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「そういえば、なんで副会長様といたんだ?」  放課後、いつも通り直帰した僕が夕飯の支度をしていると、部活終わりの瑛士がタイミング良くやってきた。  狙って来たのかという程ギリギリのタイミング。  あと一分遅ければ鍋にパスタを投入していたところだ。 「副会長様?」 「生徒会の副会長」  瑛士の分も合わせて茹でつつ、質問に質問で返す。  生徒会役員の説明なんてどこかでされたっけ?  八割方完成した夕飯の前で記憶を遡ってみるが、とんと覚えがない。  むしろ、目の前のパスタの茹で加減の方にが断然気になる。  アルデンテはパスタの命だ。 「お前、全校集会の時下向いて夕飯のメニュー考えてただろ」  確かに、入学以来授業内容以外で考えた事といえば、人に話しかけられないようにすること、瑛士の高校デビュー大作戦から逃げる方法、夕飯のメニュー、その位だけど――。  なんでわかったんだろう。  ちなみに今日のメニューはカルボナーラだ。  燻製の薫りが素晴らしい自家製ベーコンが、薄切りではなくブロックで販売していたのでつい衝動買いをしてしまった。  これはもう、カルボナーラにするしかないとあれこれ考えてたメニューは明日に見送って、粗挽き黒胡椒とペコリーノチーズまできっちり買って帰ってきた。  これで作ったカルボナーラが美味しくないわけがない。 「知らない。 瑛士お皿取って」  パスタのお供はカプレーゼ。  トマトとモッツァレラとバジルの彩りが綺麗なメニューで、簡単でシンプルだけど美味しい。  こってり系のカルボナーラとは相性ピッタリだ。 「お前なぁ…。 自分の学校の生徒会役員くらい覚えとけよ」  お皿を差し出しながらさも当然のように言っているが、半数以上の生徒が副会長どころか会長の顔も名前も、何なら教師の名前すら覚えてない気がする。  かろうじて覚えているのは教頭くらいだ。  何故か校長より記憶に残っている。 「とりあえずさっさとメシ食おうぜ。 腹減った」  相変わらず自分から話題提供してきたくせに、打ち切りは唐突だ。  それでも、カルボナーラの一番美味しいタイミングを逃してまで続けたい話題ではないので大人しく席に着く。 「いただきます」  しっかり手を合わせて食前の挨拶をした瑛士に倣って、僕も手を合わせる。 「どうぞ」 「ん。 うまい」 「そう? よかった」  味についての細かい評価はないけど、毎回きちんと「美味しい」と反応してくれるので作り甲斐がある。  僕の拘りの半分も伝わってない気もするけど、それはそれだ。  くるくるとフォークに麺を絡ませ、クリームの絡んだパスタを口に運ぶ。  ――うん、思った通りなかなかの出来だ。  僕のカルボナーラは、本場のレシピをアレンジした生クリーム入りのカルボナーラ風クリームパスタだ。  厚めに拍子切りしたベーコンをカリっと炒め、卵黄とペコリーノチーズを溶かし込んだ生クリームと一緒に熱々のパスタに合える。  卵が固まらないギリギリのタイミングを見極めるのが最大の難関で、加熱し過ぎると炒り卵パスタになるし、加熱が足りないと味がまとまらない。  今日のカルボナーラは絶妙だ。  仕上げにたっぷりのペコリーノチーズと粗挽き黒胡椒をかけ、最後にカルボナーラっぽさを演出するため山の中央に卵黄も乗せてみた。  ベーコンの燻製の薫りが溶け込んだクリームと、とろーり卵の絶妙なハーモニー。  最初に考えた人は天才だな。 「で、何で副会長が居たんだ?」  あ、その話終わってなかったのか。  半分程食べた頃、打ち切られたと思っていた話題を戻された。 「知らない。 お弁当食べようと思って人が居ないとこ探してあそこに行ったら、突然現れたんだ」 「――ふーん」  ぽややん先輩改め副会長さんの唐揚げ目利きについてと、他にもとりとめのない話をいくつかしていたらあっという間に完食してしまった。  お皿に残ったクリームを、朝食用に買っておいたバケットを少しもらって付けて食べたので文字通り完食だ。  食後は瑛士と一緒に数学の課題を片付けることにした。  数学が得意な瑛士とちがって、バリバリ文系の僕には中々の難題だったけど、瑛士のサポートのおかげで何とか終わらせることができた。 「なあ、本当にバスケ部にこないか?」  帰る間際、いつになく真剣な表情で瑛士に聞かれた。 「キャプテンも今時ないくらい熱血でいい人だったぞ」  熱血スポ根なんて僕には無理だ。  そう思うのに、考えもせずに拒否するなんて出来そうにない雰囲気が漂っている。 「――考えておく」  そう、応えるのが精一杯だった。 「――頼むから、本当にちゃんと考えろよ? お前このままだと高校でも中学の時みたいに引きこもって終わるぞ」  正直、僕はそれでも良いと思っている。  だけど、瑛士はそうは思っていないみたいだ。 「俺は嫌だからな。 高校卒業して引きこもりニート街道まっしぐらな柚なんか見たくねえ」  十二分にあり得る未来予想図。  バスケができないならマネージャーでいい。  他に行きたいところができたら付き合ってやる。  だからちゃんと考えろ。  いつもと同じ台詞を並べながら、僕以上に僕の未来を心配する瑛士に何も言い返すことができなかった。

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