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今夜は開けない

 ガンガンと自室の部屋の扉を叩く音が鳴り響く。 「ほらタツマさん、出てきてよ!」  固く施錠されたドアの向こうから、大声で俺に呼び掛けるのは俺のかわいい年下の彼氏、ヒロトだ。 「大丈夫、激しくしないから!」  激しくしない? 騙されない。絶対ウソだ! この前もそう言っておいて、最後には俺のことを少しも考えず、くたくたになるまで抱き潰したんだからな! 「出てきてよう、本当に今日は優しくするからぁ」  甘えたヒロトの声に絆されそうになるが、今夜ばかりはダメだ。俺はドア越しにノーを伝えた。 「お前は冬休みに入っているかもしれないけどな! 俺は明日、会社で大事なプレゼンがあるんだ。今日は我慢してくれ」  大学生のヒロトは若さゆえに性欲も旺盛だ。愛撫や解すところまではじっくり丁寧なのに、ひとたび挿入したらもうダメだ。こっちのことはお構い無しに激しく求めてくる。  別に、それが嫌いというわけではない。もちろん、そこまで求めてもらえて嬉しい。だけどそれは翌日が休みの時だ。そんなくたくたの体で仕事へ出掛け、さらに残業をこなすのは辛すぎる。しかも、明日は取引先への大事なプレゼンを控えている。学生のヒロトには理解できないかもしれないが、できればわかってほしい。  そんなことを考えていると、ドアの向こうでは鼻をすすりながらしゃくり上げる音が聞こえてきた。まさか、泣いているのか? 「ヒロト、泣いてる?」 「泣いてるよ! だって、だって……タツマさんに嫌われたんだから!  ガキだから? 俺がタツマさんより年下でしかも学生だから?」 「き、嫌ってない! 嫌いになってない!」 仕方がない。俺は自室のドアの鍵を開け、廊下で座り込んで泣いているヒロトに目線を合わせた。 「タツマさぁん……」 「ヒロト、今日我慢できたら、明後日から少し有給もらってんだ。だから、その、た……たくさんエッチできるから、今日だけは、我慢しろ。な?」 「キスしてください」 「は?」 「我慢するんで、キスしてください」 「お前なあ……はぁ、わかった」  ちゅ、と触れるだけのキスをすると、俺はヒロトに抱き締められた。ヒロトの股間は硬くなってる。 「ちょ、おい……ヒロト!」 「がまん、します……明日の夜まで」 「お、おう」 「明日の夜、覚悟してくださいよ」  ヒロトは俺を腕の中から解放すると、トイレへ籠ってしまった。ひとりでしているのだろうか。抜くくらいなら、手伝ってやればよかったか。いや、明日に備えて資料の確認をして早く寝よう。  しかし翌日の夜、いつも以上にヒロトに抱き潰されることを、この時の俺はまだ知らなかった。

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