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煽られて(士郎side)
ぎごちない仕草で龍之介の髪をすすぎながら、脳内はまさに混乱の極致にあった。
龍之介が人並み外れて色っぽいのは認める。
声だけで濡れる輩がいるのも、まぁ、わからなくもない。
だが、自分に限って触れてさえいないのに勃つなど、ありえなかった。
到底認められるものではない。
必死に空手で培った呼吸法を繰り返し、水底の冷たさをイメージして熱を冷まそうとするものの、いつ何時、龍之介に気づかれるかも知れない状況で平静を保つのは困難を極めた。
気づかれたら、すべてが終わる気がした。
「……なァ、もう充分じゃねェ?」
「……そうだな」
本来、男の髪にリンスなどは不要だが、時間稼ぎのために以前克己が置いていったボトルを手に取って、必死にポンピングする。
フワリと漂う甘い林檎の香りに、龍之介が笑った。
「サービス良すぎじゃね?」
この声を聞いている限り、収まるものも収まりそうにない。
「……黙ってろ」
「はいはい」
ヌメる液体を硬質な黒髪になすりつけて、またもや時間稼ぎのマッサージを施す。
「……ン」
こちらの気も知らず、気持ちよさそうな声を出す龍之介に、殺意さえ覚えた。
これ以上はさすがに不自然だと、リンスを洗い流したところで、鏡の中の龍之介と目が合った。
「……っ!」
思わず目をそらして、舌打ちした。
これでは後ろ暗いことがあると言っているようなものだ。
「……オマエさ、なぁンか、隠してねェ?」
案の定、龍之介が意地の悪い顔になる。
もう半ば気づかれている気がしたが、頼むから勘違いであってくれと、必死で祈った。
だが願い虚しく、龍之介が振り返り、ニヤリと笑った。
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