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第1話:気になる奴は副会長

聖セントラル学園は山奥にある男子校。その隣には問題児や不良が集まる男子校・狼月高校があった。二校はいがみ合って対立していたが、少子化により合併することになってしまい今に至る。 「部活動の費用が安いだろうが!」 「当たり前です。窓ガラス、机、箒などどれほど壊せば気が済むんですか!」 狼月高校の生徒会長・高槻と聖セントラル学園の副会長・如月が廊下で言い争うのは日常的だった。周りはまたかと微笑ましく思っている者もいたが、喧嘩大好き狼月高校の不良たちは囃し立てる。 「俺のクラスは元気が良すぎてよ。これぐらい狼月では当たり前」 「狼月で当たり前でもセントラル、いえ一般的にもダメです!これで何回目ですか」 溜息をつく如月を宥めるように肩をポンポンと叩くが、すぐに振り払われる。 「もう話はありませんね。では、忙しいので失礼します」 長いクリーム色の髪を耳にかけ颯爽と去っていく如月の後ろを狼月はニヤニヤしながら見ていた。 高槻は如月のことが好きである。 喧嘩して教室に戻るのが面倒だったある日のこと。顔に擦り傷ができたまま保健室に向かうと講師はおらず、カーテンが閉められたベッドが一つ。 気にせず隣のベッドに寝転ぼうとするが咳き込む音が続いた。 「大丈夫かよ」 「はぁ、はぁ、み、水を」 熱があるのは丸分かりで、対立するセントラル学園の制服を着ているが仕方ないとペットボトルを差し出す。 「あ、ありがと」 「ほら、少し起きろ。ペットボトル持ってやるから飲め」 意識が朦朧としているのだろう。大人しく言うことをきく姿に、セントラルの中にも可愛い奴がいるじゃねえかと思い飲ませてあげる。 「んっ、んっ」 少し角度を上げすぎたのか青年の口の端から漏れ、慌てて袖で拭った。 「わりぃ」 「貴方、怪我して」 「これぐらい大したことねえよ」 「これ、使って下さい」 上着から自分のハンカチを取り出し青年は高槻に渡す。限界なのか再び寝てしまったが、高槻はハンカチを渡す青年の微笑みにみとれ結局使えなかった。 あの時の青年こそ如月であり、両学校の生徒会会議で睨む綺麗な顔にショックを受けたのだった。 そこからは何かと騒ぎを止めにくる如月と衝突し今では犬猿の仲と噂されるほどになる。 「なんなんだ、毎回毎回突っかかってきて、あの野蛮人!」 「如月、カリカリしすぎだ」 「若竹会長が出たらすぐ収まるかと。高槻だって静かになりますよ」 「俺は用事があるんでね。如月にこの件も任せる」 「佐藤先生から呼び出しですか?いいですけど、これは狼月のところの一年ですね。」 「他の奴も連れていけよ」 「心配しなくても私一人で片付けられます。」 「いくらお前が強くても、数が多ければ危ない」 「心配してくれる優しさがあるなら、一緒に来てほしいですけどね」 生徒会長・若竹は欠伸をしながら必要な書類を如月に渡す。若竹が如月を信頼し仕事を任す光景はセントラル学園の生徒会では恒例。やる時はやる若竹と支える如月の二人を恋人同士と思っている生徒もいるが、ただの腐れ縁である。 「志村、山吹は校内のパトロールを頼みます。私は視聴覚室で集まっている不良たちを追い出してきます。」 「如月先輩」 「何ですか?」 「無理しないでください」 志村の心配そうな顔に、安心させるよう頭を撫でる。 「私も鍛えている。不良に怖がっていたら副会長は出来ないよ」 そうではなくて、自分を連れて行ってほしいかったのだが、自信満々な表情で行ってしまった。 「高槻先輩、大変です!」 「うるせえ。何があった」 ダウンロードした漫画を見ていた高槻はすぐさま携帯を隠し、舎弟のヤスの報告を聞く。 「一年の鮫島のところに如月さんが乗り込むようです!」 「鮫島って誰だ」 「最近生意気な一年ですよ。呼び出しも来ないし、好き勝手してる奴がいるって前に言いましたよ」 「それで如月が何で鮫島のところに」 「視聴覚室で喫煙したりサボり場に使っているようです」 「はぁ。如月はか弱そうに見えるが強いぞ。一年に負けるとは」 「何するか分かりませんよ。如月さん美人ですからね〜日頃の恨みを晴らすためにあんなことやこんなことをするかも」 あんなことやこんなこと。如月が鮫島に襲われるなんて。 『やめて下さいっ』 『副会長さんがこんなことされてるなんて知られたらどうすんだ?』 『そんな』 『可愛がってやるからよ。股開いて見せてみろや』 『そ、そんな恥ずかしいことを?ひゃっ』 『ここヒクヒクしてるぜ。すぐに突っ込んでやるからな如月』 高槻は想像し、姿の知らない鮫島に怒りを爆発させる。 「鮫島の野郎!」 「ともあれ鮫島が如月さんに何するか分かりませんよ。助けたら株が上がるかも」 「ヤス」 「はい!」 「助けに行くぞ!」 「さすが高槻さん!」 高槻はすぐさま視聴覚室に向かった。ヤスはただ暴れたいだけだが、高槻の頭には鮫島に好きにされかける如月の姿しかなかった。 「如月副会長さんが何のようですか」 「鮫島ですね。ここはサボリ場ではないですよ。」 「それを言うためにわざわざ?」 鮫島は如月の前に立ち、顎をクイっとあげる。 「綺麗な顔がボロボロになりたくなかったら、さっさと帰りな」 如月を突き放すが、めげない。 「そういうわけにはいきません。ここを使いたい生徒もいるんです。あと、煙草は大人になってからです」 鮫島から煙草を取り上げようとすると手首を掴まれる。 「こんな山奥に入れられて楽しいことなんてねえんだよ。それともアンタが相手してくれんのか」 鮫島はもう片方の手で如月の腰を引き寄せ、股間を擦り付ける。如月は離れようとするが壁際まで追い詰められてしまう。 「な、何で反応してるんだ!」 「あ?そりゃ副会長さんを好き勝手できるからかな」 「ふざけるのもいい加減に「如月に手出しすんじゃねえ!」」 ドアを蹴破り吠える高槻が飛び蹴りし、鮫島が吹っ飛ぶ。 「高槻⁉︎どうしてここに?」 「如月、変なことされてねえか?」 「ええ、股間を擦り付けられたぐらいで」 「擦り付けられた⁈」 高槻が如月の股間を凝視すると頭にチョップされる。 「何、ジロジロ見てるんですか変態」 「はあ?見てねえよ!ったく心配して来てやったのに」 「心配、ですか」 「どうせいらぬお世話とか言うんだろ」 「ありがとう。心配してくれて」 「な、なんだよ礼なんて」 「心配させてしまったから言ったんだが」 急な如月のデレにキュンとするのも束の間、ヤスが声をかけ正気に戻る。 「俺も一応生徒会長だから、コイツにはちゃんと言っておく。」 「そうですか。分かりました。今日は現状注意だけでしたのでお任せします。では。」 帰ろうとする如月に、このままでいいのかと脳内で囁く奴がいる。今、喧嘩せずに普通に話せている。悪い雰囲気ではない。 「おい、如月」 「何ですかってうわっ」 「やっぱり男、だよな」 「どこ触ってるんですか!」 如月の下半身を掴んで揉んだ高槻の顔を平手打ちする。 「だって、何かの理由で男装して男子校に来た女子の可能性もあるだろ」 「高槻先輩、少女漫画じゃないんすから」 ヤスが呆れている。如月もありえないといった顔をしている。 「もういいですよね。他に仕事がありますので」 「えっ、待てよ」 「高槻のバカ」 「他に言いたいことが!」 高槻は結局言いたいことを言えず、片思いは続くのだった。

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