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第1話:鉄の檻

どこに生まれるかも、性別も選べない。 だが、生き方は自分次第で選べる。そう思っていた。 私・佐伯冬馬はセントラル研究所に勤めていた。過去形なのは、今日その研究所を辞めることになってしまったからだ。 「佐伯先輩、通知が来たんですね」 「あとのことは頼む」 「どうして先輩が」 「泣くな、境。国の決まりだ。これが無ければ人類存続の危機になる。私達研究者なら理解できるな」 後輩の境の涙を拭い、大事な書類を渡した。 国の制度として、選ばれた者は人類存続の為の収容所へ最低5年間入所しなければならないことになっている。 世界は度重なる自然災害と謎の疫病により多くの同胞を失ってしまった。そのため政府は誰でも妊娠できる方法と強い肉体を手に入れる方法を探し始めたのだ。 そして、現在はその方法をより進化させるため期限付きで実験対象となるよう国民にしいた。反対の声も届かず法案は可決され、機械により無作為に選出されるようになった。 年齢も性別も人種もバラバラ。外国人は大抵政府が更に厳選された者で、共同研究として混ぜられることが多い。 選ばれれば黒い封筒が届き辞退はできない。そして、佐伯の所にも昨日届いたのだ。会社からも通知が届き、今日政府が用意した車に乗ることになる。 「佐伯冬馬さんですね。お待たせしました。」 「いえ、先程来たばかりですので」 車内は広く既に二人乗っていた。 小柄な青年と眼鏡をかけたサラリーマンは不安がっているのが分かる。 「雪野様、高橋様、佐伯様は施設に入っていただきます。検査後に寮へ荷物を運びますので社員に渡し、指示を聞いて下さい。くれぐれも脱走はしないように。脱走すればペナルティがあります」 ペナルティという言葉に隣に座っていた高橋というサラリーマンが反応したのを感じた。きっとペナルティは酷いものだろう。軽くて期限延長なはずだ。 施設に到着するが、山奥の中に白い建物というのは不気味だった。また、車から降りると周りに犬がおり、脱走しても追いかけられるのがオチだ。 中には白衣の男性社員が三人いて、いつも働いている研究所みたいだと思ってしまった。 「では、雪野様は1、高橋様は2、佐伯様は3の部屋へお入り下さい。携帯など外部と連絡とれるものは預からせていただきます。」 雪野はおそるおそる手を挙げた。 「あの、検査って何ですか?」 「肉体の測定や機能の状況を調べる検査です。最初は違和感があるかもしれませんが慣れますよ」 笑顔で対応する社員の言葉は三人を安心させることにならなかった。 佐伯は3番の扉を開け、全裸になるよう指示を受ける。男性社員で良かった。女性だと気まずい。 「身長、体重はこれで終わりです。病気や薬の使用もなしか。写真もさっと撮りますね。はい、OKです。では、これを飲んで下さい。奥に診察台がありますので寝転んで下さい。」 「検査はどれくらいかかりますか?」 あまりに検査が普通で、少し体の力が抜ける。貰った飲み物もヨーグルト味で美味しい。 「実験のためにも今日はずっと検査になります。体調はいかがですか?」 少し暑いぐらいだろうか。社員は暑さを感じさせない雰囲気だったが。 「先生、佐伯様が入室しました。佐伯様、うつ伏せになって下さい。手足を固定しますね」 「えっ」 金具で手足を繋がれ、貼り付けにされた気分だ。奥からマスクと手袋をつけた医者のような男性が現れ器具を運んできた。 「怖くないですから力を抜いて下さい。ナカを確認しますよ」 助手が佐伯の尻を開き、医者がナカへ生暖かいジェルを挿入する。そして、指がぷつっと入り広げていく。 「カメラが入るようにもっと広げるぞ。お前は板外して前から採取しろ」 股間あたりの診察台が外れ外気にさらされる。そして、別の助手がいきなり触れてきた。 「ちょっと、待っ」 「射精して下さっていいですよ。精子の状態を検査します。ほら、したくなってるでしょ?さっきの飲み物には媚薬を入れていますし、これからこういうことが続きますから」 「そうだぞ。これからの実験のために羞恥は捨てろ。快楽に身を委ねたらいい。」 「あっ、あっそれ、んっー!」 勢いよく出すが、何かに入っているような音しか聞こえない。 「ナカの方も入りそうだな。ここはどうだ?この盛り上がったところが気持ちいいだろう」 医者の長い指が何度も気持ちいいところを押したりこすったりすることで身体がもっとあつくなる。 「カメラ入れるぞ」 「冷たい、角が痛い」 カメラのコードが肌に触れ、入っているのが分かる。今、俺のナカを見られているんだ。 「感度良好。薬の耐性あり。ナカも問題なし。じゃあアレを持ってこい」 佐伯の視界の端に小さな生き物がうつる。緑でドロっとしているが、細いうねった触手が見える。 「施設内ではこの生き物を取り付けてもらいます。」 「やめろ。それは安全なのか。何をするんだそれは」 「佐伯様、安心して下さい。気持ちよくするお手伝いをしてくれます。しかし、脱走や規則違反者にお仕置きする悪魔にもなりますので従って下さい」 「うっ、あぁーー‼︎」 身体の中で動いているのが分かるが、少し経つと落ち着いたのか一ヶ所にとどまる。 「スライムの装着終わりましたよ。皆さん付けていますし身体に今のところ異常はありません。佐伯様は男性との性交渉で中のスライムを育てることになります。」 「分泌物が餌というわけか」 「話が早くて助かります。では、建物を案内致します。」 同じく検査が終わったであろう雪野と高橋はどうしているのだろう。警官の服を着た男に引き渡され着いていく。 施設の中は自分の部屋がないものの広々としていて、娯楽室やトレーニングルームなどがあった。 「あっ、そこ、もっとついてぇ」 小部屋らしきところから声が聞こえドキッとする。すれ違った人や警官は気にせず歩いていて、これが日常になるのだと改めて思った。 「研究者からの指示がない限り自由行動だ。佐伯さんが来ることは昨日施設内の人間に伝えています。」 「分かりました。ここまでの案内ありがとうございます」 「質問や要望は懺悔室でお聞きします。最初は慣れないでしょうが、人類滅亡阻止のため励んでください。佐々木!彼が佐伯だ。世話役頼むぞ」 「やっぱり綺麗な顔の子だな〜直毛が羨ましい。俺は佐々木。金髪は染めてるけど、カールは癖毛だから」 少しウェーブがかかった男はシャワーを浴びてきたばかりのようで、下着しかはいていなかった。 「よろしくお願いします」 「律儀だね。で、世話役が俺でいいわけ?」 「いいも何もここに来たばかりですから」 「そうだよね。じゃあ、これからよろしく。あと、襲われたくなかったら単独行動は避けた方がいいよ」 佐々木に連れられた部屋には先客がいた。 「景、新しいメンバー?」 「そうだ。昨日言った佐伯冬馬。」 「よろしく。俺は勇利。メンバー内では年齢関係なく名前呼びが決まりだから冬馬って呼ぶぜ」 ターバンを巻いた少年がニカっと笑う。 「冬馬って26歳に見えないなぁ。童顔?」 「そう言われたことはあります」 「景の方が年上に見えるぜ」 「そりゃ、俺はここに長くいるからな」 景と勇利はグループを作りノルマをこなしていると言う。施設内には野蛮な人もいるらしい。 「高田豪鬼っていう筋肉マッチョがいてさ。アイツに気に入られた奴はムチャクチャにされて、他では満足できないようになるらしいぜ。冬馬、気をつけろよ」 自分より小柄な勇利の方が危ない気がするが、慣れていない自分も危機感を持った方がいいだろう。すると、後ろの扉が開き、新たな人物が入ってくる。 「怖がらせてどうするんですか、勇利」 「よっ!新人くん。遅れて悪いな景」 カーディガンを羽織った茶髪の男の後に続けて、スポーツマンのような黒髪短髪の男が入ってきた。 「勇利、前に頼まれていたキャラメルです。景には本一冊」 「ありがとうハル。達也もおつかれ」 「俺とハルのコンビならこれぐらいチョロいもんよ、いてっ」 「調子乗らないで下さい。最後、相手チームのロゼに鼻の下を伸ばして危うく負けるところでしたでしょ」 「可愛い子に目がいくのは仕方ねえ。でも、一番はハルだぜ」 「その冗談、面白くないですね」 ハルと呼ばれていた青年が冬馬の方を見て自己紹介をしてくれた。 「私は如月ハルト。メンバーにはハルと呼ばれています。こっちの筋肉バカは加山達也。」 「バカはないだろ。俺のことは達也でもタツでもいいぜ」 「達也は元ボクシング選手で運動神経がいい。勇利も走るのが速いんだ。ハルは記憶力がいいんで作戦を立ててもらっている」 景はノートを見せてくれた。 「ここでは弱肉強食みたいなところもあって、娯楽物や食料、服を得るためにゲームをするんだ。だから、自然とグループを作って勝ちを狙いに行くんだ」 「食料もですか?」 「そうだ。満たされると生存本能が低下するって理由でな。実際負けているところは食料を得るために他と交渉したり、権利を渡したりしている」 「権利・・・」 言うより見た方が早いと闘技場に向かうことになった。掲示板には今から対戦する相手なのだろうヤマトとロンという名前が表示されている。 「ヤマトが相手か。ロンも覚悟を決めたんだな」 ヤマトはナイフ、ロンは鎖を持ちリングに立っている。武器も自分の所持金で買わなければならない。ヤマトはナイフを振り回し、怯んだ隙に足をかけロンを倒す。 「ロン、大人しくしろよ」 「くそっ、離せ、やめろ!」 ロンに馬乗りになったヤマトはナイフで服を切り裂いていく。 「もう勝ち負けはついた筈だ。それなのにまだ続くのか!」 「ロンは負けを認めていない。気絶するか負けを認めれば試合は終了する。」 「そんな!」 「冬馬、覚えておけ。負ければ屈辱が待っている。今まで普通に出来ていたことがここでは勝つことでしか得られない。それにあれを見てみろ」 景が指すところを見るとお金のマークの隣の数字が増えていく。 「あれは」 「この試合を見てパトロンが気に入った奴に金を出してるんだよ。それだけじゃない。この施設内にいる奴も出資者になれる。武器の差し入れも可能だ」 ヤマトがロンを全裸にし腰を振る。お金を増やすために観客を煽り、まだ挿入していないが最後には好き勝手されるのだろう。 「彼らは生きるために参加した。恥ずかしくても辛くても道化を演じる。僕には彼らが強く見えるよ」 ハルトは行ってくると立ち去り、達也もついていった。景が言うには二人が少しでもたくさん稼げるようにお金を入れてくるらしい。 「この施設では倫理観?もないけどよ。正直、外の世界も強い者が好き勝手してる。俺は勝って勝って強者になる!」 勇利の言葉には強い意志が宿っていた。

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