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「生徒会に入った?」  その日の夜、食卓に素麺を出したら瑛士に思いっきり睨まれた。  素麺だけど、めんつゆの出汁はちゃんと厚削りの鰹節でしっかりとった上に追い鰹までした本格派なのに。  この程度では“準備が大変”の内に入らないだろうと放課後何をしていたのか洗いざらい吐かされ問い詰められた。 「まだお試し期間だけど」  シンプルな素麺を味を変えながら食べるのが好きで、机の上は薬味がいっぱいだ。  基本のネギ、きざみ海苔、山葵、白胡麻はもちろん用意したし、叩き梅、紫蘇、生姜、柚胡椒、温泉卵にとろろ芋まで。  合計10種類の薬味に、おかずに肉じゃがまで用意したのに大変じゃないと思われたのだろうか。  確かに手は抜いたけど、ちょっと心外だ。 「おかわり。 大丈夫なのか?」  めんつゆの器を差し出し、瑛士が訊いてくる。 「一般的な庶務のお仕事、ってやつは大丈夫だと思う」 「サンキュ。 副会長のサポートってのは?」  めんつゆを入れて返した器に、とろろ芋と山葵と海苔をチョイスして入れてる。  さすが瑛士、いいチョイスだ。  僕は梅紫蘇が好き。  胡麻も入れようかな。 「よくわかんない。 一瀬先輩、ぽややんってしてるんだもん」 「ぽややん? とりあえず、大丈夫なんだな?」  今の“大丈夫”は業務内容のことじゃないんだろうな。 「――うん」 「ならいい。 何かある前に言えよ」  何かあったら、じゃないんだ。  あれだけ誘ってくれてたバスケ部へ見学にも行かず、相談もしないで生徒会へいきなり行ってきた僕を咎めることもせず、何かあったらと先のことまで気にかけてくれる。  まるで――… 「瑛ちゃんは柚琉のパパみたいね」  ふふっ、と笑いながら母さんが言った。 「おばさん、せめて兄貴くらいにしておいてよ」  保護者みたいだとは僕も思ったけど、周りに言われると釈然としないのは何故だろう。  ぶすっとしていたら、隣から大きな手が延びてきた。 「俺が言ったこと気にしてくれたんだろ? 頑張ったな」  くしゃくしゃと撫でられてくすぐったい気持ちになる。  普段は俺様なくせに、こうやって甘やかしてくるから瑛士の言うことには逆らえない。 「やっぱり、パパみたいだわ。ふふふっ」  ――それでもやっぱり、パパはやめて欲しい。  次の日。  僕は今、生徒会室のソファーにいる。  目の前には、無駄に笑顔を振り撒く一瀬先輩。  僕と先輩の間には昨日飲み損ねた美味しそうなお茶がある。  もちろん、僕が淹れた。  そして僕は今、とっても不機嫌だ。 「ゆーずーくんっ♪ そろそろご機嫌なおしてくれないかな~」  相変わらずニコニコぽやぽやした人だ。  昨日はこの笑顔にちょっとくらい安心したりしなかったりだったけど、今日はイライラするばかりだ。 「ゆずくんってば~…」  僕は高校生活も人の目に触れず、ひっそりと平穏無事に過ごす予定だった。  瑛士があんまり真剣に諭してくるものだから血迷ったけど、やっぱり生徒会なんて来るんじゃなかった、と後悔先に立たず、を絶賛体感中だ。 「も~…そんなに怒らなくてもいいと思うんだけどな~…」  ムカッ。 「あ、また怒っちゃった…」  心底弱りきったような声を出してきたけど、弱ってるのは僕の方だ。  他人事みたいな言い方に益々イライラが募る。  そもそもなんでこんな事態になったかと言うと――。  事の起こりは昼休み。  午前の授業をこなし、瑛士とお昼ごはんを食べようとしたまさにその時、事件は起こった。  ――そう、あれはもう事件と言っても過言ではなかった。 「ゆず、弁当くれ」 「はい。 今日は昨日の残りだから期待しないで?」  昨日の夕飯を手抜きだと言われた腹いせを込めて、ちょっと皮肉混じりに言いながら、瑛士用に用意した方のお弁当箱を渡す。 「お前が作る飯なら手抜きでも美味いよ」  もう癖になっているであろう自然な仕草で、僕の頭をくしゃっと撫でながら、苦笑混じりに言われる。 「――昨日は文句言ったじゃん…」 「あれは、お前が“準備が大変”とかいうからだろ? どんだけ豪勢な飯になるのかと期待してたんだよ」 「――ごめん」 瑛士をがっかりさせないためとはいえ、口から出任せにも程があったかもしれない。 「気にするな。 あれはあれで美味かった」 「ならいいけど。 お弁当も同じメニューだよ?」  叩き梅と紫蘇の残りはだし巻き卵にした。  とろろ芋はきざみ海苔の余りで磯辺揚げ風にして、残った肉じゃがも詰めてもってきた。  同じ材料だけど美味しいとは思うんだよね。 「とても同じとは思えねぇな…」  感心したように瑛士が呟いた時、何やら廊下がざわめきだした。  キャーとかワーとか、とにかく黄色い声と喧騒がここまで届いてくる。  どっかのアイドルでも紛れ込んだのだろうか。  だんだんと近付いてくる声の中に“プリンス”だとか“プリンス二世”という声が聞こえてくる。  芸能人じゃなくて王族が居るのかと呑気に思った時、“副会長様”という声まで聞こえてきた。  ――えっ? 副会長様?? 「ゆーーーずくんっ♪ お迎えにきたよ~♪」  ガラッと勢い良く開けたドアから、騒ぎの元凶が顔を出した。

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