本名知ってんだよ」 人間ショップで売られている人間はすでに戸籍を抹消されている。店頭での記載事項は性別、年齢、タトゥーの有無だけで、店の人間ですら売られている人間の名前は知らされていないはずだ。 知るはずがないのに、何でこの男は俺の名前を知っているんだ。 「君を人間ショップで見つけたときは驚いたよ。俺のこと覚えてない?覚えてないだろうなぁ……だって小学校5年生の3学期にちょこっとだけ同じクラスだっただけだもんね」 記憶にない。というより、そんな昔のことなんか覚えてない。確かに俺は子供の頃親の転勤で引っ越しばかりしていたけれど、小5の3学期なんてピンポイントな時期は特に何も覚えてない。 「思い出してくれないかなぁ。悟くんは、いじめられてた俺を助けてくれたよね?家にも来てくれたよね?」 いじめ、家。このふたつで俺は思い出した。こいつは、確かに俺が小5の時にはじめて家に呼ばれたクラスメイトだ。 体格が大きくて、やたらどんくさくて、クラスのやつらにいじめられていた。同じようにいじめるよう言われたのを断ったんだ。 別に助けた訳じゃない。すぐに引っ越すし、面倒なことに巻き込まれたくなかっただけだったんだ。 「思い出してくれた?また次に来てくれる予定の前の日にまた悟くんが引っ越ししちゃったんだよね」 冷や汗が止まらない。 俺は、なぜあんなに酷い記憶を忘れていたんだろうか。 「大好き大好きしただけなのに、悟くんのお母さんとお父さんが怒鳴りつけに来たんだよね」 そう、俺は、小5のあの日、こいつに、こいつの家で、犯されたんだ。 当時、まだ体も小さかった俺は、大きくて重たいこいつに、なんの抵抗も出来ずに、犯された。 泣いて喚いて、どうにか逃げ出して、とんでもない格好で帰ってきた俺を見て、それを知った親が早々に引っ越しを決めて、転校して……俺は最悪な記憶の一切を忘れたんだ。 「や、やめろ……やめろよ、近付くな」 「君が好きだった。これで、ずーっと、一緒だよ。悟くん」 気持ちが悪い。 俺はたまらず、込み上げた胃液を吐き出した。 神様、ろくでなしは助けてもらえないのでしょうか?

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