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切れたはずの糸を君が結びに来た
「……お前、意味分かってんねやろな?」
イキナリ訪問してきた挙げ句に、玄関先で「オレのこと抱けよ」と宣った渉を睨み付けながら呻く。
渉に想いを告げたのは、いつのことだったか。あの時渉は、気持ち悪いと吐き捨てて、二度と近付くなとオレのことを切り捨てたはずだ。
それなのになんでこんなことになっているのかとオレよりも少し背の低い渉を見下ろせば、怯んだように視線をさ迷わせた渉が目を逸らしたまま呟く。
「知らねぇよ」
「っ、おまえ、」
「知るかよッ」
悲鳴じみた声でそう吐き捨てた渉が、泣き出しそうな目でオレを睨んだ。
「きもちわりぃって……意味分かんねぇって思ってんのに……お前がっ! お前がボロボロになってるとか言われてっ……放っとけばいいって思ってたのに……っ」
「わた……」
「放っとけねぇんだよ! お前のそんな顔見たら! 放っとけねぇんだよ!!」
「……渉……」
「な、んなんだよ、シャンとしろよ! お前はいつだって飄々として、いつだって大人ぶってて……こんなことで! 落ち込んでんじゃねぇよっ」
苦しげに叫ぶ渉の目に滲む涙が、オレを苦しく掻き乱す。
「ぉ、まぇはホンマに……無自覚に誘う天才かっ」
吐き捨てて唇を塞いだら、そのままの勢いで貪った。
「ンッ、ふ……っぁ、は」
「……知らんぞ、ホンマに」
「るせぇ」
目を会わせないまま呻いたオレの、胸ぐらを掴んだ渉が
「いいから、──抱けよ」
挑むような目でオレを睨んで、ぎこちなく唇に噛みついてくる。
「後悔……しても知らんぞ」
「つべこべ言ってんな」
「止まらんぞ、お前が泣いても」
「泣くか」
強がりを吐いた唇を塞いで、勢いに任せて渉を床に押し倒したら、シャツをたくしあげて素肌を撫で上げた。
「っふ、……っ、は」
ぴくりと体を震わせる渉を見下ろす。
「なんだよ……」
「……綺麗やなと思って」
「っ、バッカじゃねぇのっ」
ボンッと顔を真っ赤にした渉がぎゃあぎゃあ喚くのを見てようやく漏れた笑いが、自分の肩に入っていた力を抜いてくれたような気がする。
「めっちゃそそられる」
「……っ」
「アカンわ、ホンマ。……こんなん……」
すまん、と呻くように呟いたのが最後。渉の返事も聞かずに覆い被さって、目に入る場所1つ1つに丁寧に唇を落とした。
「んっ……ッ」
その度に跳ねて震える体と漏れる声が、その都度オレを煽るから。夢中になって唇を押し当てては吸い付き、舌を這わせて指でなぞっていく。
至るところにつけた紅い印を万感の思いで見下ろす頃には、渉の顔も紅く蕩けてすっかり息が上がっていた。
「……えぇ顔やな」
「ぅるせ……」
ぷぃ、と紅い顔を背けた渉にそっと笑って、つ、とへその辺りを撫でたら、ぴくりと跳ねた腰がズボンの中で自己主張している渉自身をオレの目の前に晒してくれた。
「……脱がすぞ」
腰浮かせ。
ドキドキと高鳴る心臓を隠してぶっきらぼうに放ったら、渉が酷く恥じらう顔でオレをじっと見つめた後に、ふぃ、と顔をそらしながらそっと腰を浮かせる。
下着ごと剥がすようにズボンを脱がせて床へ放り捨てたら、ひくひくと恥ずかしげに震えながらも頭をもたげたそこにそっと触れた。
「っ……ッ、ぅ」
悩ましげに眉を寄せて呻いた渉が、自分の腕で口元を覆う。
「……声」
「……ぇ」
「聞かせてや」
「ばっ、何言っ、て──っぁぁ」
切羽詰まった声でオレを罵るはずだった渉が、不意に与えられた刺激に声を漏らす。
もっと声が聞きたくて、軽く握りこんで擦り上げて堪えきれない嬌声を引き出した後に、優しく柔らかく撫で上げて満足気な溜め息を聞く。
蕩けきって潤んだ目を瞼の下に隠した渉が唇を噛んで快楽に浸るのを見つけたら、欲に反り返るそこに唇を寄せて
「ぇっ?」
戸惑う声を無視して頬張った。
「ちょっ、何し、てッ」
文句を叫ぶつもりだったらしい唇は、叶わずに嬌声を放つだけになる。
やめろ、と切れ切れに叫ぶ唇が戦慄いて、どくりと弾けた白濁を余さずに飲み干したら
「やめろって言ったのに……」
涙目で責めてくる悔しげな唇に貪りついた。
「んっッ、ぅぁっ」
渉の味の残る舌で、渉の口内を攻める。
嫌がってもがく顔を左手で押さえつけながら、吐き出したばかりの渉自身に右手を伸ばす。
「っひぁ……っや、ぁ、ぁ」
ふるふると揺れた頭。唇を離したら、これ以上ないほどに紅く蕩けた顔で、渉がオレを見つめてきた。
「い、ま……だめ」
「ダメなことあるか」
意地悪く笑って見せながら、ゆるゆるとしごく。
「今の内に気持ちよぉなっとけ。この後、お前が気持ちよぉなれる保証はしてやれん」
「っ……」
ぴくり、と渉の目が揺れた気がして。
「──今やぞ」
「なにが」
「最後や、ここが。引き返せる最後やぞ」
「るせぇ、しつっこいんだよお前は」
やるっつったらやるんだよ。
蕩けきっているくせに、瞳はキツくオレを睨み付けてきた。思いの外意思の強い瞳に、ニヤリと唇が歪む。
「わかった、もう言わん」
「ン、ッぁ……ァ」
呟いて手の動きを再開したら、堪えきれなかったらしい声に耳を心地よくくすぐられた。
せめて傷付けないように、出来る限り負担の少ないようにしてやりたいけれど、正直もう我慢も限界だった。
こくりと自分の喉が鳴ったのには気づかない振りで、渉をしごいていた右手を後孔に添える。ギクリと目を開けた渉を見つめ返した。
「心配すんな。絶対、傷つけたりせん」
「っ、……ッ」
パクパクと口を開け閉めする渉をじっくりと観察しながら、ちょうどよく濡れた指をゆっくりと根本まで埋めていく。
「ぅ、ッ……ふ、は……」
本能に急かされ、渉の苦し気な吐息に煽られながら、どうにか欲を押し止めて指をゆっくりと動かした。違和感に眉を寄せるだけの渉は、時折苦し気に息を吐いては唇を噛んでいる。
少しでも気を紛らせてやりたくて、すっかり萎縮してしまった渉自身をそっと包んで柔らかく擦った。
「ふ、ぅン……っゃ」
思わず漏れたらしい声にチラリと渉を伺えば、違う、と言いたげにオレを見つめた渉が、零れてしまった甘い声を悔やむように真っ赤になるのが可愛くて、ふ、と微笑う。
「えぇよ、大丈夫。絶対からかったりせぇへんから気持ちよぉなって」
渉の内 に埋めた指は動かさずに、渉自身を柔らかく握りこんだ手をそっと上下に動かしてやる。
「は、っァ、ぁ」
潤んだ目がパチパチと瞬きする度に目尻を雫が伝うのが綺麗で、沸き上がる愛しさに本気で泣きそうになって焦りながら。
後ろに埋めたままの指を、緩やかに締め付けては緩む密やかな動きにふと気づいた。指を内 でそっと動かしても、渉はもう息を詰めない。
馴染んだのか、前への刺激で多少リラックスしたのか。どちらにしても良かったと、埋めた指を小刻みに動かしてあちこちを擦り、時にゆっくりと出し入れしては様子を伺う。
「……ん、……はぁ、ァ、ン」
前を擦る手を止めて内 を探る指だけを動かしていることに、渉は気づいているのだろうか。
目をうっとりと閉じて快楽に浸っているらしい表情は凄まじく綺麗で、とくん、と痛いほどに固くなった自分自身が、下着の中で震えたのが分かる。
(アカン、嘘やろ)
触りもしていないのに、ほんの少しだけ出てしまったのだと自覚して焦る。
(……くそ……散々煽りやがって)
悔しく、けれど愛おしくぼやいたら、後ろを探る指を2本に増やす。増やした直後は、指を埋めたまま大人しく渉自身に触れて──そんな風にじっくりと慣らして、ようやく3本を自在に動かしても喘ぎしか聞こえなくなった頃。
「……みのる……」
「ぇ?」
呻くように呼ばれて、はた、と渉の顔を見れば、これ以上ないほどに紅く蕩けきった顔でオレを見ていて。
どきりと震えた心臓に揺さぶられて、体まで震えた。
「ど、ないした……痛いんか?」
みっともなく上ずった声とごくりと鳴った喉を、渉はからかうことなく笑った。
「来いよ、もう」
「わた、」
「来い。──これ以上、焦らすな」
「……は、んそくやぞ、お前」
「反則ってなんだよ」
困ったように照れたようにくしゃりと笑った渉の、変わる表情を1つも見逃したくなくて。じっと見つめたまま、震える手でジッパーを下ろして前だけを寛げる。
随分前に買ったままにしていたコンドームを財布の中から取り出して封を切った。
「なんで、ゴム……?」
「中で出したら後が面倒やからな」
今までにないほど興奮しきった自分自身に被せながら呟けば、オレの手の動きを追った渉の視線が欲に膨らんだオレ自身を見つけて、一瞬だけ視線が逸れる。
けれど渉は、ぎゅっと目を閉じた後で挑むようにオレの目を見つめてきた。
「来い」
「言われんでも、もう待てへん」
力抜いとけ。
囁いて唇に唇を寄せて、先を後孔へ宛がう。
ぎゅっと目を閉じた渉に、くすぐるようなキスと欲を絡めたキスを交互に贈って、肩から力が抜けるのを見届けてから中へ侵入っていく。
「ぅぁぁっ、ッくぅ」
「息止めんな。深呼吸せぇ。無理やり進んだりせぇへんから」
涙目で見上げてくる渉に言って、素直に深呼吸した渉の目尻に唇を寄せた。
「しょっぱいな」
「……気障ったらしいなお前」
ふ、と渉が無邪気に笑って緩んだところを、ゆっくりと掻き分けて腰を進める。
「ぅぁッ、ア」
仰け反った首を唇でくすぐって、身体中を指先で撫で上げた。
「ひゃぅ、っゃぁ、は」
「お前くすぐったがりよな」
「るさ、ぃ、ぁ」
身を捩る渉から、完全に力が抜けたのを機に根本まで埋める。
「あぁ……アカン。……お前、気持ちよすぎる」
「ばっ、何言ってんだよ」
「あほ、本気やぞ。むちゃくちゃ気持ちえぇ」
「──っ、ほんっとに、気障だなお前っ」
あからさまに顔を紅くして反らす様がどれほどに可愛いか、自覚しているのだろうか。
そっと微笑いながら、馴染むまでじっとしていようと衝動を押さえつけて、内 の熱さを噛み締めていた時だ。
「……動かねぇの?」
「……馴染むまで待つよ。傷つけたないから」
「ほんっと、気障」
悔しげに笑った渉が、唇を噛む。
「なんや、どないした」
痛いんか? と聞いてやれば、ゆっくりと首を横に振って。
「オレ……お前にコクられた後、むちゃくちゃしてたんだけどさ……」
「……そうみたいやな」
「……こんな風にちゃんと……相手のこと考えてシたことなかったなって……思って……」
「……」
カッコ悪ぃな、と後悔を滲ませて自嘲気味に笑う。
「……すまんかった」
「なんでお前が謝るんだよ」
「……オレが、あんなこと言わんかったら……」
「やめろよ。ますますカッコ悪ぃじゃねぇかよ、オレが」
「すまん」
ふぃっと顔を逸らした渉が、悔しそうに続ける。
「お前は……慣れてんだな」
「……言うとくけど、男とすんのはお前が初めてやからな」
「ぇ?」
「……オレは別に元から男が好きな訳違うし、女に困ってた訳でもない。伊達や酔狂でお前に好きやて言うた訳違うぞ」
「なに、それ……」
「お前やからやろ」
「っ」
「お前が……渉が好きなんや、オレは。男とか女とか、そんなんちゃう。渉やから、好きなんや」
「ぁ……」
真っ赤になった顔がそっぽを向くと同時に、オレを包む襞がぎゅっと締まる。
「ぅぁ……っ、おまっ……急に締めんな」
「ちがっ、……そんなん意識して出来っかよ」
「あほ、ちょっと出たやんけ、勿体ない」
「っ、そういうこと言うなよ!」
「ここまでしといて何照れてんねん。ちゅーか、お前かて女とした時そんくらい言うたんやろ」
「言わねぇよ、ンなことっ」
そんな余裕もスキルもねぇよ! なんて情けなく叫ぶのが可愛くて、ぶほっと吹き出す。
「アホかお前、笑かすなや」
「~~っ、お前が! 勝手に!」
「ぃだだだだっ、あほ、締めすぎや!」
「知らねぇよっ!」
くそっ、と照れ臭そうに吐き捨てた渉が、不意に切ない顔で笑う。
「なんっか……ばかみてぇだな」
「何が?」
「……こんな感じになると思ってなかった。こんな……笑いながらするとか想像してなかった。もっと辛いとか苦しいとか、そんなん想像してた。これが終わったら、もう二度とお前とは会わないんじゃないかって」
「……」
「なんか……お前がホントに……すげぇ時間かけたり、すげぇ優しいから……なんか調子狂ったわ」
「当たり前やんか。だって、お前がどない思ってようが、オレはお前が好きで、大事で。間違っても絶対に、傷だけは付けたないて思ってたんやから」
一度きりかもしれないこの時間を、投げやりな想いで消化することだけはするまいと。どうせならば、人生で一番気持ちよくて愛しい時間にしたいと。
そう思って抱いているのだから。
「……オレはホントに最低だな。お前のことでゴタゴタしてた時、投げやりに女の子に逃げてさ。……こんな風に優しくしたことないし、オレ自身も、こんなに気持ちよくなかった。出せばイイくらいの気持ちだった。……せっかくの初体験もなんも覚えてねぇし、誰が相手で上手くいったのかすら覚えてねぇや」
最悪。
呟いて腕で顔を覆う渉を、唖然と見下ろす。
「……お前……ホンマに童貞やったんか……」
「なんだよ、ずっと言ってたじゃねぇか。そんなこと冗談で言わねぇっつの」
「道理で。ゴム見た時の反応が初々しいな思たんや」
「るせっ」
恥ずかしがって反らされる顔が、また羞恥に染まっている。
「なぁ……」
「ん~?」
「……オレ、分かんねぇけど……」
「何が?」
「お前のこと、好きかどうかは分かんねぇけど……嫌いじゃねぇよ、やっぱり」
「……そぉか」
「それに……気持ち悪いとか言ったけど、訂正する。別に気持ち悪くねぇよ。なんか、やっと信じれた気がする」
「何を?」
「お前は、ホントにちゃんと、オレのことを好きになってくれたんだなって……」
「なんじゃそら」
はは、と笑ったはずなのに涙が零れて、自分自身が一番焦りながら
「……気持ち悪いとか言って、悪かった」
「……っ」
ごめんな、と真っ直ぐな瞳がオレを見つめて、頬を伝った涙を拭う渉の指先が優しい。
「……なぁ、稔」
「……なんや」
「また……友達になれっかな、オレら」
「……わからん。……でも、オレは……」
「うん……?」
「お前の傍は、やっぱり心地えぇわ。お前が好きやからとちゃうで。……こうやってまた、一緒に過ごせたら……嬉しい」
呟いたら、そっと埋めていたものを引き抜いて、寛げていたズボンの中に押し込める。
「稔……?」
「努力するわ」
「どりょく……?」
「またお前の隣に。なんもなかった顔して立てるように」
「稔……」
「明日からが無理でも……いつかまたお前の隣に……友達として戻れるように、努力するわ」
そっと笑って見せて、投げ捨てていた渉の服を拾い集めて手渡してやる。
「すまんかった」
「……」
無言で服を受け取った渉が、俯いたままで固い声を出す。
「……最後まで、しねぇの?」
「……したも同然やけどな」
「そう、だけど……」
からかうような声音で無理矢理笑って見せたのに、納得いかない表情の渉が唇を噛んでいる。
「──友達や」
「……」
「せやから、やっぱり変やろ。友達と、セックスとか」
「……」
「友達に……戻りたいんやろ。せやったら、これ以上はせんとく」
今更やけどな。
自嘲気味に笑って、ぽふ、と渉の頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でた手を──振り払われた。
「わたる……?」
「なんで、そうなんだよ」
「なにが」
「友達に戻りたいから止めるとか、マジ意味分かんねぇ」
「……」
「もうやってんだから、今更止めんなよ」
「……」
「最後までしろよ! オレがどんな想いでここまで来て! さっきまで、入れられてたと思ってんだ!」
「……ほんなら!!」
涙目で睨む渉を睨み返すオレは、情けなく泣いていた。
「なんで! なんで、友達になれるかとか聞いたんや!! こんなことして! また友達になれるとか意味わからん!! 少なくともオレは! 友達に、なんか……」
なれるか、あほ。
呟きが零れるのと一緒に溢れた涙が声を震わせて、震えた手で顔を覆って震える喉から声を絞り出す。
「ぉれは! オレは、もう分からん。お前はオレとどうなりたいんや。……オレはお前を好きや。……キスもしたいし、抱きたい。……せやけど、お前は違うんやろ。友達になりたいんやろ。……これっきり、もう会わんつもりで抱いたのに……お前はなんで、また友達になりたいとか言うねん」
「……」
「なんで! お前は!」
呻き声が涙を食い縛る唇の隙間から零れて、情けない涙がいつまで経っても止まらない。
「お前が分からん。……オレにはお前が分からん。……好きちゃうかってもセックス出来て、した後なんもなかった顔して友達に戻れる……そんなん、オレには分からん」
「……っ、だってお前が! お前が傍にいないと、なんか違うんだよ! お前がオレの! 傍に戻って来てくれんだったら、セックスくらいするよ!」
「なに……?」
「軽くねぇよ。そんな……そんな軽く考えてねぇよ! だいたい! 痛い思いすんのはオレの方なんだから! 誰でもイイ訳じゃねぇし、お前とだからしたんだよ!」
泣きながら叫んだ渉が熱い息を吐き出すのを、最後まで待たずに唇を塞ぐ。
「ンッ!?」
内を探って舌を吸って、酸素を求めて喘ぐのを端から塞いで。バシバシと胸を叩いてくる腕を掴んで拘束したら、ようやく唇を離してやる。
「な、っに、すんだよっ」
「……鈍感が」
「なっ!?」
目を見開いてオレを睨み付ける渉の腕を、壁に押し付ける。
「好きって言えや」
「なに……?」
「お前、オレのこと好きなんやんけ」
「ぇ?」
「オレに傍におって欲しいとか、傍におらんと違うとか……それ、オレンこと好きなんちゃうんか」
「す、き……?」
「ちゃうんか」
すがる目で見つめる先、渉がオロオロと視線をさまよわせる。
「すき……?」
「ちゃうんか?」
「……分かんね」
泣き出しそうな顔で呟く渉に、溜め息を1つ。押さえつけていた手を離してやったら、服を着ないままの体をそっと抱き締める。
「っ……」
「好きや、オレは。どうしてもお前が好きや」
「ぁ……」
「友達なんか、戻れん。こうやって抱き締めてキスして……めちゃくちゃにしたい、お前のこと」
「は、な……せ」
「嫌か、オレのこと。……こうしてんの、嫌か」
「っ……ぃ」
「ん?」
「嫌……じゃ、ない……」
「ほんなら、オレのこと好きか?」
「分かんねぇ」
「……頑固なやっちゃな」
ふ、と苦笑して腕の中に閉じ込めた渉を見下ろせば、顔を真っ赤にしてオロオロしていて。
「認めろや。好きやって」
「っふ、……ん……っん」
抱き締めた渉の唇に啄むような淡いキスを贈って、愛おしく抱き締める腕に力を込める。
「……なぁ……渉」
「ぁ……っ」
愛しさを込めて読んだ名前を、聞いてくたりと力が抜けたらしい渉を抱き止めて。
潤んだ目を見つめる。
「好きや、渉。お前のこと好きや」
「ぅ、るせ」
も、分かった。
喘ぐように呟いた渉が、おずおずとオレの背に腕を回して。
「すき、なのか? オレ……お前のこと?」
「ちゃうんか?」
「分かんね……けど」
「けど?」
「……さっきから、くるしい……」
「ぇ?」
潤みきった恥じらう目と、震える唇と──押し付けられた欲の象徴。
「体は正直、ちゅうやつか」
しょうがないやっちゃな。
愛しく呟いて唇に唇を寄せたら、唇にぎこちなく噛みつかれて下手くそな舌先に口内を探られる。
「……へたくそ」
「うるせ」
離れていった唇を、すぐに奪い返して大人のキスで攻め堕とす。
「こないすんねん」
「ふぁ……っは、ぁ」
溜まっていた涙が落ちたらしい頬を、指先で拭ってやりながら意地悪く笑う。
「言えや」
「なに……?」
「好きって。言わな抱いてやらん」
「っ……くっそ意地悪ぃ」
「言えや。オレかてさっきから生殺しやねん」
「っ」
ぐい、とズボン越しに欲の熱さを押し付けて、ニヤリと笑って見せる。
「欲しいんやったら、言え。オレのこと欲しいって」
「くそっ」
吐き捨てた渉が、何を思ったかオレのズボンの前を寛げて発情しきったそこに唇をつけてくる。
「なにすっ」
「るせっ」
「ぅぁっ、っ、やめっ」
「余裕ぶってんじゃねぇよっ」
「っ、このっ」
オレをくわえこむ姿の卑猥さにゾクゾクしながら、気持ちよさに腰が揺れそうになるのを堪えて引き離す。
「強情がッ」
そのまま押し倒して、裸のままの後ろに指で触れたら。
「いいから」
もう来い。
潤んだ目がしっかりとオレを見つめて頷くから、後はもう止まれなかった。
解れていたそこに、もう一度侵入っていく。
「ふ、ぁ……っぅ、は」
「わたる……ッ」
気遣う余裕もなく奥まで埋めたら、中の熱さに呻くしかなくて。
「わたる……っ、わたるッ」
「ァッ……っ、んぁぁっ、っァ」
柔らかなそこを掻き乱して唇を吸い上げて名前を呼んで。自分の中から噴き出してくる愛しさに、操られるみたいに腰を振って。
抱き締めた腕の中で必死にオレを見つめて喘ぐ渉が、愛しくて仕方なくて壊すわけにいかないのに腰が止まらなくて混乱する。
「み、のるっ」
なのに、呼ばれた名前に見下ろした先で
「すき、かも」
「ぇ?」
「おまぇ、の、こと……すき、かも」
「~~っ、ぁほっ」
慌てて中から自分自身を引き抜いたら、渉の薄い腹の上に白濁を撒き散らした。
「ぇ……?」
「くそっ、お前……、どんだけ可愛いねん」
「みのる……?」
「おさまらん」
「ぇ?」
「こんなもんで、おさまらん」
「ンっ、くぁっ……っぃア」
「アカン……もうとまれん」
萎えることなく欲を湛えたままの自分自身を、もう一度渉に埋めて。
「すまん……もう……今日は帰さん」
答えを聞かずに唇を貪って腰を動かす。唇を離して蕩けた目を見つめたら、
「教えたる。お前はオレが好きなんやって」
「みのる……」
「体に、教えたる。……オレから離れられんようにしたる」
「みの」
「オレなしではイかれん体になれ」
耳元に囁いたら、不意の締め付けに逆らって腰を引く。耳をくすぐる嬌声を心地よく聞きながら、奥を探って身体中に指を這わせて唇を落とした。
やがて堪えきれずに渉自身が吐き出した白濁を指に絡め付けて見せつけるように舐めて、相変わらずやわやわと動く内 を卑猥に褒めては、優しく撫で上げるたびに震える渉自身を優しくからかって苛める。
荒く繰り返される呼吸をさらに乱すように指を使い、腰を使って
「も……む、り……っぁ」
「言うたやろ。今日は帰さんて」
「でも……っ」
無理、と情けなく呟きながらも、ゆるゆると頭をもたげている渉自身を手のひらで包み込む。
「ほんなら、言えや」
「なに」
「いかせてって、言え」
「ッ」
この短時間で見つけた弱点を攻めて笑う。
「イキたいやろ」
「っ、意地悪ぃ、なっ」
「オレも、お前でイキたい」
「っ」
「なぁ……言ってぇや」
頼むわ、と囁いた耳を舌先でなぞったら、ふるりと震えた欲の塊の根本を指で塞き止める。
「っ、はなせっ」
「えぇやん、言うて」
「っ……、……い、か……っ」
「ほら、はよ」
奥を突いて急かす。
「ぃ……か、……せて」
悔しげに眉を寄せた紅い顔を、にんまりと見下ろしたら。
「お安いご用や」
「ぁぁぁっ、ぁっ、ゆ、びっ……はな、せっ」
「もうちょい……一緒に、イこや」
「ぅ、そつきッ……ぁっ、もぉ、やぁ」
「心配すんな、──もう」
「ッ、っ……っぅぁあっ、っは、ァ」
指を放したのと、ずるりと引き抜いたのがほとんど同時だった。吐き出された二人分の白濁が渉の腹を汚す。
「……えぇ眺めや」
「……へんたい」
「男はみんな変態やろ」
にやりと笑って、渉のとなりにドサリと倒れ込む。
「……なぁ、渉……」
「なんだよ」
「好きか?」
「しつっけぇなホントにお前は」
ふ、と苦笑う渉の方に寝返りを打って見つめた渉の目は、見たこともないような優しい色を湛えていてドギマギする。
「好きなんだろ、きっと。……じゃなきゃきっと、あんな風にならねぇよ」
「……男やったら、気持ち良かったら勃つやろ」
「そんなことねぇだろ」
「じゃないと風俗なんか成り立たん」
「……少なくともオレは、風俗とかでヌくタイプじゃねぇからな」
「……行ったことあんのか」
「…………ある」
「ほんならなんで童貞やってん」
「た……たなかった」
「……は?」
「百戦錬磨のお姉様が嘆いてた。オレみたいな純情っ子は初めて見たって。ちゃんと好きじゃなきゃ勃たない奴なんて、見たことないってさ」
「……そぉか」
だから、好きなんじゃね?
そんな風に軽く笑った渉の顔が赤いことに気付いて
「確かに純情やな」
そっと笑って、渉を抱き寄せる。
「わっ!?」
「好きでおってえぇんやな?」
「……好きにしろよ」
「えぇんかって聞いてんねん」
「──、……ぃょ」
「なんて?」
「いいって言ってんの!」
照れ隠しに叫ぶ可愛さを頭を撫でることで昇華して、抱き締める腕の中に納まる愛しさを額に落とすキスに込める。
「……しあわせや」
「……そか」
「ほんまやぞ」
「……うん」
「……なんや、眠いんか」
「……さいきん、ぜんぜん、ねれてなくて……」
ねむい、と呟くと同時にことんと眠りに堕ちる幼さに目を細めて。
「むぼーびに寝るなぁホンマ」
やれやれと幸せに呟いて、腕の中の温もりが幻にならないようにと、抱き締めた腕に力を込めた。
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