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平和なカップルに訪れた危機
「祐哉 くんなんて、もう知らない!!!」
そう叫んで部屋から出ていってしまった俺の恋人。
俺は情けなくも「ま、まっ、て…」と届かぬ声を出しただけ。
恋人、奏太 は最近よく考え事をしているのかボーッとすることが多かった。
気にはしていたが、無理に聞くものでもないかな、と思い特に聞き出しはしなかった。もしかして、聞いた方が良かったのかな…。でも、人に知られたくないこともあるだろうし。いや恋人としてやはり相談にのってあげるべきだったのか……ああ馬鹿、俺の馬鹿。初めての恋人を、こんな形でなくしたくない。
可愛い奏太は俺には勿体無いくらいの恋人だ。学年でも人気者で、その小柄で愛らしい姿に誰もが目を奪われる。俺と付き合ってくれていることがそもそも有り得ないことで、俺の告白を受け入れてくれたときは嬉しすぎて狂うかと思った。奏太に告白する奴なんてたくさんいるのに、奏太はずっと断っていたのだ。そんな中、俺の告白は受け入れてくれて、もしかして奏太も俺の事が好きだったのか?と調子乗った時もあったが、とにかくもう今が楽しいのでまあいいかと思っていた。
奏太との交際は穏やかで、毎日ぽやぽやの奏太に癒される俺というのが定番だった。
「奏太可愛いね」「祐哉くんも…かっこいいよ」なんていちゃいちゃ会話もした。
あーもう、食っちゃいたい、なんて何度思ったことか。だが俺たちはキスだってまだしたことがなく、その先なんて、というか奏太はその先があることを知っているのだろうか。あの可愛らしい小さな唇にキスしたら、俺の口ですっぽり隠れてしまうのではないのか。舌を忍ばせたらどんな反応をするのか、毎日そんなことを思っても本人を目の前にすると何故かヘタレと化してしまう。
もしや、奏太はそんな俺が嫌になってしまったのか?うじうじとしている俺を。そうだとしたら…はあ、俺まじでカッコ悪い奴じゃねえか……。
「よし、」
ショックで大分遅れたしまったが、奏太を追いかけるべく俺も部屋を飛び出した。
奏太が泣きながら走れるとは思えないから、そんなに遠くまではいけないだろうけど、…万が一、野蛮な奴らに捕まってしまっていたら、と考えると一刻も早く見つけ出さねばと気持ちが焦る。
「奏太!奏太!近くいたら出てきてくれ!」
寮の廊下や中庭を探しても見つからない。もしかしてもう誰かに拐われ…いやいや考えるな。大丈夫。ちゃんと探そう。
「奏太~、ごめんね、俺しっかりするから、出てきてくれ奏太~!」
名前を何回呼んでも出てきてくれず。もしや入れ違いで部屋に戻っていたのかもという考えが浮かんで部屋に向かった。
「奏太?いる?」
部屋のドアを飽けても玄関には誰の靴もない。
ああもう本当にどうしよう…!誰に言えば…。あたふたして何だか涙が溜まってきた。だっさ…、奏太が見つからなくて、自分頼りなさ過ぎ。これじゃあ奏太も愛想尽かすよな。
…最後だけでもちゃんと見つけ出したい、そう決意して寮の外へ出ようとコートを出しにベッドルームを開けた。
「うわあっ!!!」
いきなり小さいのが体当たりしてきて空き巣かとも思ったが、違う。
ひぐひぐと涙を流している奏太を見て、ついに俺も涙が出てしまった。
「かな、かなた…かなたぁ…」
いた。良かった。大丈夫だった。安心した。
ぎゅうぅぅぅと苦しいくらい抱き締めて、奏太の頭に頬擦りする。
「ゆーやくん、泣いてるの…?」
「うう…、ごめんね~、ほんとごめん~、俺なんだってするよ、奏太が望むことするし、ちゃんとヘタレも克服するから、お願いだからぁ、いなくならないで…!」
馬鹿みたいに涙を流してる俺を少し奏太が押してくる。
「嫌だ、離すもんか、もう絶対に離さない…!」
「祐哉くんっ、離れないよ!大丈夫だから!僕いなくならないよ」
奏太が俺の背中を撫でてくれて、いつの間にか俺が慰められている。本当にださすぎだろ俺…。
ずずっと鼻水をすってから、ほんのちょっとだけ体を離し顔を合わせる。
奏太は俺の顔を見て、くすっと笑った。奏太の笑った顔…!可愛い、本当に可愛い。
「祐哉くん、好きだよ」
「え、あっ、う、うん、俺も…好き…」
「うん、ありがとう。それでね、好きだから、僕、…その、祐哉くんと、………先に、進みたくてっ」
「…………………へ」
「だっだからねっ?僕、祐哉くんと、キスしたいの…!でも、祐哉くん全然キスしてくれないし、僕に魅力が無いのかなって、最近悩んでたの!」
「…嘘……」
「今日だって!僕頑張って、唇ぷるぷるにしてきたのに、してくれないし、自己中だけど、何でしてくれないのって、それで部屋飛び出しちゃって」
ごめんね、と悲しげに囁く奏太がひどく色っぽい。
唇、ぷるぷるにしてきたって、…俺のために…?こんな、こんな俺のために、なんて可愛らしいことを!
「奏太…!好きだ!」
堪らず俺は勢い任せの色気の欠片もないキスをかました。
本当はもっとセクシーに決めたかったのに!でも、嬉しい!奏太とのファーストキス…、本当だ、ぷるぷるで、柔らかい…堪んねえ……!
「は、…奏太……」
「ゆ、やくん…ち、近いよ…」
唇がまた触れそうな位置に留まると、奏太の吐息を感じる。
伏せ目がちな奏太は、凄絶にえろい。こんな奏太もいたのか…恐ろしいえろ可愛さだ。
「ごめんな、奏太…俺、頑張るから、奏太の気持ちが分かるくらいの男になるから、」
「ぼ、僕も、祐哉くんに飽きられないように頑張る…」
「…ん、一緒に頑張ろうな……」
もう一度だけキス。
今度はしっとりと重ねて、ちゃんと奏太の唇を感じた。
「ああ…可愛い……」
「ん…祐哉くん」
すき、そう伝えられて今度は奏太からキスをもらった。嬉しい。また目頭が熱くなって「もう、また泣くの?泣き虫だねえ」と奏太に頭を撫でられる。女神が見えた。
全てを受け入れ愛してくれる女神だ。
俺も好きだと伝えて、その夜は何度も唇を重ねた。
ちょっと腫れたかもって二人で笑いながら、またキスして眠りに着いた。
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